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第二章
感覚
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「魔法って…すごいですよね…」
「え?」
「俺が居た世界には、魔法なんてなかったから…」
琢磨は、雪達が居る方を見ているようで見ていないような視線を送りながら呟く。
「そう言えば、ミューさんは、攻撃魔法が得意なんですか?」
「あー…得意と言うか、私、魔法に関しては結構なんでも出来るんですよ(チートだからね)。ただ、ティアナが攻撃魔法が苦手なので、今日は私が補助員になったって訳です。」
「そうなんですね。俺、騎士として色んな攻撃魔法を取得したいから、何かあったらミューさんを頼って良いですか?」
ー嫌です。ギリューを頼って下さいー
「ギリュー様も、攻撃魔法は得意ですよ?私は…あまりタクマ様達の指導に当たる事はないと思うので…。」
やんわりと断りを入れておく。
「…ミューさんって…」
フードで見えないが、琢磨が私の方に体を向けるように姿勢をただしたのが、気配で分かったが、敢えて、私はそれに反応せずフードを深く被って前を向いたままでいる。
「…似てるんだよな…」
「え?」
あまりにも声が小さくて聞こえなかった。
顎に手を当て、何かを考えるようにした後、また私の方を見て
「あの…ミューさん。嫌ならいいんですけど…また顔を見せてもらうって事は…」
「出来れば"嫌"ですね。」
食い気味に返答する。
琢磨がどんな顔をしてるかなんて、分からない。暫く沈黙が続く。
「…昔…好きな子が居たんです。」
急に、でも静かに琢磨が話し出す。
「とても頑張り屋で泣き言なんて言わない。頼って欲しいのに…頼ってくれなくて。でも、そんな彼女の支えになりたくて…。大切にしたかったのに…」
膝の上に置いてある手をグッと握り締めている。
「…その…彼女とは…」
「彼女とは…もう…二度と会えないんです。二度と…。」
それは…死んでしまった私の事?それとも、召還されてあちらにはもう還れないからと言う事?
「それで…その彼女とミューさんの雰囲気?が何となく…似てるんですよね…」
「へ?」
思わず変な声が漏れた。
「何と言うか…前に一度顔を見た事あるけど、顔なんて全然似てないんですよ。髪の色だって目の色だって全然違うし。でも、こーやって近くに居ると…何となく懐かしいような苦しいような…これも、感覚が敏感になったせいかな?」
ーヤバくない?これも…チートなんだろうか?父もそうだったんだろうか?いや、私は父の側に居てもそんな感覚はなかったな。これって、やっぱり私の"鍵"となる人だからだろうか?ー
「あー、変な事言ってすみません。その…気にしないで下さい。」
私が返事もせず黙っていると、琢磨は慌てて謝って来た。別に気を悪くしたとかでは無いと言おうとした時
「休憩中ですか?」
「ーえっ!?」
「今日の指導者は、ギリューとミューだったんだな。」
聞き覚えのある声に振り返れば、ルドヴィル王子が声を掛けて来た。立ち上がり挨拶をする。
「私とは…初めてですね?」
王子の隣に居る紳士が私と琢磨を見る。
「私は、イグニアス=ヴァル=レイナイトだ。」
ーお父さん…再会、早くないですか?ー
フードの中で遠い目をする。
「俺…私はタクマ=イトウです。宜しくお願い致します。レイナイト…と言うと、侯爵様でしたよね?」
「おや、知っているとは…嬉しい限りです。」
何だろう?ちょっと笑顔が黒くない?気のせい…かな?
「…初めまして。私は上級位魔導師のミューでございます。」
私も挨拶を交わす。軽く礼をして、頭を上げた時
「ルドヴィル様!いらしてたのですね!」
雪が私のすぐ後ろから王子に声を掛けて来た。
「!?」
そのままの勢いで王子の前まで行く。チラリとギリューを見ると、ギリューも困った様な顔をしている。
ー何だこれ?デジャブかな?前にもあったよね?あれー??ー
父に至っては無表情だ。琢磨は…眉間に皺が寄っている。騎士は規律に厳しい。きっと、上下間系の躾もキッチリしている筈。だから、雪の王子に対する態度に不快感を滲ませているのだろう。琢磨は、こちらの世界に馴染もうとしている。でも、雪はどうだろう。雪だってこちらの世界についての歴史やマナーなど習っている筈なのに。確かに、聖女であるが故に王族が相手であろうが、ある程度は許される。許されるが、守らなくてもいい訳じゃない。この世界に限らず、そこで生きていくならば、そこでのルールは守るべきではないだろうか?きっと、誰も強く注意をする事ができないのだろう。異世界から来たと言う事実があるから。この世界を救う為に、彼女の未来を奪ったと言う事実があるから。もう、元の世界には還れないから。
「雪…何度言えば解る?」
酷く冷めた声で、琢磨が雪に声を掛ける。
ーえ?今の琢磨の声?ー
「何を教えてもらっている?ルドヴィル様は王子だ。基本、婚約者でもないのだから、王子と呼ぶべきだ。それに、王子に無闇に近付くのも触れるのも失礼にあたる。」
雪は、パチクリと瞬きをして琢磨を見てから、眉をへにょりと下げ
「でも…日本では普通の事だったからつい…ごめんなさい。」
ーあざとくない?ー
私は、この時初めて雪の本質に気付いた気がした。
「え?」
「俺が居た世界には、魔法なんてなかったから…」
琢磨は、雪達が居る方を見ているようで見ていないような視線を送りながら呟く。
「そう言えば、ミューさんは、攻撃魔法が得意なんですか?」
「あー…得意と言うか、私、魔法に関しては結構なんでも出来るんですよ(チートだからね)。ただ、ティアナが攻撃魔法が苦手なので、今日は私が補助員になったって訳です。」
「そうなんですね。俺、騎士として色んな攻撃魔法を取得したいから、何かあったらミューさんを頼って良いですか?」
ー嫌です。ギリューを頼って下さいー
「ギリュー様も、攻撃魔法は得意ですよ?私は…あまりタクマ様達の指導に当たる事はないと思うので…。」
やんわりと断りを入れておく。
「…ミューさんって…」
フードで見えないが、琢磨が私の方に体を向けるように姿勢をただしたのが、気配で分かったが、敢えて、私はそれに反応せずフードを深く被って前を向いたままでいる。
「…似てるんだよな…」
「え?」
あまりにも声が小さくて聞こえなかった。
顎に手を当て、何かを考えるようにした後、また私の方を見て
「あの…ミューさん。嫌ならいいんですけど…また顔を見せてもらうって事は…」
「出来れば"嫌"ですね。」
食い気味に返答する。
琢磨がどんな顔をしてるかなんて、分からない。暫く沈黙が続く。
「…昔…好きな子が居たんです。」
急に、でも静かに琢磨が話し出す。
「とても頑張り屋で泣き言なんて言わない。頼って欲しいのに…頼ってくれなくて。でも、そんな彼女の支えになりたくて…。大切にしたかったのに…」
膝の上に置いてある手をグッと握り締めている。
「…その…彼女とは…」
「彼女とは…もう…二度と会えないんです。二度と…。」
それは…死んでしまった私の事?それとも、召還されてあちらにはもう還れないからと言う事?
「それで…その彼女とミューさんの雰囲気?が何となく…似てるんですよね…」
「へ?」
思わず変な声が漏れた。
「何と言うか…前に一度顔を見た事あるけど、顔なんて全然似てないんですよ。髪の色だって目の色だって全然違うし。でも、こーやって近くに居ると…何となく懐かしいような苦しいような…これも、感覚が敏感になったせいかな?」
ーヤバくない?これも…チートなんだろうか?父もそうだったんだろうか?いや、私は父の側に居てもそんな感覚はなかったな。これって、やっぱり私の"鍵"となる人だからだろうか?ー
「あー、変な事言ってすみません。その…気にしないで下さい。」
私が返事もせず黙っていると、琢磨は慌てて謝って来た。別に気を悪くしたとかでは無いと言おうとした時
「休憩中ですか?」
「ーえっ!?」
「今日の指導者は、ギリューとミューだったんだな。」
聞き覚えのある声に振り返れば、ルドヴィル王子が声を掛けて来た。立ち上がり挨拶をする。
「私とは…初めてですね?」
王子の隣に居る紳士が私と琢磨を見る。
「私は、イグニアス=ヴァル=レイナイトだ。」
ーお父さん…再会、早くないですか?ー
フードの中で遠い目をする。
「俺…私はタクマ=イトウです。宜しくお願い致します。レイナイト…と言うと、侯爵様でしたよね?」
「おや、知っているとは…嬉しい限りです。」
何だろう?ちょっと笑顔が黒くない?気のせい…かな?
「…初めまして。私は上級位魔導師のミューでございます。」
私も挨拶を交わす。軽く礼をして、頭を上げた時
「ルドヴィル様!いらしてたのですね!」
雪が私のすぐ後ろから王子に声を掛けて来た。
「!?」
そのままの勢いで王子の前まで行く。チラリとギリューを見ると、ギリューも困った様な顔をしている。
ー何だこれ?デジャブかな?前にもあったよね?あれー??ー
父に至っては無表情だ。琢磨は…眉間に皺が寄っている。騎士は規律に厳しい。きっと、上下間系の躾もキッチリしている筈。だから、雪の王子に対する態度に不快感を滲ませているのだろう。琢磨は、こちらの世界に馴染もうとしている。でも、雪はどうだろう。雪だってこちらの世界についての歴史やマナーなど習っている筈なのに。確かに、聖女であるが故に王族が相手であろうが、ある程度は許される。許されるが、守らなくてもいい訳じゃない。この世界に限らず、そこで生きていくならば、そこでのルールは守るべきではないだろうか?きっと、誰も強く注意をする事ができないのだろう。異世界から来たと言う事実があるから。この世界を救う為に、彼女の未来を奪ったと言う事実があるから。もう、元の世界には還れないから。
「雪…何度言えば解る?」
酷く冷めた声で、琢磨が雪に声を掛ける。
ーえ?今の琢磨の声?ー
「何を教えてもらっている?ルドヴィル様は王子だ。基本、婚約者でもないのだから、王子と呼ぶべきだ。それに、王子に無闇に近付くのも触れるのも失礼にあたる。」
雪は、パチクリと瞬きをして琢磨を見てから、眉をへにょりと下げ
「でも…日本では普通の事だったからつい…ごめんなさい。」
ーあざとくない?ー
私は、この時初めて雪の本質に気付いた気がした。
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