初恋の還る路

みん

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第一章

後始末

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『レイナイト侯爵令嬢が…見付かりました。』

ミシュエルリーナ=ティリス=レイナイト侯爵令嬢が見付かったのは、行方不明になってから一週間程経ってからだった。その知らせが早馬で王宮迄届くと、レイナイト侯爵は邸へと急ぎ帰った。


「遺体の損傷が激しくて…顔は…分からなかったそうだが、髪がピンクブロンドなのと、着ていたドレスで…レイナイト侯爵令嬢だと…判断できたらしい。」

瑠璃宮殿の執務室に、レイナイト侯爵家からの知らせを受けたギリューが、報告をしに来た。

その場に居たティアナは「そんな…」と、口を手で隠しながら囁き、魔導師長は何かに耐える様に目を瞑った。

ミューわたしは…

ーフードを被ってて良かったー

 魔導師長は静かに椅子から立ち上がり、そのまま無言で執務室から出て行った。

「魔導師長、大丈夫かしら?」

「…大丈夫…じゃないだろう?噂では、王弟殿下が、レイナイト侯爵令嬢を見初めたって…持ちきりだったし、多分、本当だったんじゃないかな?」

ー…色んな意味で…心が痛い…ー

魔導師長は、ミシュエルリーナが行方不明になってから、笑わなくなった。いや、いつも通り振る舞っているのに、顔に影を落としていた。そんな魔導師長を見ているのは、正直辛かった。

ーこれで、魔導師長に区切りが着けば良いんだけどー



その日から3日後、社交デビューもせず、深窓の令嬢と言う事で、レイナイト侯爵の領地にある教会で、葬儀はささやかに執り行われた。されど侯爵令嬢。ささやか過ぎでは?やはり、侯爵に虐げられていた?とくちさがない者も居たが、遺体の損傷が激しかった事もあり、誰の目にも晒したくなかったのでは?と言われれば仕方の無い事だと話は落ち着いた。勿論、王弟殿下もひっそりと参列したらしい。

そして、その日の夕方、私はこっそりと青い小鳥を飛ばした。







「お帰りー」

「…ただいま?なの?」

私は、転移魔法でレイナイト侯爵家別邸へとやって来た。
小鳥手紙を父に飛ばしていたからか、父が別邸で私を待ち構えて居たのだ。

「レイナイト侯爵様が、別邸ここに1人で居ても大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。私は、娘の死を悲しみ、別邸でお前を思いながら数日過ごしているーと言う事になっているらしいから。」

まるで他人事のように語る父に苦笑する。

「それと、勿論、今は別邸全体に遮断魔法を掛けてるから、お前も何も気にしなくて良いからね。私としては寂しいが…ミシュエルリーナの後始末をしないとね。」

"後始末"…言い方!言い方が恐いから!
私がこれこらミューとして生きて行く為に、ミシュエルリーナの私物などを片付けに来たのだ。そう。文字通り、本当に整理整頓しに来ただけなのだ。ちょっと訊きたい事もあったし…。




「お父さん、訊いて良いかな?」

「あぁ…。色々知りたい事があるんだろう?何でも訊いてくれ。」

粗方片付けも終わり掛けたところで、父に尋ねた。

「エル…エルラインは…大丈夫?」

エルの事は一番気掛かりだった。この一週間、エルの話は全く聞かなかったのだ。

「あー…エルラインな…。」

頭をポリポリかきながら困った顔をした。

どうやら、エルが一番大変だったらしい。私が行方不明と知るとその場で失神。丸一日眠り続け、次に目を覚ましてからミシュエルリーナが発見される迄は不眠症に陥り、更に情緒も不安定になった。そこで遺体発見。しかも損傷が激しいときた。それでも!と止めるルティウス様や父やコーライルをものともせずに遺体に駆け寄った。が、あまりにも酷い義姉の姿を目の当たりにしたエルラインは、その場でまたもや失神。今もまだベッドの上らしい。

「エル…」

本当に…こちらも罪悪感が半端無い…。こんな事になるなら、あの日、一緒にお茶などしなければ良かった?…。

「お前達が、夜会に行く前に打ち解けあった事は知っている。それがなければ、ここまで酷くなってなかったのにと思うのは間違いだぞ。」

「え?」

「それが無くても、エルラインはきっと同じ状態になっていただろう。いや、寧ろ、"ああしていれば良かった!"と後悔が募り、もっと酷い状態に陥っていた可能性の方が大きいな。
打ち解けた事実がある。エルラインなら、それを大切にして前に進んで行けるだけの力はある筈だ。今すぐには無理だろうが…あの子なら大丈夫だ。」

確かに。エルなら…本当の私を見てくれていた子だ。きっと前に…進めるだろう。

「それに、ルティウス殿が居るしな。どうやら、ルティウス殿はエルラインに好意を持っているようだよ。今も、付きっきりで本邸に居るからね。」

おぅ…それは…良かった。夜会での2人のダンスを見た時、楽しそうな幸せそうに見えてのは、間違いじゃなかったのね。良かった。

「お父さん、これ…私の形見分けって事で、エルに渡してくれる?」

そう言って、小さなピンクダイヤのシンプルなネックレスを父に手渡す。

「お母様が亡くなる前に、お兄様にはピアス。私にはネックレスをくれてたの。それで…その私のネックレスと同じ物を作ったの。兄妹の印にね。」

「分かった。必ずエルラインに渡すよ。アレにも文句は言わせないから安心しろ!」

と、黒い笑顔を見せる父だった。

あー…やっぱり"アレ"呼ばわりなんですね…。
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