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第一章
捜索
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カーンハイル公爵家の応接室には、コーライル、ルティウス、エルライン、キャスリーンが椅子に座り、壁際にカーンハイル家の執事と、紅茶の準備を終えたメイドが控えていた。
「さて…どこから話そうかな…。あ、先ずは…ルティウス様、義母上とエルラインの事、ありがとうございます。」
「いや…そこは気にしないでもらいたい。エルラインは私の婚約者だし、困った時はお互い様だろう?」
「ありがとうございます。」
コーライルがもう一度お礼を言う。それから、ゆっくりと視線をエルラインとキャスリーンに向けると、軽く息を吐く。
「…特に…エルライン、落ち着いて聞いて欲しい。」
コーライルも、エルラインがミシュエルリーナを慕っていると言う事を知っているが故の言葉だった。
「昨日の夜会の帰りに、ミシュエルリーナが乗った馬車が何者かに襲撃されてね。逃げる途中…馬車が崖から落ちてしまって…」
コーライルが一瞬言い淀む。
「執事や御者は無事だったんだが…中に居たミシュエルリーナは…そのまま川に流されてしまったようで…未だに見付かっていないんだ。」
エルラインの顔色が、一気に血の気を失ったように白くなった。キャスリーンでさえ、言葉を失い目を大きく見開いている。
「そん…な…」
「「エルライン!?」」
エルラインは、その場で意識を失い、倒れ掛けたところをルティウスが抱き留めた。
そのまま、ルティウスの指示でエルラインは宛がわれた部屋のベッドに寝かされた。
ーその頃のレイナイト侯爵邸ー
「まさか…王弟殿下が出て来るとはなぁ…」
執務室でレイナイト侯爵が独り言つ。
レイナイト侯爵…イグニアス=ヴァル=レイナイト侯爵は、4~5日程川沿いを捜索し、程よいタイミングを見計らってチートを発揮させようと思っていた。
思っていたのに…
ミシュエルリーナが行方不明と聞き付けた、王弟殿下ことハルシオンが
『私も捜索に参加する。』
と言って来たのだ。夜会でのミシュエルリーナに対する態度に、まさかとは思ったが…少し厄介な事になったな…。
相手は魔導師の長を務めるのだから、魔力も強いし大きい。それでも、チート万歳!私の方が上だ。だからと言って、油断できないが…何よりミューの為だ。必ず成功させるが。
おそらく、明日あたり、王弟殿下は一度王宮に戻る筈…ならば、動くのは明日か。そう思い巡らせ、机の引き出しからある物を取り出す。
ピンクブロンドの色の一房の髪束。ミシュエルリーナ本人から、髪を少し切ってもらった物だ。これを依り代のようにしてミシュエルリーナの遺体を作るのだ。
「まさか、自分の娘の遺体を作る事になるなんてな…」
自嘲気味に笑うと、その髪束を引き出しに戻した。
ーその頃の瑠璃宮殿ー
「レイナイト侯爵令嬢が、まだ見付からないみたい。」
ティアナが悲しそうな顔で囁いた。
「…ティアナは…その令嬢の事知ってたの?」
ひきつりそうになる顔を我慢しながら、ティアナに声を掛ける。
「相手は侯爵令嬢よ?私は知らなかったのだけど、夜会の日にちょっと訳あって、近くで見る事があってね…」
ーはい、知ってます。雪の我が儘(?)のせいですよねー
「丁度前日に、魔導師長とギリューとその令嬢の話をしててね。どんな人なのか気になってたのよ。そうしたら、間近で見れちゃってね。もー、本当に綺麗な人だったの!!もーね、立ってるだけで綺麗なの!困ったような顔をしながら私を気遣ってくれてね!その顔も綺麗だったの!!」
ー恥ずかしい!そんなに綺麗綺麗言わないで欲しい!と言うか、その3人で何の話をしていたの!?ー
「そ…そーなんだ…」
「あの魔導師長と並んで立ってると、とってもお似合いだったなぁ…なのに…こんな事になるなんてね…」
「………」
ー罪悪感が…半端無い…ー
自分の事しか考えていなかった。こんなに周りに迷惑を掛けるとは思わなかった。チラリと、普段魔導師長が座っている椅子を見る。
ミシュエルリーナが行方不明だと判明すると、魔導師長は真っ先にレイナイト侯爵に連絡をとり、魔導師長自ら捜索に参加する事を願い出たのだ。
色んな意味で驚いた。あの夜会での態度と言葉で、ミシュエルリーナに多少なりとも興味?好意?があるのだろうとは思っていたけど…何となく、モヤッとする気持ちには蓋をする。
とにかくー。魔導師長が居る限り油断はできないけど、あの父の事だ。きっと…うまくやってくれるだろう。チートだし…。
「…どんな形にせよ…見付かると良いわね…」
と、ティアナが言った。
ガチャリ
「魔導師長!」
部屋の扉が開き、捜索に行っていた魔導師長が帰って来た。
「お疲れ様です。それで…レイナイト侯爵令嬢は、見付かったのですか?」
「…いや。まだ、見付かっていない。」
ティアナからの問い掛けに答えながら、ドカッと苛立ちを隠す事もなく、魔導師長は椅子に座った。
「…彼女に魔力があったら…すぐにでも追い掛けられたが…範囲も広げて捜索したが…痕跡さえ見付けられなかった…」
両膝の上に両肘を乗せ手を組み、その組んだ手の上に額を乗せ俯きながら言う。
ー実は、ここに居ますー
とは、勿論言えない。疲れきった魔導師長に心の中で謝る事しかできなかった。
「さて…どこから話そうかな…。あ、先ずは…ルティウス様、義母上とエルラインの事、ありがとうございます。」
「いや…そこは気にしないでもらいたい。エルラインは私の婚約者だし、困った時はお互い様だろう?」
「ありがとうございます。」
コーライルがもう一度お礼を言う。それから、ゆっくりと視線をエルラインとキャスリーンに向けると、軽く息を吐く。
「…特に…エルライン、落ち着いて聞いて欲しい。」
コーライルも、エルラインがミシュエルリーナを慕っていると言う事を知っているが故の言葉だった。
「昨日の夜会の帰りに、ミシュエルリーナが乗った馬車が何者かに襲撃されてね。逃げる途中…馬車が崖から落ちてしまって…」
コーライルが一瞬言い淀む。
「執事や御者は無事だったんだが…中に居たミシュエルリーナは…そのまま川に流されてしまったようで…未だに見付かっていないんだ。」
エルラインの顔色が、一気に血の気を失ったように白くなった。キャスリーンでさえ、言葉を失い目を大きく見開いている。
「そん…な…」
「「エルライン!?」」
エルラインは、その場で意識を失い、倒れ掛けたところをルティウスが抱き留めた。
そのまま、ルティウスの指示でエルラインは宛がわれた部屋のベッドに寝かされた。
ーその頃のレイナイト侯爵邸ー
「まさか…王弟殿下が出て来るとはなぁ…」
執務室でレイナイト侯爵が独り言つ。
レイナイト侯爵…イグニアス=ヴァル=レイナイト侯爵は、4~5日程川沿いを捜索し、程よいタイミングを見計らってチートを発揮させようと思っていた。
思っていたのに…
ミシュエルリーナが行方不明と聞き付けた、王弟殿下ことハルシオンが
『私も捜索に参加する。』
と言って来たのだ。夜会でのミシュエルリーナに対する態度に、まさかとは思ったが…少し厄介な事になったな…。
相手は魔導師の長を務めるのだから、魔力も強いし大きい。それでも、チート万歳!私の方が上だ。だからと言って、油断できないが…何よりミューの為だ。必ず成功させるが。
おそらく、明日あたり、王弟殿下は一度王宮に戻る筈…ならば、動くのは明日か。そう思い巡らせ、机の引き出しからある物を取り出す。
ピンクブロンドの色の一房の髪束。ミシュエルリーナ本人から、髪を少し切ってもらった物だ。これを依り代のようにしてミシュエルリーナの遺体を作るのだ。
「まさか、自分の娘の遺体を作る事になるなんてな…」
自嘲気味に笑うと、その髪束を引き出しに戻した。
ーその頃の瑠璃宮殿ー
「レイナイト侯爵令嬢が、まだ見付からないみたい。」
ティアナが悲しそうな顔で囁いた。
「…ティアナは…その令嬢の事知ってたの?」
ひきつりそうになる顔を我慢しながら、ティアナに声を掛ける。
「相手は侯爵令嬢よ?私は知らなかったのだけど、夜会の日にちょっと訳あって、近くで見る事があってね…」
ーはい、知ってます。雪の我が儘(?)のせいですよねー
「丁度前日に、魔導師長とギリューとその令嬢の話をしててね。どんな人なのか気になってたのよ。そうしたら、間近で見れちゃってね。もー、本当に綺麗な人だったの!!もーね、立ってるだけで綺麗なの!困ったような顔をしながら私を気遣ってくれてね!その顔も綺麗だったの!!」
ー恥ずかしい!そんなに綺麗綺麗言わないで欲しい!と言うか、その3人で何の話をしていたの!?ー
「そ…そーなんだ…」
「あの魔導師長と並んで立ってると、とってもお似合いだったなぁ…なのに…こんな事になるなんてね…」
「………」
ー罪悪感が…半端無い…ー
自分の事しか考えていなかった。こんなに周りに迷惑を掛けるとは思わなかった。チラリと、普段魔導師長が座っている椅子を見る。
ミシュエルリーナが行方不明だと判明すると、魔導師長は真っ先にレイナイト侯爵に連絡をとり、魔導師長自ら捜索に参加する事を願い出たのだ。
色んな意味で驚いた。あの夜会での態度と言葉で、ミシュエルリーナに多少なりとも興味?好意?があるのだろうとは思っていたけど…何となく、モヤッとする気持ちには蓋をする。
とにかくー。魔導師長が居る限り油断はできないけど、あの父の事だ。きっと…うまくやってくれるだろう。チートだし…。
「…どんな形にせよ…見付かると良いわね…」
と、ティアナが言った。
ガチャリ
「魔導師長!」
部屋の扉が開き、捜索に行っていた魔導師長が帰って来た。
「お疲れ様です。それで…レイナイト侯爵令嬢は、見付かったのですか?」
「…いや。まだ、見付かっていない。」
ティアナからの問い掛けに答えながら、ドカッと苛立ちを隠す事もなく、魔導師長は椅子に座った。
「…彼女に魔力があったら…すぐにでも追い掛けられたが…範囲も広げて捜索したが…痕跡さえ見付けられなかった…」
両膝の上に両肘を乗せ手を組み、その組んだ手の上に額を乗せ俯きながら言う。
ー実は、ここに居ますー
とは、勿論言えない。疲れきった魔導師長に心の中で謝る事しかできなかった。
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