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第一章
カーンハイル公爵邸
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夜会の途中で、ミシュエルリーナと一緒に帰路に就いた筈のゼスが、真っ青な顔をして早馬で王宮に居るレイナイト侯爵の元に戻って来た。ゼスが、レイナイト侯爵の耳元で何かを告げると、普段無表情である侯爵の顔が歪んだ。
「エルライン、ルティウス殿、緊急事態が起きたので私は先に帰る。お前達は、今から控室に居るキャスリーンの所に行き、今日はカーンハイル邸に行ってくれ。カーンハイル公爵殿には、私の方から説明しておく。」
「お父様、何か…お義姉様に何かあったのですか?」
エルラインが、不安気に父である侯爵に問う。
「…エルライン。こちらが落ち着いたら説明する。今は時間がないから、さっき言った通りにしなさい。いいね?」
「…分かり…ました…。」
普段はあまり表情を表に出さない侯爵が、少し顔色を悪く焦っている様子に、周りに居る者達も何があったのかと、遠巻きながら見ていた。
そこからのレイナイト侯爵の動きは早かった。急ぎ足で国王陛下に事情を説明しに行き、その間に執事であるゼスがカーンハイル公爵に事情を説明し、エルラインとキャスリーンの事をお願いしていた。そして、2人はそのまま急ぎ足で会場を後にした。
会場は騒然となったが、国王陛下が場を仕切り直し、また穏やかなムードに戻り、予定通りパーティーは続いたのである。
控室に居て、会場で起こった事を全く知らないキャスリーンだったが、エルラインとルティウスと一緒にやって来たカーンハイル公爵から、今日は我が家で過ごして貰うと言われ、4人でカーンハイル家に向かった。
何が起こったのか。カーンハイル公爵は、レイナイト侯爵から聞いているのか、顔色が悪い。ルティウスが何があったのか?と訊いても
「…私の口から言うのは止めておく。」
と言ったきり、黙り込んでしまった。
その様子に、エルラインは更に怖くなった。義姉であるミシュエルリーナに何かあったのかもしれないと。しかも、最悪な事態にー。涙が出そうになるのも、手が震えるのも必死に耐えた。その様子に気付いたルティウスは、そっとエルラインの手を握った。
カーンハイル公爵邸は、王宮から馬車で10分程の所にあり、急な来客有りの帰りだったが、流石は公爵家と言ったところか。公爵夫人を筆頭に4人の帰りをほぼ総出で出迎えた。
「今夜はゆっくり休んで欲しい。レイナイト侯爵殿から連絡があり次第、すぐに知らせよう。」
そう言って、カーンハイル公爵は自室へと下がり、キャスリーンとエルラインは各々客室へと案内された。
その日は、義姉の事が心配で、エルラインは寝る事ができなかった。
翌日、カーンハイル公爵と息子であるルティウスも王宮からの早馬があり、早朝より王宮に向かった。その日はカーンハイル公爵からもレイナイト侯爵からも何も連絡が入らず、キャスリーンとエルラインはもう1日カーンハイル公爵邸に泊まる事になった。
「明日、レイナイト侯爵家から、コーライル殿がカーンハイル公爵邸に、2人を迎えに来るそうだ。」
その日の夜遅くに帰って来たカーンハイル公爵が、キャスリーンとエルラインに告げた。
「お義兄様が…ですか?」
「あぁ…。レイナイト侯爵殿は、まだ手が離せない状況でね。その代わりに、領地からこちらに出て来たコーライル殿が来るそうだ。」
たった1日だと言うのに、カーンハイル公爵は、疲労感が漂っていて、今にでも倒れそうな程顔色が悪い。
キャスリーンは、何も思う事が無いかのように公爵の話を聞いている。
「公爵様…まだ、何が起こっているのか、教えて頂けませんか?いえ…お義姉様に…何かあったのですか?」
エルラインは、震えそうになる体を抑え公爵に問い掛ける。
「エルライン嬢…」
カーンハイル公爵は、そう口にした後、苦しそうな顔をして黙り込む。
「すまない。明日、コーライル殿から聞いてくれ。」
その答えに、エルラインは、義姉に何かあったのだと悟った。カーンハイル公爵に否定して欲しかった。何が起こっているのか教えてもらえなくても、義姉は大丈夫なのだと言って欲しかったのに、義姉に最悪な事態が起こったと言う事が現実味を帯びたのだ。
そこから、エルラインは自分がどうやって自分に宛がわれた客室迄戻ったのか覚えていなかった。
この日も寝付けず、翌日はコーライルの迎えを待った。そして、そのコーライルは、お昼過ぎにカーンハイル公爵邸にやって来た。
「お義兄様!」
エルラインは、玄関でコーライルの到着を待ち、馬車から降りて来たコーライルの姿を確認すると、周りも気にせず走り出しコーライルに抱きついた。
「エルライン!?」
これには一緒に居たルティウスも、勿論コーライル自身も驚いた。
「お義兄様、お義姉様は…お義姉様は…大丈夫なのですか?ご無事なのですよね!?」
エルラインが、コーライルの服をギュッと握りしめ、コーライルを見上げながら問う。
「エルライン…」
コーライルは、何かに耐えるように眉間に皺を寄せて、でも優しい手つきでエルラインの手を握った。
「…ここでは落ち着いて話せないから…中に入れてもらおうか?」
そう言うと、公爵家の執事に案内され、応接室に入って行った。
「エルライン、ルティウス殿、緊急事態が起きたので私は先に帰る。お前達は、今から控室に居るキャスリーンの所に行き、今日はカーンハイル邸に行ってくれ。カーンハイル公爵殿には、私の方から説明しておく。」
「お父様、何か…お義姉様に何かあったのですか?」
エルラインが、不安気に父である侯爵に問う。
「…エルライン。こちらが落ち着いたら説明する。今は時間がないから、さっき言った通りにしなさい。いいね?」
「…分かり…ました…。」
普段はあまり表情を表に出さない侯爵が、少し顔色を悪く焦っている様子に、周りに居る者達も何があったのかと、遠巻きながら見ていた。
そこからのレイナイト侯爵の動きは早かった。急ぎ足で国王陛下に事情を説明しに行き、その間に執事であるゼスがカーンハイル公爵に事情を説明し、エルラインとキャスリーンの事をお願いしていた。そして、2人はそのまま急ぎ足で会場を後にした。
会場は騒然となったが、国王陛下が場を仕切り直し、また穏やかなムードに戻り、予定通りパーティーは続いたのである。
控室に居て、会場で起こった事を全く知らないキャスリーンだったが、エルラインとルティウスと一緒にやって来たカーンハイル公爵から、今日は我が家で過ごして貰うと言われ、4人でカーンハイル家に向かった。
何が起こったのか。カーンハイル公爵は、レイナイト侯爵から聞いているのか、顔色が悪い。ルティウスが何があったのか?と訊いても
「…私の口から言うのは止めておく。」
と言ったきり、黙り込んでしまった。
その様子に、エルラインは更に怖くなった。義姉であるミシュエルリーナに何かあったのかもしれないと。しかも、最悪な事態にー。涙が出そうになるのも、手が震えるのも必死に耐えた。その様子に気付いたルティウスは、そっとエルラインの手を握った。
カーンハイル公爵邸は、王宮から馬車で10分程の所にあり、急な来客有りの帰りだったが、流石は公爵家と言ったところか。公爵夫人を筆頭に4人の帰りをほぼ総出で出迎えた。
「今夜はゆっくり休んで欲しい。レイナイト侯爵殿から連絡があり次第、すぐに知らせよう。」
そう言って、カーンハイル公爵は自室へと下がり、キャスリーンとエルラインは各々客室へと案内された。
その日は、義姉の事が心配で、エルラインは寝る事ができなかった。
翌日、カーンハイル公爵と息子であるルティウスも王宮からの早馬があり、早朝より王宮に向かった。その日はカーンハイル公爵からもレイナイト侯爵からも何も連絡が入らず、キャスリーンとエルラインはもう1日カーンハイル公爵邸に泊まる事になった。
「明日、レイナイト侯爵家から、コーライル殿がカーンハイル公爵邸に、2人を迎えに来るそうだ。」
その日の夜遅くに帰って来たカーンハイル公爵が、キャスリーンとエルラインに告げた。
「お義兄様が…ですか?」
「あぁ…。レイナイト侯爵殿は、まだ手が離せない状況でね。その代わりに、領地からこちらに出て来たコーライル殿が来るそうだ。」
たった1日だと言うのに、カーンハイル公爵は、疲労感が漂っていて、今にでも倒れそうな程顔色が悪い。
キャスリーンは、何も思う事が無いかのように公爵の話を聞いている。
「公爵様…まだ、何が起こっているのか、教えて頂けませんか?いえ…お義姉様に…何かあったのですか?」
エルラインは、震えそうになる体を抑え公爵に問い掛ける。
「エルライン嬢…」
カーンハイル公爵は、そう口にした後、苦しそうな顔をして黙り込む。
「すまない。明日、コーライル殿から聞いてくれ。」
その答えに、エルラインは、義姉に何かあったのだと悟った。カーンハイル公爵に否定して欲しかった。何が起こっているのか教えてもらえなくても、義姉は大丈夫なのだと言って欲しかったのに、義姉に最悪な事態が起こったと言う事が現実味を帯びたのだ。
そこから、エルラインは自分がどうやって自分に宛がわれた客室迄戻ったのか覚えていなかった。
この日も寝付けず、翌日はコーライルの迎えを待った。そして、そのコーライルは、お昼過ぎにカーンハイル公爵邸にやって来た。
「お義兄様!」
エルラインは、玄関でコーライルの到着を待ち、馬車から降りて来たコーライルの姿を確認すると、周りも気にせず走り出しコーライルに抱きついた。
「エルライン!?」
これには一緒に居たルティウスも、勿論コーライル自身も驚いた。
「お義兄様、お義姉様は…お義姉様は…大丈夫なのですか?ご無事なのですよね!?」
エルラインが、コーライルの服をギュッと握りしめ、コーライルを見上げながら問う。
「エルライン…」
コーライルは、何かに耐えるように眉間に皺を寄せて、でも優しい手つきでエルラインの手を握った。
「…ここでは落ち着いて話せないから…中に入れてもらおうか?」
そう言うと、公爵家の執事に案内され、応接室に入って行った。
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