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第一章
閑話ーハルシオン視点ー
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*この話の前に、もう一話(閑話を)投稿しています*
『レイナイト侯爵令嬢、ミシュエルリーナ様、エルライン様、ご入場です』
会場のざわめきが一瞬にして静かになる。
その名前に吸い寄せられるように、視線をかの令嬢に向ける。
彼女は、父親であるレイナイト侯爵にエスコートされながら入場して来た。
『カーンハイル公爵の嫡男と婚約したのでは?』
と言う噂があったが、どうやらその相手は妹の方だったようだ。
兄である陛下と妃殿下に挨拶をする"深窓の令嬢"と言われる彼女のカーテシーは、他のどの令嬢よりも完璧で美しいと思った。
兄達に挨拶をし、後ろに下がろうとする彼女が、レイナイト侯爵が横に移動する動きに気付き、そこで初めて私に気付いたようで、少し目を見開きこちらを見た。
ー他の女性なら、我こそ先にと私の前に来て媚を売りに来るのにー
「…王弟殿下、初めてお目通り致します。レイナイト侯爵家長女、ミシュエルリーナでございます。」
姉妹ともに挨拶を受け、すぐに顔を上げるように言う。
ーあぁ…この瞳だー
淡いラベンダー色の、儚い感じではあるが、意思をハッキリ持っている瞳。その瞳に自分が映っている。そう思うだけで体が熱くなるような気がした。
どうやら、彼女は見た目の美しさとは真逆で、思った事はハッキリ言うタイプのようだ。それもまた面白くて興味がより沸いてくる。もっと話がしたいと思ったが、彼女達は早々に下がって行った。
ー本当に…私には全く興味が無いのだなー
そんな自惚れた馬鹿な自分に苦笑する。
それから、ルドヴィルが聖女様とタクマ殿と入場し、2人のお披露目と挨拶が始まった。
ふと、かの令嬢が気になり視線だけで探す。どうやら、レイナイト侯爵と壁の花になっているようだ。そんな彼女を見ていると…タクマ殿を見るその目が、切なそうに歪んでいるように見えた。
ー何故、そんな目を彼に向ける?ー
ーその目に、私だけ映ればいいのにー
ドロリと、黒い感情が沸き上がる。
あぁ…これは…この気持ちは…と、気付く。
レイナイト侯爵のお陰か、彼女にダンスの申し込みをする令息はいなかった。私は、逸る気持ちを抑えつつ彼女に近付く。
ゆっくり話したいのに、レイナイト侯爵や聖女様が邪魔をする。しかも、もう彼女は帰ると言う。ならばと、彼女を馬車迄送る役を買って出る。会場を出る時、チラリと兄を見ると、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。
余計な事はするなと、後で釘を刺さなければ…と思いながら会場を後にした。
『ーさっき言った事、覚えておいてくれ。』
我ながら、強引にいってしまったな…。と、彼女と別れ、瑠璃宮殿の自室の椅子に座り、さっき自分が言った事を思い出していた。
本当に呆れる。これでは、俺に言い寄って来る女達と一緒じゃないか。それでも…そっと、自室の机の引き出しから、王弟の紋章の透かしが入った手紙を取り出す。
使えるものは…使う。
ーあの瞳にまた、俺が映る為にー。
『レイナイト侯爵令嬢、ミシュエルリーナ様、エルライン様、ご入場です』
会場のざわめきが一瞬にして静かになる。
その名前に吸い寄せられるように、視線をかの令嬢に向ける。
彼女は、父親であるレイナイト侯爵にエスコートされながら入場して来た。
『カーンハイル公爵の嫡男と婚約したのでは?』
と言う噂があったが、どうやらその相手は妹の方だったようだ。
兄である陛下と妃殿下に挨拶をする"深窓の令嬢"と言われる彼女のカーテシーは、他のどの令嬢よりも完璧で美しいと思った。
兄達に挨拶をし、後ろに下がろうとする彼女が、レイナイト侯爵が横に移動する動きに気付き、そこで初めて私に気付いたようで、少し目を見開きこちらを見た。
ー他の女性なら、我こそ先にと私の前に来て媚を売りに来るのにー
「…王弟殿下、初めてお目通り致します。レイナイト侯爵家長女、ミシュエルリーナでございます。」
姉妹ともに挨拶を受け、すぐに顔を上げるように言う。
ーあぁ…この瞳だー
淡いラベンダー色の、儚い感じではあるが、意思をハッキリ持っている瞳。その瞳に自分が映っている。そう思うだけで体が熱くなるような気がした。
どうやら、彼女は見た目の美しさとは真逆で、思った事はハッキリ言うタイプのようだ。それもまた面白くて興味がより沸いてくる。もっと話がしたいと思ったが、彼女達は早々に下がって行った。
ー本当に…私には全く興味が無いのだなー
そんな自惚れた馬鹿な自分に苦笑する。
それから、ルドヴィルが聖女様とタクマ殿と入場し、2人のお披露目と挨拶が始まった。
ふと、かの令嬢が気になり視線だけで探す。どうやら、レイナイト侯爵と壁の花になっているようだ。そんな彼女を見ていると…タクマ殿を見るその目が、切なそうに歪んでいるように見えた。
ー何故、そんな目を彼に向ける?ー
ーその目に、私だけ映ればいいのにー
ドロリと、黒い感情が沸き上がる。
あぁ…これは…この気持ちは…と、気付く。
レイナイト侯爵のお陰か、彼女にダンスの申し込みをする令息はいなかった。私は、逸る気持ちを抑えつつ彼女に近付く。
ゆっくり話したいのに、レイナイト侯爵や聖女様が邪魔をする。しかも、もう彼女は帰ると言う。ならばと、彼女を馬車迄送る役を買って出る。会場を出る時、チラリと兄を見ると、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。
余計な事はするなと、後で釘を刺さなければ…と思いながら会場を後にした。
『ーさっき言った事、覚えておいてくれ。』
我ながら、強引にいってしまったな…。と、彼女と別れ、瑠璃宮殿の自室の椅子に座り、さっき自分が言った事を思い出していた。
本当に呆れる。これでは、俺に言い寄って来る女達と一緒じゃないか。それでも…そっと、自室の机の引き出しから、王弟の紋章の透かしが入った手紙を取り出す。
使えるものは…使う。
ーあの瞳にまた、俺が映る為にー。
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