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第一章
真実③
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「リーデンブルク女神の…意思?」
「お前は、このノートに書かれている文字が読めるか?」
と、父がある一冊のノートを取り出した。それを受けとり、ページを捲る。
どことなく見覚えがあるような、懐かしいような…でも、全く読めなかった。
「読めないわ。どこの国の文字?見たこと…無いと思う。」
「これは、日本語だよ。」
「え!?日本…語!?」
日本語?何で読めないの?読める読めないの問題以前に、これが日本語だと解らない。私、前世では読めてたし書けてたよね!?
「このノートには、母さんの思いが書かれてある。俺も、このノートを見付けた時は読めなかった。読めるようになったのは…母さんが亡くなって2ヶ月位経って、自分や母さんの名前を思い出してからだった。」
父が目を瞑り、軽く息を吐く。
「母さんの召還は…巻き込まれだったらしい。召還されてから母さんがどうなったのかは分からないままだけど、母さんが犠牲になった事は変わらない。それで、リーデンブルク女神が、母さんの願いを叶えてくれる事になったらしい。
ただ、神であっても、人間の世界に干渉出来る範囲が限られているのも事実。干渉し過ぎると、この大地の理を壊す可能性もあるし、"歪み"にどんな影響を与えるのかも分からない。」
確かに。女神自ら聖女に成り得る者を召還する事も、神が人間に干渉できるギリギリのラインだと言う事は、誰でも知っている事だ。3人ーしかも、異世界の人間を3人も転生させるのは、危険な事だろう。
「その為に、俺とお前には制限が掛けられた。それが、前世の記憶と名前だ。記憶を持って転生した場合、こちらにどんな影響があるか分からないから、記憶は封じられた。記憶を一気に思い出すと、俺たちの心がどうなるか解らないから、記憶を思い出して、精神的に安定したら前世の自分が解放されるようにしたらしい。その解放される"鍵"となるのが…自分や回りの大切な人の名前なんだ。」
「お父さんは…何故名前を思い出せたの?何故、お母さんが死んでからだったの?お母さんは…1人記憶があって…でも、私達は覚えてなくて…お母さんは…1人で…寂しくなかったの?」
自分でも、何を言ってるのか、何を訊いてるのか解らない。折角転生してまた家族になれたのに…父には愛人が居て…早くに死んでしまって…お母さんは、どんな気持ちだったのだろう?
「俺の記憶が戻ってから、母さんが亡くなる迄の間、いっぱい…話をしたんだ。母さんが居なくなった後のお前の話をね…。どれだけお前が可愛かったかとか…ね。」
少し、父がおどけた様に言う。
「お前が高校生になる前に殉職したと言ったら…静かに怒られたけど…」
ー何故か、父が青い顔をして遠い目をしている。うん。本当にお母さんが怖かったんだろう。うん。何も突っ込みませんー
『この一年、とても幸せだったわ。また、先に行ってしまうけど、この子達の事…よろしくね。』
「それが、最後に交わした言葉だったよ。」
「お母さん、幸せ…だったんだね…良かった…」
「母さんが居なくなって、暫くは何もできなかったなぁ…。心が追い付かない感じかな?それでも、母さんが言った事やキャスリーンの事、お前達の事を考えたら…進むべき路が決まったんだ。そうしたら、名前を思い出して、このノートも読む事ができるようになって、母さんの事も母さんの気持ちも知る事ができた。だから、私は前に進むべく…キャスリーンをレイナイト侯爵家に迎え入れたんだ。」
先程迄の優しい父ではなく、"レイナイト侯爵"としての父がそこに居た。
「記憶が戻る前迄は、魅力的にみえたキャスリーンも、今では嫌悪感さえ覚える。でも、これは全て自分が招いたものだ。これからも蔑ろにするつもりは無いし、エルラインは私にとっても大切な娘に変わりはない。だが、レイナイト侯爵夫人として迎え入れたのも、ライラからお願いされたからだ。コーライルが居たから、このレイナイト侯爵はコーライルが継ぐのは決まっていたから、後の問題は、ミシュエルリーナ…お前の事だけだった。」
「私?」
「そう。お前はライラによく似ている。キャスリーンは自尊心が高い野心家だ。故に、ライラによく似たお前に何をするか…様子をみる為に、暫くは家族一緒に過ごす時間を設けた。でも、それではキャスリーンが何も動かないから、仕事と称して私は家を空ける事を増やし、更にコーライルとミシュエルリーナに関心が無いフリをした。そうしたら…案の定だ。アレもただの馬鹿ではなかったな。お前達には手を出すことはなかったが、別邸に追いやり何もしないようにした。ゼスから聞いた時には怒り狂いそうになったけど、お前達とアレが離れて暮らした方が、お前達の為になると思って放置した。」
「どうしてそんな回りくどい事を?前世の事は話せなくても、後妻を迎えるのは母の意向で侯爵家の為だと。別邸に行かせるのは守る為だと言ってくれれば…私もお兄様も、お父様の事をー…」
ー嫌いになんてならなかったー
そう口にしようとしたら
「お前が私を嫌いにならなければ…お前が自由になれないからだ。」
お父様がそう言った。
「お前は、このノートに書かれている文字が読めるか?」
と、父がある一冊のノートを取り出した。それを受けとり、ページを捲る。
どことなく見覚えがあるような、懐かしいような…でも、全く読めなかった。
「読めないわ。どこの国の文字?見たこと…無いと思う。」
「これは、日本語だよ。」
「え!?日本…語!?」
日本語?何で読めないの?読める読めないの問題以前に、これが日本語だと解らない。私、前世では読めてたし書けてたよね!?
「このノートには、母さんの思いが書かれてある。俺も、このノートを見付けた時は読めなかった。読めるようになったのは…母さんが亡くなって2ヶ月位経って、自分や母さんの名前を思い出してからだった。」
父が目を瞑り、軽く息を吐く。
「母さんの召還は…巻き込まれだったらしい。召還されてから母さんがどうなったのかは分からないままだけど、母さんが犠牲になった事は変わらない。それで、リーデンブルク女神が、母さんの願いを叶えてくれる事になったらしい。
ただ、神であっても、人間の世界に干渉出来る範囲が限られているのも事実。干渉し過ぎると、この大地の理を壊す可能性もあるし、"歪み"にどんな影響を与えるのかも分からない。」
確かに。女神自ら聖女に成り得る者を召還する事も、神が人間に干渉できるギリギリのラインだと言う事は、誰でも知っている事だ。3人ーしかも、異世界の人間を3人も転生させるのは、危険な事だろう。
「その為に、俺とお前には制限が掛けられた。それが、前世の記憶と名前だ。記憶を持って転生した場合、こちらにどんな影響があるか分からないから、記憶は封じられた。記憶を一気に思い出すと、俺たちの心がどうなるか解らないから、記憶を思い出して、精神的に安定したら前世の自分が解放されるようにしたらしい。その解放される"鍵"となるのが…自分や回りの大切な人の名前なんだ。」
「お父さんは…何故名前を思い出せたの?何故、お母さんが死んでからだったの?お母さんは…1人記憶があって…でも、私達は覚えてなくて…お母さんは…1人で…寂しくなかったの?」
自分でも、何を言ってるのか、何を訊いてるのか解らない。折角転生してまた家族になれたのに…父には愛人が居て…早くに死んでしまって…お母さんは、どんな気持ちだったのだろう?
「俺の記憶が戻ってから、母さんが亡くなる迄の間、いっぱい…話をしたんだ。母さんが居なくなった後のお前の話をね…。どれだけお前が可愛かったかとか…ね。」
少し、父がおどけた様に言う。
「お前が高校生になる前に殉職したと言ったら…静かに怒られたけど…」
ー何故か、父が青い顔をして遠い目をしている。うん。本当にお母さんが怖かったんだろう。うん。何も突っ込みませんー
『この一年、とても幸せだったわ。また、先に行ってしまうけど、この子達の事…よろしくね。』
「それが、最後に交わした言葉だったよ。」
「お母さん、幸せ…だったんだね…良かった…」
「母さんが居なくなって、暫くは何もできなかったなぁ…。心が追い付かない感じかな?それでも、母さんが言った事やキャスリーンの事、お前達の事を考えたら…進むべき路が決まったんだ。そうしたら、名前を思い出して、このノートも読む事ができるようになって、母さんの事も母さんの気持ちも知る事ができた。だから、私は前に進むべく…キャスリーンをレイナイト侯爵家に迎え入れたんだ。」
先程迄の優しい父ではなく、"レイナイト侯爵"としての父がそこに居た。
「記憶が戻る前迄は、魅力的にみえたキャスリーンも、今では嫌悪感さえ覚える。でも、これは全て自分が招いたものだ。これからも蔑ろにするつもりは無いし、エルラインは私にとっても大切な娘に変わりはない。だが、レイナイト侯爵夫人として迎え入れたのも、ライラからお願いされたからだ。コーライルが居たから、このレイナイト侯爵はコーライルが継ぐのは決まっていたから、後の問題は、ミシュエルリーナ…お前の事だけだった。」
「私?」
「そう。お前はライラによく似ている。キャスリーンは自尊心が高い野心家だ。故に、ライラによく似たお前に何をするか…様子をみる為に、暫くは家族一緒に過ごす時間を設けた。でも、それではキャスリーンが何も動かないから、仕事と称して私は家を空ける事を増やし、更にコーライルとミシュエルリーナに関心が無いフリをした。そうしたら…案の定だ。アレもただの馬鹿ではなかったな。お前達には手を出すことはなかったが、別邸に追いやり何もしないようにした。ゼスから聞いた時には怒り狂いそうになったけど、お前達とアレが離れて暮らした方が、お前達の為になると思って放置した。」
「どうしてそんな回りくどい事を?前世の事は話せなくても、後妻を迎えるのは母の意向で侯爵家の為だと。別邸に行かせるのは守る為だと言ってくれれば…私もお兄様も、お父様の事をー…」
ー嫌いになんてならなかったー
そう口にしようとしたら
「お前が私を嫌いにならなければ…お前が自由になれないからだ。」
お父様がそう言った。
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