25 / 105
第一章
夜会①
しおりを挟むミシュエルリーナとして王宮に来るのは初めてだった。舞踏会などでは、色とりどりの華やかなドレスを着込んだ令嬢で溢れ還り、目がチカチカする事もあるが、今日はデビュタントの為の夜会。令嬢が身に纏うのは白いドレス。清廉さを表すのだが…
ー集団結婚式ですか?ー
日本人の記憶を思い出してしまったせいか、そんな風に思ってしまうのは、許して欲しい。
先に私達の乗った馬車が到着し、父のエスコートで会場入口迄進む。その私達の後ろを、ルティウス様にエスコートされたエルが歩いて来る。義母は、控え室で待機している。
入場は、爵位の低い順となる。恐らく、私達が最後だろう。扉の前に立って居る騎士に、父がカードを渡す。すると騎士が扉を開けー
「レイナイト侯爵令嬢、ミシュエルリーナ様、エルライン様、ご入場です」
ーうわぁ…本当に名前を叫ばれるのね…。止めて欲しい…切実に…ー
そんな事思ってませんーみたいに、侯爵令嬢したりな顔で、父と共に入場する。
何だろうか…すごく視線を感じる…。がっつり見られてるような…
「…皆、お前を見てるからな…」
と、父が私だけに聞こえるように囁く。
ーえ?何で?何で私が思ってる事が分かったの?それに、何で私を見てるの?ー
驚きをきっちり隠しながら、チラリと父の方を見ると、父も目線だけ私の方に向け口許を少し上げて笑っていた。
ーえー??何??お父様って、こんな感じの人だったの?ー
ちょっと脳内パニックになり掛けたところで、国王陛下の前にたどり着いた。
「国王陛下、少し遅くなりましたが、こちらが長女のミシュエルリーナ、後ろに居るのが次女のエルラインでございます。」
「ミシュエルリーナ=ティリス=レイナイトでございます。」
「エルライン=レイナイトでございます。」
父に紹介され、名を名乗りカーテシーをする。
「あぁ。あなた達が噂の令嬢、ミシュエルリーナ嬢とエルライン嬢だね。」
「ー陛下…"噂の"などど…失礼にあたりますわ。」
"噂の"とは?と思っていると、王妃様が国王陛下を咎めるように声を掛けた。
「あぁ、それはすまない。別に悪い意味ではないのだ。とにかく、2人とも、今宵は楽しんでくれ。デビュー、おめでとう。」
「「ありがとうございます。」」
国王陛下からお祝いの言葉をもらい、その場から下がるー前に、父が横に移動した。
横?と思いそちらを見ると…
王弟殿下として参加している魔導師長と目が合った。
ここに居るって、全く気付かなかった。
それに…何となく…すごく見られてるような…
まさか…バレてないよね?
「これはこれは、ハルシオン殿下。今夜の夜会に参加とは…また珍しいですね?何か…ありましたか?」
「…レイナイト侯爵殿…お前も私を揶揄うのか?」
王弟殿下が肩を竦める。
「揶揄っていませんよ。陛下が、ようやくハルシオンが婚約者を探しだした!と息巻いていましたので…。」
ーチッー
あー…魔導師長ってば、舌打ちしたよね?
「兄は勘違いしているだけだ。」
「左様ですか?それは残念です。殿下。こちらは、我がレイナイト家長女、ミシュエルリーナ。後ろに居るのが、次女のエルラインとその婚約者のカーンハイル公爵家嫡男ルティウス殿です。」
そのレイナイト侯爵の言葉に、会場が少しざわついた。
ーカーンハイル公爵令息が、レイナイト侯爵の次女と婚約。しかも、姉ではなく妹がー
ー姉の方は、まともに社交デビューしていないし、深窓の令嬢だからなー
ーでは、まだ姉の方は婚約者が居ないのだから、チャンスか?ー
何だろう…皆こそこそ話しているつもりだろうが…バッチリ聞こえてますよ!いや…聞こえるように言ってるのか…社交会って凄いよね…。
「…王弟殿下、初めてお目通り致します。レイナイト侯爵家長女、ミシュエルリーナでございます。」
「次女のエルラインでございます。」
「あぁ。顔を上げてくれ。2人とも、デビューおめでとう。」
顔を上げ魔導師長を見る。いつもは、前髪は横に流しているが、今日は後ろに流し後ろ髪と一緒に、少し高目の位置で髪を一つに括っている。黒曜石の様な綺麗な瞳がよく見える。やっぱりイケメンだ。婚約者どころか、恋人の1人や2人居てもおかしくない。勿体ないよね…まさかの男色!?な訳ないよね??
そして、今度こそと、父にエスコートされながら、その場から下がった。
ハルシオンが、下がって行くミシュエルリーナの後ろ姿を、目を細めて見ていた事には、ミシュエルリーナ本人は全く気付いていなかった。
「本当は、この後仕事に戻る予定だったんだが、陛下のご意向で、今夜はこのままお前に付いていて良いそうだ。」
挨拶が終わり、壁の花になる為に壁際にやって来た時に父が言い出した。
「そうなのですか?それは…心強いですね。陛下にお礼を言わなければいけませんわね?」
「ふんっ。いつもこき使われているからな。たまには良いだろう。礼などしなくて良いだろう。」
いつもの冷たい感じの父からは想像できない言い方に、思わず笑みがこぼれる。
そう言えば…琢磨と雪はいつ入場するのだろうか?この事は、父も知っているのかしら?
そう思っているとー
「第二王子、ルドヴィル様がご入場されます。」
先程の扉前に居た騎士の声が、会場に響いた。
31
お気に入りに追加
316
あなたにおすすめの小説
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる