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第一章
レイナイト侯爵②
しおりを挟む「…何…を…」
父は…何と言った?何故知ってる?
「お前は…上級位魔導師のミューなのだろう?」
寂しそうな、でも優しい眼差しで私に語り掛ける。
「レイナイト侯爵家から出る為に…魔導師になったのだろう?」
ひゅっと息を飲む。何故…父が知っているの?いつから…知っているの?今の私もそうだが、ミシュエルリーナである時には、周りには魔力持ちではないように装っている。勿論、バレた事なんて一度も無い。それなのに…魔力持ちではない父が…何故?
「お前が魔力持ちだと気付いたのは…ライラが亡くなってからだ…。ライラからも何も聞いてはいなかった…。色々気付いた時には…もうライラは居なかった…。」
痛みを耐えるように、眉間に皺を寄せながら…後悔しているような顔をする父を見る。
私は、何も言えなかった。
「とにかく…明日の夜会だが、お前のエスコートは私がする。ファーストダンスは踊ってはやれないがね。」
と、肩を竦めながら言う。
「…ダンスは…残念ですが、私も苦手なので丁度良いです。」
私は笑って答えた。
色々、父とはもっと話をしたいけど…今日はここまでかな?と思っていると
「…ミシュエルリーナ、明日の夜会が終わったら…話がある。聞いてくれるだろうか?」
「勿論です。私も…お父様とは…もっと話さなければいけないと思ってますから…」
そう答えると、父がスッと表情を引き締めて
「では…明日、帰りの馬車を用意させゼスを待機させておく。お前はその馬車でレイナイト別邸迄帰って来なさい。帰りの途中、何があっても馬車から出るな。何があってもだ。ゼスが馬車の扉を開ける迄外には出ない事。解ったか?」
「…解りました。」
「別邸に着いたら、お前の部屋で待っていてくれ。外には出ない事。そこで…話をしたい。」
「はい。」
そこで、父がホッとしたような顔をする。
「明日は朝から準備で大変だろうから、私はこれで本邸に戻るよ。今夜はゆっくり休みなさい。また明日…迎えに来る。」
そう言って、父は別邸を後にし、本邸に戻って行った。
頭の整理が追い付かず、今日は早目に寝ると言い、リザを退室させ、私もベッドに潜り込んだ。
あんなに柔らかい父を見たのは、初めてだった。
私が上級位魔導師だって知っていたなんて…。しかも、私がレイナイト侯爵家から出て行こうとしてる事も知っていた。
ゼスかカリーが言った?いや、それは絶対に無い筈。
でも、カーンハイル公爵家とミシュエルリーナとの婚約を回避しようとしてくれたみたいだし。父は、いつから知っていて、いつから動いていたの?父となんて、もう何年もの間、まともに会話どころか挨拶すらしていなかったのに。
母の事もそうだ。母が存命中からキャスリーン様との関係があったのだろうけど…さっきの辛そうな顔を見ると…本当に母の事を愛していたのだろうと思う。キャスリーン様に関しては"アレ"呼ばわりだったけど…。
婚約回避で喜びたいところではあるけど、謎が増えた分、素直に喜べない…。明日の夜会後の父との話で、全てが分かるのだろうか?私は…レイナイト侯爵家を出て、ミューとして前へと進めるのだろうか?
「1人で考えて悩んでも…無駄だよね…」
ベッドの上で独りごつ。
ひょっとしたら、明日は、侯爵令嬢として参加する最初で最後の夜会になるかもしれない。エスコートは父。ならば、誰にも文句を言われないように完璧な淑女を演じようじゃないか!
そう独り意気込んで眠りに就いたー。
ー夜会当日ー
朝早くからリザに叩き起こされた。はい。文字通り叩き起こされました。リザ…結構力が強いのね…。
それから朝食を食べ、お風呂に入らされ、香油を掛けられ念入りにマッサージ。リザのヤル気に満ちたギラギラの目を見ると
「適当で良いよ」
とは言えなかったー。
そりゃそうだ。侯爵令嬢付きの侍女なのに、夜会にも茶会にも出ない令嬢。と言う事は、着飾る事がない。侍女として、最も腕の見せ所である仕事ができないのだ。今日は、ここぞとばかりに張り切っているのだ。いやー張り切り過ぎじゃないかな?どうせ、今日だけだよ?別に出会いを求めてる訳でもないよ?勿論、そんな事を口にすれば、リザから説教されるのは予想できるので、決して口にはしません!リザの思う通りにして下さい。
「本邸から、迎えの馬車が参りました。」
お昼に軽食を済ませ、部屋でのんびりしていたところに、知らせが来た。
「早い時間のお迎えね?」
「はい。どうやら、カーンハイル様が本邸にいらっしゃったようで…。夜会前に婚約についての話をすると言う事のようです。」
あぁ…そっか。そのこと忘れてた…。この夜会でエスコートする方を婚約者にするんだったっけ。未完成の契約書を完成させる為に、早目にに来たのね。と言う事は、公爵様も来てると言う事かしら?
「分かったわ。お待たせしては失礼になるから、すぐに行きましょう。」
契約書の完成。それは、ミューへの人生の第一歩になると信じてー。
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