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第一章
記憶
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「私は、初めてですね。ティアナと言います。平民なので、姓はありません。そのまま、敬語も要りませんし、ティアナと呼んで下さい。」
「私は田中雪です。私も平民なんで、敬語なんて要りませんよ?雪と呼んで下さい。」
「俺は、伊藤琢磨。琢磨と呼んで下さい。」
「ミューは、前も会ってるから大丈夫だな?基本、お二人には、私が魔法の指導をとる予定ですが、補助役として、必要な場合はミューかティアナに手伝ってもらう予定です。特にユキ様は女性ですから、魔法に関する事以外にも同性の方が何かと良い事もあると思いますから。」
「お気遣い、ありがとうございます。」
ギリューが言うと、ユキ様が笑顔で礼を言う。
「…ギリュー様が貴族に見えるわ…」
「…ティアナ…声出てるわよ…」
「失礼な!俺は貴族だ。」
「あ、ギリューさんは、貴族なんですね。」
タクマ様がビックリ顔で尋ねる。
「はい。一応。貴族と言っても、偉いのは父だけで、私はその息子ってだけですけどね。家督も義弟が継ぐと決まっているので、そのうち爵位も無くなり、ただの魔導師になります。それに、魔導師になってる奴は、平民だの貴族だの気にしてる奴は殆ど居ませんよ。」
「俺達が住んでた国には貴族とか身分差って言うのがなかったので、貴族だからどうとかいまいちピンと来ないんですよね。」
肩を竦めながらタクマ様が言う。そして、ユキ様とティアナとギリューが和やかに会話交わす。
心臓は落ち着いているのに、心が落ち着かない。不思議な感覚が体を支配している。
ここから、早く立ち去りたいーそんな気持ちが支配する。
「…ミューさん?」
「………」
「ミューさん、大丈夫ですか?」
「ーえっ!?」
フードで見えないが、どうやらタクマ様が私に話し掛けていたようだ。
「ミュー、どうしたの?」
ティアナが覗き込んで来て…
「ちょっと、ミュー!すごく顔色が悪いわよ!どうしたの?大丈夫?」
「え?本当?だ大丈夫よ…」
「大丈夫な顔色じゃないから!部屋に戻って休んだ方が良いわ!私が一緒に行くから、帰りましょう!」
ティアナが本気で焦ってるって事は、本当に私の顔色が悪いんだろう。ここは、ティアナの言う通りにして、部屋に戻ろう。
「じゃあ、そうするわ。ユキ様、タクマ様、すみませんが、私はこれで失礼させて頂きますね。」
と言い、立ち上がろうとしたが、足にうまく力が入らず体が傾き掛けた
「危ないー!」
「ーえ!?」
倒れる!と思ったが、誰かに抱き留められた。
「大丈夫ですか?」
フードがずり上がり、目の前に真っ黒な瞳。心配そうに覗き込むその黒い瞳に、私が映り込む。
ーこの瞳を知ってるー
ードクンッー
身体中にに衝撃が走る
「ーっ!?」
「ミューさん!?」
呼吸さえも上手くできなくなって…
私はそのまま意識を飛ばした。
「ねぇ、伊藤君と田中さんって付き合ってるの?」
「へ?」
ある日の放課後、出身中学が同じだった友達に訊かれた。
「一昨日だったかなー?私がバイトしてる店に、2人で来てたんだよね。ほら、いつもあんた達は3人一緒ってイメージがあったから、2人だけって意外でさぁ。ちょっと気になっちゃって。」
「一昨日…私がバイトで早く帰った日かな?付き合ってるとは…聞いてないけど…」
胸がチクリと痛んだ事には気付かないフリをする。
「そーなんだ。まー、確かに、付き合ってますって雰囲気じゃなかったけどね。変な事訊いてごめんね。」
それから、その友達と少しお喋りをしてから帰路に着いた。
雪と伊藤が…か。好きとか付き合うとか、今迄考えた事がなかったな。3人で居る事が当たり前で居心地も良かった。もし、あの2人が付き合う事になったら…私はどうなるんだろう?一人ぼっち?いや…寂しいとは違う、別の感情が顔を出す。あぁ…私…伊藤の事…
「ーが好きなんだ。付き合ってくれない?」
伊藤から告白されて、本当に嬉しかった。雪にも付き合う事を正直に話した。雪は、笑顔で良かったねって言ってくれた。付き合う事になっても、3人の付き合い方はあまり変わらなかったと思う。そう、琢磨と二人きりになる事があまりなかったのだ。まだ高校生だし、こんなものなのかな?と思っていた。
でもー
時々、耳にはしていたのだ。琢磨と雪2人だけで居るところを見たよーと。私と琢磨が付き合ってるなんて、言いふらしたりしてないから、周りには、その2人が付き合ってるように見えていたかも知れない。
今思うと…変だったなと。私は、2人から、直接2人で出掛けたとか聞いた事がなかった。3人で居る時もいつも通りで何も変わらない。それでも、琢磨と2人になった時はとても優しかった。手を繋いで歩くだけだったけど、それだけでも幸せだなと思っていた。
それに…琢磨を失いたくなくて、この関係を壊したくなくて不安な気持ちに蓋をして何も知らないフリをした。
それがいけなかったんだろう。
卒業式の日、私は2人を試したのだ。私が居なければ、この2人はどうするだろうか?と。もう、気持ちがぐちゃぐちゃになっていたのかも知れない。
ー忘れ物をしたから、2人で先に行っててー
まだ、琢磨と雪を信じていた…いや、信じたかったのかも知れない。2人の間には恋愛感情なんて無い。ただの友達だと。
気持ちを落ち着かせ、深呼吸を繰り返す。そして、2人が待つ店へと足を向けたのだった。
「私は田中雪です。私も平民なんで、敬語なんて要りませんよ?雪と呼んで下さい。」
「俺は、伊藤琢磨。琢磨と呼んで下さい。」
「ミューは、前も会ってるから大丈夫だな?基本、お二人には、私が魔法の指導をとる予定ですが、補助役として、必要な場合はミューかティアナに手伝ってもらう予定です。特にユキ様は女性ですから、魔法に関する事以外にも同性の方が何かと良い事もあると思いますから。」
「お気遣い、ありがとうございます。」
ギリューが言うと、ユキ様が笑顔で礼を言う。
「…ギリュー様が貴族に見えるわ…」
「…ティアナ…声出てるわよ…」
「失礼な!俺は貴族だ。」
「あ、ギリューさんは、貴族なんですね。」
タクマ様がビックリ顔で尋ねる。
「はい。一応。貴族と言っても、偉いのは父だけで、私はその息子ってだけですけどね。家督も義弟が継ぐと決まっているので、そのうち爵位も無くなり、ただの魔導師になります。それに、魔導師になってる奴は、平民だの貴族だの気にしてる奴は殆ど居ませんよ。」
「俺達が住んでた国には貴族とか身分差って言うのがなかったので、貴族だからどうとかいまいちピンと来ないんですよね。」
肩を竦めながらタクマ様が言う。そして、ユキ様とティアナとギリューが和やかに会話交わす。
心臓は落ち着いているのに、心が落ち着かない。不思議な感覚が体を支配している。
ここから、早く立ち去りたいーそんな気持ちが支配する。
「…ミューさん?」
「………」
「ミューさん、大丈夫ですか?」
「ーえっ!?」
フードで見えないが、どうやらタクマ様が私に話し掛けていたようだ。
「ミュー、どうしたの?」
ティアナが覗き込んで来て…
「ちょっと、ミュー!すごく顔色が悪いわよ!どうしたの?大丈夫?」
「え?本当?だ大丈夫よ…」
「大丈夫な顔色じゃないから!部屋に戻って休んだ方が良いわ!私が一緒に行くから、帰りましょう!」
ティアナが本気で焦ってるって事は、本当に私の顔色が悪いんだろう。ここは、ティアナの言う通りにして、部屋に戻ろう。
「じゃあ、そうするわ。ユキ様、タクマ様、すみませんが、私はこれで失礼させて頂きますね。」
と言い、立ち上がろうとしたが、足にうまく力が入らず体が傾き掛けた
「危ないー!」
「ーえ!?」
倒れる!と思ったが、誰かに抱き留められた。
「大丈夫ですか?」
フードがずり上がり、目の前に真っ黒な瞳。心配そうに覗き込むその黒い瞳に、私が映り込む。
ーこの瞳を知ってるー
ードクンッー
身体中にに衝撃が走る
「ーっ!?」
「ミューさん!?」
呼吸さえも上手くできなくなって…
私はそのまま意識を飛ばした。
「ねぇ、伊藤君と田中さんって付き合ってるの?」
「へ?」
ある日の放課後、出身中学が同じだった友達に訊かれた。
「一昨日だったかなー?私がバイトしてる店に、2人で来てたんだよね。ほら、いつもあんた達は3人一緒ってイメージがあったから、2人だけって意外でさぁ。ちょっと気になっちゃって。」
「一昨日…私がバイトで早く帰った日かな?付き合ってるとは…聞いてないけど…」
胸がチクリと痛んだ事には気付かないフリをする。
「そーなんだ。まー、確かに、付き合ってますって雰囲気じゃなかったけどね。変な事訊いてごめんね。」
それから、その友達と少しお喋りをしてから帰路に着いた。
雪と伊藤が…か。好きとか付き合うとか、今迄考えた事がなかったな。3人で居る事が当たり前で居心地も良かった。もし、あの2人が付き合う事になったら…私はどうなるんだろう?一人ぼっち?いや…寂しいとは違う、別の感情が顔を出す。あぁ…私…伊藤の事…
「ーが好きなんだ。付き合ってくれない?」
伊藤から告白されて、本当に嬉しかった。雪にも付き合う事を正直に話した。雪は、笑顔で良かったねって言ってくれた。付き合う事になっても、3人の付き合い方はあまり変わらなかったと思う。そう、琢磨と二人きりになる事があまりなかったのだ。まだ高校生だし、こんなものなのかな?と思っていた。
でもー
時々、耳にはしていたのだ。琢磨と雪2人だけで居るところを見たよーと。私と琢磨が付き合ってるなんて、言いふらしたりしてないから、周りには、その2人が付き合ってるように見えていたかも知れない。
今思うと…変だったなと。私は、2人から、直接2人で出掛けたとか聞いた事がなかった。3人で居る時もいつも通りで何も変わらない。それでも、琢磨と2人になった時はとても優しかった。手を繋いで歩くだけだったけど、それだけでも幸せだなと思っていた。
それに…琢磨を失いたくなくて、この関係を壊したくなくて不安な気持ちに蓋をして何も知らないフリをした。
それがいけなかったんだろう。
卒業式の日、私は2人を試したのだ。私が居なければ、この2人はどうするだろうか?と。もう、気持ちがぐちゃぐちゃになっていたのかも知れない。
ー忘れ物をしたから、2人で先に行っててー
まだ、琢磨と雪を信じていた…いや、信じたかったのかも知れない。2人の間には恋愛感情なんて無い。ただの友達だと。
気持ちを落ち着かせ、深呼吸を繰り返す。そして、2人が待つ店へと足を向けたのだった。
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