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第一章
義妹
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王都にあるレイナイト侯爵家の土地は広い。本邸から別邸の間には、小さな森のような庭園がある。大きな木もあるため、本邸からも別邸からもお互いの邸は見えない。そのお陰で、私が別邸を出て魔導師ミューとして瑠璃宮殿に居る事ができている。瑠璃宮殿の自室と、別邸の自室に転移魔方陣を敷いている為、いつでも行き来できると言う事もあるが。別邸専用の料理人が居て、食事は毎回作ってくれるので、それを転移して食べに戻ったりしている。私が居ないと知っているのは、リザとカリーとゼスだけ。料理人のグスタフは知らないので、私がいつも自室でご飯を食べていると思っている。
別邸から本邸へは歩いて向かう。
「本当に、相変わらず食後の良い運動になる距離よね…」
滅多にないが、本邸から誰かが来る時は馬車でやって来る。しかし、別邸にはもともと馬車はないし、本邸からの迎えの馬車も、勿論来ないので、いつも本邸に呼ばれた時は、私はいつも歩いて行かなければならないのだ。
「この時期は、ちょうどブルーデージーが綺麗に咲いてますよ。」
「本当!?ゆっくり見ながら行きましょう!」
ふふっと、2人で笑いながら歩く。ブルーデージーは、小さい頃兄と一緒に植えた花。亡くなった実の母が好きだったそうだ。私も大好きな花だ。
ブルーデージーに元気をもらいながら、本邸にたどり着いた。
「ミシュエルリーナ様、お待ち申し上げておりました。」
本邸の玄関前に来ると、そこに執事長ゼスと侍女長カリーが立って居た。
「ゼス、カリー、出迎えありがとう。久し振りね。元気だった?」
「はい。元気にしております。ミシュエルリーナ様もお元気そうで何よりです。」
ゼスが目を細め笑顔で出迎える。
「ゼスは…今回の呼び出しについて、何か知ってる?」
ゼスとカリーの後ろを歩きながらゼスに問い掛けた。ゼスは立ち止まり、体ごと振り返り、スッと頭を下げたー
「すみません。私の口からは…何とも。奥様に止められております。」
「あ、頭を上げてちょうだい!それは仕方無いわ。主人の意向を守ることはあなた達の仕事なのだから。私の方こそ嫌な質問をしてごめんなさいね。気にしないで。さあ、行きましょう。」
ートントンー
「奥様、ミシュエルリーナ様がお越しになられました」
ゼスが応接室の扉を叩き、中からの返事を待つ。
「入って良いわよ」
入室許可の返事に、ゼスが扉を開け、ミシュエルリーナを部屋の中へ促した。
ミシュエルリーナは、姿勢を正し目にスッと力を入れるー
「失礼致します」
入室し、一度そこで立ち止まり
「お義母様、お久し振りでございます。」
ワンピースの両裾を軽く持ち上げ頭を下げ礼をとる。
「頭を上げてちょうだい…本当に久し振りね。さー、こちらに座ってちょうだい。」
ーキャスリーン=レイナイトー
現レイナイト侯爵夫人。40歳近くとは思えないエルラインによく似た可愛らしい面立ち。庇護欲そそる雰囲気を持っているが、私からしたら、何を考えているか分からない人。
義母に促され、指示された椅子に腰かけた。
「ところで、今日は何用でー」
と言い掛けた時
「お義姉様がいらっしゃってるって、本当なの!?」
「エルライン様!入室許可も伺わずに勝手に入室するのは不躾でございます。」
声を張り上げながら入室して来たエルラインを、ゼスが窘める。
「あ、ごめんなさい。お義姉様と会うのが久し振りだったものだから…嬉しくて…。失礼致しました。お義姉様お久し振りです。」
しゅんとした顔をしながら、改めて挨拶をするエルライン。私としては…驚きが大きい。ー嬉しくてー?ちょっと意味が分からない。私とエルラインは、殆ど接点が無い。最後にいつ言葉を交わしたかさえ記憶にないのだ。
流石、侯爵令嬢の私!驚きを顔に一切出さなかった自分を自分で誉める。
「エルライン、久し振りですね。元気そうで私も嬉しいわ。」
少し目を細め、軽く口角を上げ淑女らしく微笑み言葉を交わす。
「お義姉様…」
ーポンッー
え?湯気出てるよ?的な勢いでエルラインの顔が真っ赤になる。
えー?この子大丈夫?淑女教育大丈夫?この子も、侯爵令嬢だよね?素直過ぎない?
「エル…あなたは呼んでないはずよ?」
義母がエルラインに言いながら、ゼスにチラリと視線を送る。
「お母様、ゼスは悪くないの!ゼスは私を止めたのだけど、私がどうしてもお義姉様に会いたかったから無理矢理来たの!」
私もチラリとゼスを見やる。ゼスは何とも言えない微妙な顔だ。
全く意味が分からない。
「ーエルラインは…私に何か用があって?」
努めて平静を装いエルラインに声を掛けた。
「あのっ…そのっ…用ではなくて…えっと…」
????
「…本当に…お義姉様に会いたかっただけなのです…」
えー?何、この可愛いのは…抱き締めるか?勿論、顔には一切出さずに脳内で騒ぎまくる。
「ーえっと?」
少し困った様な顔を作り、義母を見る。
義母は軽く目を細めエルラインを見た後、溜め息をつき
「分かったわ。今から邪魔をしないと言うのならば、ここに居て良いわ。」
義母のその言葉に、しょげていた顔が一転、パァッと明るくなり
「はい!ありがとうございます!」
と笑顔で義母の横に座った。
ゼスとリザは困っ様に笑っている。そこにカリーがやって来てお茶の準備を始めた。
本当に、一体何なのだろうか?顔には一切出さないが、頭の中は?でいっぱいだった。
別邸から本邸へは歩いて向かう。
「本当に、相変わらず食後の良い運動になる距離よね…」
滅多にないが、本邸から誰かが来る時は馬車でやって来る。しかし、別邸にはもともと馬車はないし、本邸からの迎えの馬車も、勿論来ないので、いつも本邸に呼ばれた時は、私はいつも歩いて行かなければならないのだ。
「この時期は、ちょうどブルーデージーが綺麗に咲いてますよ。」
「本当!?ゆっくり見ながら行きましょう!」
ふふっと、2人で笑いながら歩く。ブルーデージーは、小さい頃兄と一緒に植えた花。亡くなった実の母が好きだったそうだ。私も大好きな花だ。
ブルーデージーに元気をもらいながら、本邸にたどり着いた。
「ミシュエルリーナ様、お待ち申し上げておりました。」
本邸の玄関前に来ると、そこに執事長ゼスと侍女長カリーが立って居た。
「ゼス、カリー、出迎えありがとう。久し振りね。元気だった?」
「はい。元気にしております。ミシュエルリーナ様もお元気そうで何よりです。」
ゼスが目を細め笑顔で出迎える。
「ゼスは…今回の呼び出しについて、何か知ってる?」
ゼスとカリーの後ろを歩きながらゼスに問い掛けた。ゼスは立ち止まり、体ごと振り返り、スッと頭を下げたー
「すみません。私の口からは…何とも。奥様に止められております。」
「あ、頭を上げてちょうだい!それは仕方無いわ。主人の意向を守ることはあなた達の仕事なのだから。私の方こそ嫌な質問をしてごめんなさいね。気にしないで。さあ、行きましょう。」
ートントンー
「奥様、ミシュエルリーナ様がお越しになられました」
ゼスが応接室の扉を叩き、中からの返事を待つ。
「入って良いわよ」
入室許可の返事に、ゼスが扉を開け、ミシュエルリーナを部屋の中へ促した。
ミシュエルリーナは、姿勢を正し目にスッと力を入れるー
「失礼致します」
入室し、一度そこで立ち止まり
「お義母様、お久し振りでございます。」
ワンピースの両裾を軽く持ち上げ頭を下げ礼をとる。
「頭を上げてちょうだい…本当に久し振りね。さー、こちらに座ってちょうだい。」
ーキャスリーン=レイナイトー
現レイナイト侯爵夫人。40歳近くとは思えないエルラインによく似た可愛らしい面立ち。庇護欲そそる雰囲気を持っているが、私からしたら、何を考えているか分からない人。
義母に促され、指示された椅子に腰かけた。
「ところで、今日は何用でー」
と言い掛けた時
「お義姉様がいらっしゃってるって、本当なの!?」
「エルライン様!入室許可も伺わずに勝手に入室するのは不躾でございます。」
声を張り上げながら入室して来たエルラインを、ゼスが窘める。
「あ、ごめんなさい。お義姉様と会うのが久し振りだったものだから…嬉しくて…。失礼致しました。お義姉様お久し振りです。」
しゅんとした顔をしながら、改めて挨拶をするエルライン。私としては…驚きが大きい。ー嬉しくてー?ちょっと意味が分からない。私とエルラインは、殆ど接点が無い。最後にいつ言葉を交わしたかさえ記憶にないのだ。
流石、侯爵令嬢の私!驚きを顔に一切出さなかった自分を自分で誉める。
「エルライン、久し振りですね。元気そうで私も嬉しいわ。」
少し目を細め、軽く口角を上げ淑女らしく微笑み言葉を交わす。
「お義姉様…」
ーポンッー
え?湯気出てるよ?的な勢いでエルラインの顔が真っ赤になる。
えー?この子大丈夫?淑女教育大丈夫?この子も、侯爵令嬢だよね?素直過ぎない?
「エル…あなたは呼んでないはずよ?」
義母がエルラインに言いながら、ゼスにチラリと視線を送る。
「お母様、ゼスは悪くないの!ゼスは私を止めたのだけど、私がどうしてもお義姉様に会いたかったから無理矢理来たの!」
私もチラリとゼスを見やる。ゼスは何とも言えない微妙な顔だ。
全く意味が分からない。
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努めて平静を装いエルラインに声を掛けた。
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「…本当に…お義姉様に会いたかっただけなのです…」
えー?何、この可愛いのは…抱き締めるか?勿論、顔には一切出さずに脳内で騒ぎまくる。
「ーえっと?」
少し困った様な顔を作り、義母を見る。
義母は軽く目を細めエルラインを見た後、溜め息をつき
「分かったわ。今から邪魔をしないと言うのならば、ここに居て良いわ。」
義母のその言葉に、しょげていた顔が一転、パァッと明るくなり
「はい!ありがとうございます!」
と笑顔で義母の横に座った。
ゼスとリザは困っ様に笑っている。そこにカリーがやって来てお茶の準備を始めた。
本当に、一体何なのだろうか?顔には一切出さないが、頭の中は?でいっぱいだった。
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