初恋の還る路

みん

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第一章

ミュー

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タクマ様とユキ様が退室した後、第二王子と神官長が国王陛下に報告に行くと言う事で、魔導師長と私もすぐに執務室から退室し、瑠璃宮殿へと向かった。


瑠璃宮殿は、国王陛下が住む王宮より左奥に位置している。両宮殿の建物を繋ぐ一本の長い渡り廊下の両側には、様々な花や木が植えられている。丁度、城と宮殿の中間地点には、小さな川が流れている。
花を見ていると、ざわついていた気持ちが落ち着いてきて、ふっと安堵の溜め息をもらした。

「ー大丈夫か?」

「あ、はい。大丈夫です。何だか…すみません。」

「何かあったのか?」

「それが…私自身にもよく分からなくて…」

魔導師長が立ち止まり、ミューの方に身体を向ける。

「久し振りにミューの顔を見たと思ったら、急に真っ青になるから…驚いたよ」

魔導師長が肩を竦めながら言う。

「今日は、もう部屋に下がって休め。そうだな…念のため、明日も休め。鑑定云々は、私とギリューだけで大丈夫だろう。」

「ー分かりました。申し訳ありませんが、そうさせて頂きます」

本当は、時間が余ったので、文献を読み返したり、魔法陣の組み立てをしようかと思っていたが、先程の体調不良も気になったので、魔導師長の指示に素直に従う事にした。





瑠璃宮殿の自室に入ると、窓際に淡い水色の小さな鳥がとまっていた。

鳥ーと言っても、見た目は鳥なのだが、これは魔法で作られた手紙なのだ。ミューが信頼できる数少ないうちの1人からの手紙。緊急性によって、その鳥の色が変わるのだ。淡い水色は、特に緊急性も問題も無い時の色で、ただの連絡や報告である。
そっとその鳥を手にして、魔力を流し込む。すると、淡い水色の光を出しながら、鳥から手紙へと形を変えた。

ーすっかり忘れてた。明日だったのね…。

魔法で、部屋全体に結界を張る。外から勝手に入って来れないようにして、部屋全体を確認し、奥にある寝室に向かう。寝室のベッドの裏側に立ち、静かに魔法を展開させると、足元に淡い紫色の魔法陣が浮かび上がる。淡い紫色の光がフワッと立ち上がると、ミューの姿がそこから消え去っていた。









「お帰りなさいませ」

「リザ、ただいま」

「夜は、どちらでお食事になさいますか?」

「さっきまでお茶をしてたから、あまりお腹は空いてないの。」

「でしたら、少し遅めの時間に軽食をこちらのお部屋にお持ちしましょう。」

「そうね。それでお願いするわ」

では、お風呂の用意をして参りますー
と、リザが部屋から出て行った。


ここは、王都にある私の実家である。普段は瑠璃宮殿で生活しているので、滅多に帰って来る事はない。否ー私が居ないと言う事を知っている人は、殆ど居ない。父は王宮勤めで忙しく、王宮に寝泊まりする事もある。食事も滅多に家族と取る事もない。
私の実の母は、私が5歳、兄が7歳の時に亡くなった。その半年後、後妻が私の2つ下の義妹を連れてやって来た。義妹は義母によく似た可愛らしい顔をしていた。母が生きていた時から関係があったのだと分かった。夫婦仲が悪かったと言う事もなかったと思うが、母とは違う女性を選んだのかと…母の死から半年しか経っていないのに、この女性を迎え入れるのかと…当時は切なくて嫌でずっと泣いていた。その時、お兄様とリザが、ずっと私と一緒に居てくれて、やさしく抱き締めてくれていた。

実の母は、元公爵家の次女だった。ピンクブロンドの髪と目。少しつり目気味の綺麗な顔立ち。実の母と父の祖父同士が幼馴染で、その縁で母と父も幼馴染とお互い気の知れた者同士で仲も良く、家格も釣り合うと言う事で婚約を結んだ。母の卒業後、すぐに婚姻が結ばれ、2年後にはお兄様が、4年後には私が産まれた。夫婦間において、特に何も問題はなかったように思う。

義母は金髪緑眼。可愛らしい感じの女性だ。義妹も可愛らしく、明るく優しい子だった。ただ…義母は私達兄妹の事はあまりよく思っていないようだった。特に何かをされる訳でも言われる訳でもなかったが、父が邸に居ない時は、私達兄妹も居ないような扱いを受けていた。父はもともと仕事人間。私達子供の事には無関心だった。父からの愛情を感じた事もない。酷い事をされる事もないが、誉められた事も無い。父に何かを期待する事は無いだろうと思う。それに…母は知っていたと思うが、父と義母は、私達兄妹の秘密を知らない。兄も私も言ってないし、訊かれた事もないから。これからも言うつもりは無い。この秘密は、兄と私とリザ。そして、リザの母親でありこの邸の侍女長のカリー、その旦那でありこの邸の執事長ゼスしか知らない。




「カーンハイル公爵家嫡男のルティウス殿との婚約が成立した。お前でも少しはこの家の役に立てたな。」



貴族の娘として生まれたのだ。昔程の政略結婚はなくなったとしても、自由な恋愛や結婚はできないかもと思っていた。母が生きていてら、少しは違ったのだろうか?ふと思う。
だが、この時の父の言葉で、私は父からの愛情をスッパリ諦めた。父は、私の事をずっと役立たずと思って居たのだ。そりゃそうだ。父は普段から私達兄妹の事は省みない。勿論義母も。兄は嫡男の為、2年前恋愛結婚した嫁と領地に引きこもり、領地の管理に勤しんでいる。

私は色々理由があり王都の邸に残っては居るが、社交界にデビューすらしていない。ホントは2年前がデビューする年だったが…父からも義母からも何も言われなかったので、私もそのままスルーした。社交界での繋がりを作る事も、良縁を結ぶ事もしない娘だ。役立たずと思われても仕方無いのかもしれない。

そして…今年。今年は、2つ下の義妹のデビューの年である。準備は万端なようだ。
そして、それが…今回久し振りに私がこの家に帰って来た理由だった。
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