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第一章
女神の加護
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ーイトウタクマー
ータナカユキー
ドクンッドクンッと、心臓が悲鳴をあげるのを、震えそうになる手足にグッと力を入れて耐える。フードを被って座っていて良かった。
「ニホン…ですか…やはり、聞いた事がない国ですね…」
第二王子の囁きに、そんなーと女性が両手で口を押さえた。
異世界人が、"タクマ"と"ユキ"と呼んでくれと言うので、そう呼ぶ事になった。
そして、第二王子が今回の出来事を、聖女が召喚されるようになった原因の話を説明しだした。第二王子の声は聞こえるが、何も耳には入って来ない。
ーフードを被っていて良かったー
ミューがフードを被っていなければ、誰が見ても話をするどころでは無い程に、ミューの顔は真っ青だった。手には、ジワリと汗もかいている。震えを押さえる為にグッと力を入れて握ったままだ。
何?私に何が起きてるの?何故胸が苦しいの?この異世界人に何かある?
分からないー
深呼吸をする。そして少し顔を上げ、チラリと異世界人2人を見る。2人とも、黒髪の黒目。肌は白過ぎず健康的な色。ユキ様の方は少し俯き加減で第二王子の話を聞いている。タクマ様は、話をしている第二王子の目をしっかり見据え話を聞いている。
そのタクマ様の目に、吸い込まれそうになる。途端、胸がズキッと痛み我に返る。息苦しくなる。目を瞑り、更に両手に力を入れて苦しさに耐えた。
一体、どれ位経ったのか。気が付けば、一旦休憩しようと、サリーが新しくお茶を入れ直し、軽食とデザートが用意された。
「この国のお茶は、とても美味しいですね。それと、このケーキ?もとても美味しいです。」
ユキ様がはにかみながら第二王子に話し掛ける。
「気に入って頂けて良かった。言って頂ければ、いつでもご用意できますよ?」
第二王子のキラースマイルに、ユキ様はほんのり顔を赤くしている。
その光景は、よく見る光景だけど…何故か違和感があるー何故?ー
第二王子はすこぶる外面が良い。眩しい程の笑顔で、近寄る令嬢をはじめ貴族やら狸やらをあしらうのだ。令嬢だけではなく、何なら令息すら顔を赤らめる程の笑顔。私からしたら、怖いしかないけどー。
だから、ユキ様が顔を赤らめたとしても、何らおかしい事ではないー筈なのに。
この人は、こんな人じゃないーと、頭の中で声がする。ユキ様をジッと見る。
私、この人を知ってる?いや、知らない筈よね?
少し垂れ目でパッチリした目。小さいがプックリしていて蠱惑的に見える唇。全体的に小さくて守ってあげたくなるような女性だ。これで25歳…私より7つも年上なんて見えない。タクマ様もそうだが、2人ともに礼儀正しく、身形も整っている。"ニホン"では貴族だったのだろうか?
「…ーさんは、大丈夫ですか?」
「……」
「ミュー?」
魔導師長に呼ばれ、ハッとする。
「すみません。何かおっしゃいましたか?」
「私ではなく、タクマ殿が、ミューは大丈夫なのか?と心配して下さっているぞ。」
魔導師長が、少し呆れ顔で訊いて来た。
「すみません。タクマ様、私は大丈夫です。少し…緊張していたようです。ありがとうございます。」
気を緩めるとまだ震えそうだが、大分落ち着いてきた。
「そうですか。それなら良かった。」
自分の方こそ大変な状況に置かれて居るだろうに、他人の…フードを被った怪しげな私の心配をしてくれるなんて…良い人なんだろうなぁ。それとも…
「ミューさんの髪は…銀色でしたよね?こちらでは、よくある髪色なのですか?」
「そうですね。特に珍しいと言う事はありませんね。タクマ様のように黒髪の方が珍しいのかもしれません。お二人とも、とても綺麗な黒髪なので、最初に見た時には驚きました」
「そうなんですか?"日本"では、皆黒なんですよ?」
タクマ様がはにかむように笑う。優しい目だなと思う。魔導師長も同じ黒目だが、全く違う色なように感じる。
それからも暫く、他愛のない会話を交わしゆったりとした時間を過ごした。
そして、お茶も落ち着き、今後の話について話し始めた。
「一つ。再度確認しておきたいんですけど…」
「はい、何でしょうか?」
タクマ様が一度ゆっくり目を瞑り、目を開けしっかりと第二王子に視線を向けて
「俺たちは、もう…"日本"には…戻れない…のですね?」
ユキ様は、その問い掛けにビクッと肩を震わせる。
「ーはい。」
第二王子が答えた。それ以外には何も言わない。いや、言えないのだ。
魔導師長がチラリと私に視線を向けるが、私は小さく首を横に振った。
転移魔方陣について諦めるつもりはないが、還れるかもしれない…なんて不確かな事を口に出す事なんてできない。してはいけないのだ。
勿論、魔導師長もそれを解っている。
「言うなー」
そう言うつもりで私を見やったのだ。
「こちらの勝手で、あなた達の未来を変えてしまった。本当に申し訳無い事をしました。それでも、どうか、この大陸を救って頂きたいと思っております。
しかし、強制ではありません。断られられるのも自由です。断られても、あなた達が生きて居る間、この国の王家があなた達の後ろ楯になり安全と自由を守ります。
それが、この大陸で定められております。あなた達に害をなす者は、この大陸には居ません。それが…リーデンブルク女神との誓約でもあります。」
そうー。過去、自殺した聖女を除けば、殺された聖女は居ないのだ。病気も毒殺も無い。老衰のみ。
帰り道の無い召喚。その聖女を守る為にリーデンブルク女神が加護を与えるのだ。悪意を持って聖女を害そうとすれば、その相手がその報いを受けるのだ。
ータナカユキー
ドクンッドクンッと、心臓が悲鳴をあげるのを、震えそうになる手足にグッと力を入れて耐える。フードを被って座っていて良かった。
「ニホン…ですか…やはり、聞いた事がない国ですね…」
第二王子の囁きに、そんなーと女性が両手で口を押さえた。
異世界人が、"タクマ"と"ユキ"と呼んでくれと言うので、そう呼ぶ事になった。
そして、第二王子が今回の出来事を、聖女が召喚されるようになった原因の話を説明しだした。第二王子の声は聞こえるが、何も耳には入って来ない。
ーフードを被っていて良かったー
ミューがフードを被っていなければ、誰が見ても話をするどころでは無い程に、ミューの顔は真っ青だった。手には、ジワリと汗もかいている。震えを押さえる為にグッと力を入れて握ったままだ。
何?私に何が起きてるの?何故胸が苦しいの?この異世界人に何かある?
分からないー
深呼吸をする。そして少し顔を上げ、チラリと異世界人2人を見る。2人とも、黒髪の黒目。肌は白過ぎず健康的な色。ユキ様の方は少し俯き加減で第二王子の話を聞いている。タクマ様は、話をしている第二王子の目をしっかり見据え話を聞いている。
そのタクマ様の目に、吸い込まれそうになる。途端、胸がズキッと痛み我に返る。息苦しくなる。目を瞑り、更に両手に力を入れて苦しさに耐えた。
一体、どれ位経ったのか。気が付けば、一旦休憩しようと、サリーが新しくお茶を入れ直し、軽食とデザートが用意された。
「この国のお茶は、とても美味しいですね。それと、このケーキ?もとても美味しいです。」
ユキ様がはにかみながら第二王子に話し掛ける。
「気に入って頂けて良かった。言って頂ければ、いつでもご用意できますよ?」
第二王子のキラースマイルに、ユキ様はほんのり顔を赤くしている。
その光景は、よく見る光景だけど…何故か違和感があるー何故?ー
第二王子はすこぶる外面が良い。眩しい程の笑顔で、近寄る令嬢をはじめ貴族やら狸やらをあしらうのだ。令嬢だけではなく、何なら令息すら顔を赤らめる程の笑顔。私からしたら、怖いしかないけどー。
だから、ユキ様が顔を赤らめたとしても、何らおかしい事ではないー筈なのに。
この人は、こんな人じゃないーと、頭の中で声がする。ユキ様をジッと見る。
私、この人を知ってる?いや、知らない筈よね?
少し垂れ目でパッチリした目。小さいがプックリしていて蠱惑的に見える唇。全体的に小さくて守ってあげたくなるような女性だ。これで25歳…私より7つも年上なんて見えない。タクマ様もそうだが、2人ともに礼儀正しく、身形も整っている。"ニホン"では貴族だったのだろうか?
「…ーさんは、大丈夫ですか?」
「……」
「ミュー?」
魔導師長に呼ばれ、ハッとする。
「すみません。何かおっしゃいましたか?」
「私ではなく、タクマ殿が、ミューは大丈夫なのか?と心配して下さっているぞ。」
魔導師長が、少し呆れ顔で訊いて来た。
「すみません。タクマ様、私は大丈夫です。少し…緊張していたようです。ありがとうございます。」
気を緩めるとまだ震えそうだが、大分落ち着いてきた。
「そうですか。それなら良かった。」
自分の方こそ大変な状況に置かれて居るだろうに、他人の…フードを被った怪しげな私の心配をしてくれるなんて…良い人なんだろうなぁ。それとも…
「ミューさんの髪は…銀色でしたよね?こちらでは、よくある髪色なのですか?」
「そうですね。特に珍しいと言う事はありませんね。タクマ様のように黒髪の方が珍しいのかもしれません。お二人とも、とても綺麗な黒髪なので、最初に見た時には驚きました」
「そうなんですか?"日本"では、皆黒なんですよ?」
タクマ様がはにかむように笑う。優しい目だなと思う。魔導師長も同じ黒目だが、全く違う色なように感じる。
それからも暫く、他愛のない会話を交わしゆったりとした時間を過ごした。
そして、お茶も落ち着き、今後の話について話し始めた。
「一つ。再度確認しておきたいんですけど…」
「はい、何でしょうか?」
タクマ様が一度ゆっくり目を瞑り、目を開けしっかりと第二王子に視線を向けて
「俺たちは、もう…"日本"には…戻れない…のですね?」
ユキ様は、その問い掛けにビクッと肩を震わせる。
「ーはい。」
第二王子が答えた。それ以外には何も言わない。いや、言えないのだ。
魔導師長がチラリと私に視線を向けるが、私は小さく首を横に振った。
転移魔方陣について諦めるつもりはないが、還れるかもしれない…なんて不確かな事を口に出す事なんてできない。してはいけないのだ。
勿論、魔導師長もそれを解っている。
「言うなー」
そう言うつもりで私を見やったのだ。
「こちらの勝手で、あなた達の未来を変えてしまった。本当に申し訳無い事をしました。それでも、どうか、この大陸を救って頂きたいと思っております。
しかし、強制ではありません。断られられるのも自由です。断られても、あなた達が生きて居る間、この国の王家があなた達の後ろ楯になり安全と自由を守ります。
それが、この大陸で定められております。あなた達に害をなす者は、この大陸には居ません。それが…リーデンブルク女神との誓約でもあります。」
そうー。過去、自殺した聖女を除けば、殺された聖女は居ないのだ。病気も毒殺も無い。老衰のみ。
帰り道の無い召喚。その聖女を守る為にリーデンブルク女神が加護を与えるのだ。悪意を持って聖女を害そうとすれば、その相手がその報いを受けるのだ。
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