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第一章
異世界の聖女様
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原始では一つの大陸であった土地は、幾度となく起こった震災を経て陸が隔たり、海もできた。その上"歪み"のある場所には鬱蒼とした森が広がり人達を寄せ付けない。その"歪み"は大陸のほぼ中央部分に位置していた。人々は、より住みやすく安心できる土地を求め、幾度となく戦争を起こした。その為、悪しき魔素が急激に膨れ上がり、リーデンブルク神からの神託により聖女が召喚される事になった。その時の聖女は、その大陸の村に住むまだ15歳の娘であった。そして、その娘は3年程の巡礼を経て悪しき魔素を浄化し、最後には無事"歪み"に結界を張り直す事ができた。その後、戦争で悪しき魔素を増長させた事を反省し、その"歪み"を中心とし、その周辺を囲むように各々の権力者が統治する事にした。リーデンブルク神からの神託があった場合、各国が助け合うと条約も結ばれた。そこからは、その国その国で国土を発展させていったのである。
ーここはアルム王国ー
"歪み"から北側に位置する、比較的大きな国である。初代国王は、聖女の浄化の巡礼のさい、聖女を守る護衛騎士を勤めた獣人だったらしく、この国には獣人が多い。勿論、普通の人も住んでいて多種多様な者が居る。人だけの国もあれば、獣人だけの国もあり、そうゆう国では
少数部族を蔑む流れもあるようだが、ここアルム王国では、種族が違っても比較的平和に過ごす事ができる国である。
「今日も魔法陣とにらめっこ?」
そう訊いて来たのは、私と同じ魔導師のティアナだった。ティアナは薄茶色のクリクリした髪を後ろに一つに纏めている。目は濃いめの茶色でクリッとしていて可愛らしい顔をしている。そんな彼女が首をコテンと傾げながら訊いて来るのだ。可愛いって正義だよねーと、思う事がよくある。
「後少し…何かが足りないような…間違ってるような気がして。ここから先に進めないのよ。」
自分の魔力を紡ぎ出し魔法陣を描くのだが、描いてる途中で魔法陣が消えてしまうのだ。もともと、魔法陣を新たに作る事などすぐにできるものではなく、それができると言う事は、余程の魔力持ちの者だと言う事になる。そして、その新たに魔法陣を作り上げようとしているのが私。アルム王国人族のミューである。
アルム王国初代の王は獣人であった為、身体能力は人より何倍も良いが魔力は一切無かった。しかし、巡礼後に魔力持ちの聖女様と結婚し、この国を治める事になった。そして生まれたのが双子の王子2人と王女2人。双子の王子のうち1人は獣人の特徴を持ち魔力は無し。もう1人の王子は魔力を持っていた。2人の王女は獣人の特徴を持ち、魔力は持っていなかった。魔力持ちの王子は、母である王妃の持つ聖なる力を持っていったので、成人する前に王位継承権を返上し、悪しき魔素がたまりそうな場所へと足を向け清浄すると言う旅をした。
そして、王子は、その旅の途中で出会った魔力持ちの娘と結婚し、生まれた2人の子供のうち1人は魔力持ちだったが、聖なる力は持っていなかった。
過去の文献を見ても、魔力と言うのは必ずしも引き継がれる訳ではないーと言う事が証明されている。獣人もそうだ。片方の親が人族なら獣人の特徴を全く引き継がない事もある。この国は何でも記録に残すのが好きなようで、色々な文献が残されている。
そして、上級位魔導師ともなれば、その文献を読む事が許される立場なのだ。ミューは、今日も王宮図書館の地下にある立ち入り禁止区域にある部屋に籠り、聖女に関わる文献を広げながら新たな魔法陣の作成に勤しんで居たのだ。
「聖女様が召喚される前に…何とか作り上げたいのだけどね。」
今から1年程前、200年振りに神託が下された。過去の文献から、神託が下されるのは"歪み"の限界の3年~5年前のようだ。神託を受けてから、私は過去の聖女様に関する文献に手をのばした。
そこで衝撃を受けたのだ。人から人へと口伝されているものとは違うものがあったのだ。聖女はこの大陸に住む若い娘である事が一般的な周知事項だった。しかし、希に異世界から召喚されると言う事があったのだ。異世界で普通に生活をしていたのに、こちらの世界のせいで否応なく召喚されるのだ。召喚されてから暫くはパニックになったり心を病み掛けたりする娘も居たらしい。そりゃそうだろ…と思う。この召喚は、基本一方通行なのだ。こちらに来たら最後、自分の世界には二度と還れないのだから。
そして…過去に一度だけ、浄化終了後に自殺をした異世界の娘が居たらしい。その娘は自分の世界に婚約者が居たと言う。こちらに召喚されてから巡礼が終わる迄3年ー無事に終えた事を喜んで居たらしい。巡礼後、帰城し翌日の夜に祝賀会が開かれ、聖女様も皆笑顔で参加して居た。しかしー翌朝、聖女様がなかなか起きないと侍女が聖女様の寝室に入ると…既に息をしていなかったと言う。
そして、手紙が2通あった。1通はこの大陸の共通点文字リーデン語で書かれていた。召喚されてから覚えたようで、少し拙い文字でー召喚された時は絶望したが、この国の人達の優しさで前を向く事ができた。浄化と結界の張り直しができて良かったと。この世界で生きていけるような気がして居たと。しかし、ゆっくりする時間が出来ると、自分の世界の事を思い出してしまう。そして、婚約者の存在。諦める事も忘れる事もできなかったと。彼の横に自分ではない誰かが立っていると思うと苦しくなると。
ーごめんなさいー
最後に、そう書かれていた。
ーここはアルム王国ー
"歪み"から北側に位置する、比較的大きな国である。初代国王は、聖女の浄化の巡礼のさい、聖女を守る護衛騎士を勤めた獣人だったらしく、この国には獣人が多い。勿論、普通の人も住んでいて多種多様な者が居る。人だけの国もあれば、獣人だけの国もあり、そうゆう国では
少数部族を蔑む流れもあるようだが、ここアルム王国では、種族が違っても比較的平和に過ごす事ができる国である。
「今日も魔法陣とにらめっこ?」
そう訊いて来たのは、私と同じ魔導師のティアナだった。ティアナは薄茶色のクリクリした髪を後ろに一つに纏めている。目は濃いめの茶色でクリッとしていて可愛らしい顔をしている。そんな彼女が首をコテンと傾げながら訊いて来るのだ。可愛いって正義だよねーと、思う事がよくある。
「後少し…何かが足りないような…間違ってるような気がして。ここから先に進めないのよ。」
自分の魔力を紡ぎ出し魔法陣を描くのだが、描いてる途中で魔法陣が消えてしまうのだ。もともと、魔法陣を新たに作る事などすぐにできるものではなく、それができると言う事は、余程の魔力持ちの者だと言う事になる。そして、その新たに魔法陣を作り上げようとしているのが私。アルム王国人族のミューである。
アルム王国初代の王は獣人であった為、身体能力は人より何倍も良いが魔力は一切無かった。しかし、巡礼後に魔力持ちの聖女様と結婚し、この国を治める事になった。そして生まれたのが双子の王子2人と王女2人。双子の王子のうち1人は獣人の特徴を持ち魔力は無し。もう1人の王子は魔力を持っていた。2人の王女は獣人の特徴を持ち、魔力は持っていなかった。魔力持ちの王子は、母である王妃の持つ聖なる力を持っていったので、成人する前に王位継承権を返上し、悪しき魔素がたまりそうな場所へと足を向け清浄すると言う旅をした。
そして、王子は、その旅の途中で出会った魔力持ちの娘と結婚し、生まれた2人の子供のうち1人は魔力持ちだったが、聖なる力は持っていなかった。
過去の文献を見ても、魔力と言うのは必ずしも引き継がれる訳ではないーと言う事が証明されている。獣人もそうだ。片方の親が人族なら獣人の特徴を全く引き継がない事もある。この国は何でも記録に残すのが好きなようで、色々な文献が残されている。
そして、上級位魔導師ともなれば、その文献を読む事が許される立場なのだ。ミューは、今日も王宮図書館の地下にある立ち入り禁止区域にある部屋に籠り、聖女に関わる文献を広げながら新たな魔法陣の作成に勤しんで居たのだ。
「聖女様が召喚される前に…何とか作り上げたいのだけどね。」
今から1年程前、200年振りに神託が下された。過去の文献から、神託が下されるのは"歪み"の限界の3年~5年前のようだ。神託を受けてから、私は過去の聖女様に関する文献に手をのばした。
そこで衝撃を受けたのだ。人から人へと口伝されているものとは違うものがあったのだ。聖女はこの大陸に住む若い娘である事が一般的な周知事項だった。しかし、希に異世界から召喚されると言う事があったのだ。異世界で普通に生活をしていたのに、こちらの世界のせいで否応なく召喚されるのだ。召喚されてから暫くはパニックになったり心を病み掛けたりする娘も居たらしい。そりゃそうだろ…と思う。この召喚は、基本一方通行なのだ。こちらに来たら最後、自分の世界には二度と還れないのだから。
そして…過去に一度だけ、浄化終了後に自殺をした異世界の娘が居たらしい。その娘は自分の世界に婚約者が居たと言う。こちらに召喚されてから巡礼が終わる迄3年ー無事に終えた事を喜んで居たらしい。巡礼後、帰城し翌日の夜に祝賀会が開かれ、聖女様も皆笑顔で参加して居た。しかしー翌朝、聖女様がなかなか起きないと侍女が聖女様の寝室に入ると…既に息をしていなかったと言う。
そして、手紙が2通あった。1通はこの大陸の共通点文字リーデン語で書かれていた。召喚されてから覚えたようで、少し拙い文字でー召喚された時は絶望したが、この国の人達の優しさで前を向く事ができた。浄化と結界の張り直しができて良かったと。この世界で生きていけるような気がして居たと。しかし、ゆっくりする時間が出来ると、自分の世界の事を思い出してしまう。そして、婚約者の存在。諦める事も忘れる事もできなかったと。彼の横に自分ではない誰かが立っていると思うと苦しくなると。
ーごめんなさいー
最後に、そう書かれていた。
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