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王太子、動く
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「なら………外交の仕事を手伝う…のはどうだ?」
「外交の…手伝い…ですか?」
「ああ。今この国でも、貿易にも力を入れようとしているところでね。共通語でも問題はないんだけど、たまに、些細ではあるけど、言葉のニュアンスが微妙にズレている時があって、それが後々問題になる事もあるんだ。そんな時に、その相手の国の言葉を知っている者が居れば、その問題が解決するだろう?」
これは本当の事だ。口頭で契約を詰めていき、いざ書類を作成するとなった段階で、文字にした途端、違う意味となってしまう事が時々起こるのだ。そこで契約破棄となる事はないが、予定より大幅に時間が掛かってしまうのだ。
それに──
ーエヴィを国外になんて……ー
「所謂、“通訳”だな。」
「通訳………」
「国同士の契約になるから、身元がしっかりしていて信頼の置ける者にしか任せられないが、エヴィは伯爵令嬢で、王太子である俺が信頼しているから、何の問題もない。後は…その3ヶ国語がどれ程のレベルなのか、テストは受けてもらわないといけないが……どうだ?」
“独り立ちしたい”エヴィにとっては、狐に油揚げな話だろう。
現に、目の前に居るエヴィは、今迄俺には向けた事のないような、キラキラとした瞳で俺を見つめている。
ーうん。その顔、本当に可愛いからな?ー
んんっ。兎に角、後……ひと押しか?
「学生生活が後2年ある。その間に、試しにやってみて、卒業する迄にどうするか考える─のはどうだ?まぁ、さっきも言った通り、国政に関わる事だから、エヴィにも色々と制約は掛かるけどね。」
「あの……そんなに、私に良い事尽くめで良いんですか?試すだけ試して、“やっぱり、隣国に行きます”ってなっても良いんですか?」
「勿論構わない。こちらとしては、契約さえ守ってもらえればね。」
ーなんて言いながら、俺はエヴィを逃がすつもりは無いけどねー
と、心の中で呟きながらニッコリと微笑む。
その微笑みに、エヴィは逆に少し訝しんだ表情をしたけど……これはいつもの事だ。エヴィは俺の笑顔に、見惚れたり顔を赤らめる事は決して無い。
エヴィは、少し思案した後
「では、お言葉に甘えて……“お試し”させていただいて宜しいでしょうか?」
「勿論だ。早速、外交官に話をしておくから、色々決まったらまた報告する。あー…なんと言うか…ブルーム伯爵には、色々決まってから、王太子から話をするから、それ迄は黙っておいて欲しい。」
ーこんな話を耳にすれば、あの夫人とリンディ嬢が何をするのか分からないからなー
「分かり……ました。どうせ、私は寮生活で、両親に会うことも滅多にありませんから、その辺は特に問題ありません。殿下、それでは……宜しくお願いします。」
エヴィからお礼を受け入れた後、俺はそのまま王城へ帰るべく荷物を取りに教室へと向かった。
“国王と王妃と宰相以外の人払いを”
と城に着いた時に出迎えた女官に伝言を頼み、俺は一度部屋に戻り服を着替えてから父の執務室へと向かった。
俺がお願いした通り、執務室には国王と王妃と宰相の3人だけが居た。
「アシェル、おかえりなさい。」
「アシェル、何かあったのか?」
「王太子殿下、おかえりなさいませ。」
3人から出迎えられ、「ただいまかえりました」と軽く返事だけをして、俺はこの10ヶ月の間に起こった事の話をした。
「闇の……魔力持ち!?」
「はい。本人は隠していますが、エヴィは闇の魔力を持っています。」
「何故、そうだと言い切れる?その、アシェルが感じる悪いモノが視えて祓えるだけで、闇の魔力持ちだとは限らないだろう?」
「理由は、私の体調が良い事です。私はエヴィと接点を持ってからの10ヶ月の間、一度も体調を崩していません。おそらく、エヴィの闇の魔力が、無意識に私の強過ぎる光の魔力を中和しているんだと思います。」
「確かに……アシェルはここ最近寝込んだりはしてないわね…。と言うか…アシェル。もう既に名前呼びなのね?ふふっ─」
王妃は─母としての顔でニヤリ─と笑っている。女性と言うのは、その辺りの勘は鋭い。
「それに、彼女は母国語と大陸共通語以外に3ヶ国語が話せて、外交や貿易に興味があるようです。」
「宰相、後で外交官を呼んでくれ。」
流石は父である。俺の言いたい事が分かったようだ。
「恐れながら……その、エヴィ=ブルーム嬢は……あのリンディ嬢の……双子の姉ですよね?夫人やブレインから聞くエヴィ嬢は………」
「「「あ、ソレ、嘘だから」」」
3人─国王、王妃、王太子─の声が重なった。
「は?嘘?」
どうやら、ブルーム家の正確な内情は、宰相も把握し切れていなかったようだ。ブレインは置いといて、宰相であるドリュー公爵は、まともにエヴィに会った事も無いから、それも仕方無い事かもしれない。きっと、本人に会って話をすれば、ドリュー公爵もすぐに気付いた筈だ。
兎に角、エヴィを逃がすつもりがない為、宰相にもブルーム家の内情を説明した。
「──なるほど…。これで、色々と腑に落ちて…納得しました。」
説明した後の宰相は、スッキリした笑顔を見せた後、「私も随分と…舐められた様ですね……」と、黒い笑みを浮かべた。
「外交の…手伝い…ですか?」
「ああ。今この国でも、貿易にも力を入れようとしているところでね。共通語でも問題はないんだけど、たまに、些細ではあるけど、言葉のニュアンスが微妙にズレている時があって、それが後々問題になる事もあるんだ。そんな時に、その相手の国の言葉を知っている者が居れば、その問題が解決するだろう?」
これは本当の事だ。口頭で契約を詰めていき、いざ書類を作成するとなった段階で、文字にした途端、違う意味となってしまう事が時々起こるのだ。そこで契約破棄となる事はないが、予定より大幅に時間が掛かってしまうのだ。
それに──
ーエヴィを国外になんて……ー
「所謂、“通訳”だな。」
「通訳………」
「国同士の契約になるから、身元がしっかりしていて信頼の置ける者にしか任せられないが、エヴィは伯爵令嬢で、王太子である俺が信頼しているから、何の問題もない。後は…その3ヶ国語がどれ程のレベルなのか、テストは受けてもらわないといけないが……どうだ?」
“独り立ちしたい”エヴィにとっては、狐に油揚げな話だろう。
現に、目の前に居るエヴィは、今迄俺には向けた事のないような、キラキラとした瞳で俺を見つめている。
ーうん。その顔、本当に可愛いからな?ー
んんっ。兎に角、後……ひと押しか?
「学生生活が後2年ある。その間に、試しにやってみて、卒業する迄にどうするか考える─のはどうだ?まぁ、さっきも言った通り、国政に関わる事だから、エヴィにも色々と制約は掛かるけどね。」
「あの……そんなに、私に良い事尽くめで良いんですか?試すだけ試して、“やっぱり、隣国に行きます”ってなっても良いんですか?」
「勿論構わない。こちらとしては、契約さえ守ってもらえればね。」
ーなんて言いながら、俺はエヴィを逃がすつもりは無いけどねー
と、心の中で呟きながらニッコリと微笑む。
その微笑みに、エヴィは逆に少し訝しんだ表情をしたけど……これはいつもの事だ。エヴィは俺の笑顔に、見惚れたり顔を赤らめる事は決して無い。
エヴィは、少し思案した後
「では、お言葉に甘えて……“お試し”させていただいて宜しいでしょうか?」
「勿論だ。早速、外交官に話をしておくから、色々決まったらまた報告する。あー…なんと言うか…ブルーム伯爵には、色々決まってから、王太子から話をするから、それ迄は黙っておいて欲しい。」
ーこんな話を耳にすれば、あの夫人とリンディ嬢が何をするのか分からないからなー
「分かり……ました。どうせ、私は寮生活で、両親に会うことも滅多にありませんから、その辺は特に問題ありません。殿下、それでは……宜しくお願いします。」
エヴィからお礼を受け入れた後、俺はそのまま王城へ帰るべく荷物を取りに教室へと向かった。
“国王と王妃と宰相以外の人払いを”
と城に着いた時に出迎えた女官に伝言を頼み、俺は一度部屋に戻り服を着替えてから父の執務室へと向かった。
俺がお願いした通り、執務室には国王と王妃と宰相の3人だけが居た。
「アシェル、おかえりなさい。」
「アシェル、何かあったのか?」
「王太子殿下、おかえりなさいませ。」
3人から出迎えられ、「ただいまかえりました」と軽く返事だけをして、俺はこの10ヶ月の間に起こった事の話をした。
「闇の……魔力持ち!?」
「はい。本人は隠していますが、エヴィは闇の魔力を持っています。」
「何故、そうだと言い切れる?その、アシェルが感じる悪いモノが視えて祓えるだけで、闇の魔力持ちだとは限らないだろう?」
「理由は、私の体調が良い事です。私はエヴィと接点を持ってからの10ヶ月の間、一度も体調を崩していません。おそらく、エヴィの闇の魔力が、無意識に私の強過ぎる光の魔力を中和しているんだと思います。」
「確かに……アシェルはここ最近寝込んだりはしてないわね…。と言うか…アシェル。もう既に名前呼びなのね?ふふっ─」
王妃は─母としての顔でニヤリ─と笑っている。女性と言うのは、その辺りの勘は鋭い。
「それに、彼女は母国語と大陸共通語以外に3ヶ国語が話せて、外交や貿易に興味があるようです。」
「宰相、後で外交官を呼んでくれ。」
流石は父である。俺の言いたい事が分かったようだ。
「恐れながら……その、エヴィ=ブルーム嬢は……あのリンディ嬢の……双子の姉ですよね?夫人やブレインから聞くエヴィ嬢は………」
「「「あ、ソレ、嘘だから」」」
3人─国王、王妃、王太子─の声が重なった。
「は?嘘?」
どうやら、ブルーム家の正確な内情は、宰相も把握し切れていなかったようだ。ブレインは置いといて、宰相であるドリュー公爵は、まともにエヴィに会った事も無いから、それも仕方無い事かもしれない。きっと、本人に会って話をすれば、ドリュー公爵もすぐに気付いた筈だ。
兎に角、エヴィを逃がすつもりがない為、宰相にもブルーム家の内情を説明した。
「──なるほど…。これで、色々と腑に落ちて…納得しました。」
説明した後の宰相は、スッキリした笑顔を見せた後、「私も随分と…舐められた様ですね……」と、黒い笑みを浮かべた。
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