上 下
10 / 75

学校

しおりを挟む
貴族の令息令嬢は、15歳か16歳になると学校に通う事になる。卒業は18歳で、その卒業と共に成人と見做され、社交界デビューとなる。

そして、ついに姉のジェマが15歳となり、学校へ通う事になった。婚約者であるブレイン=アンカーソン様も同い年なので、一緒に通えると嬉しそうに言っていた姉は可愛かった。ただ、我が家から学校へは馬車で1時間程で行けるのだが、姉の伯父(フリージア様の兄)の邸が学校から10分程の所にあり、「ウチから通わないかい?」と、声を掛けてくれたらしく、姉はそのローアン侯爵邸から学校に通う事になった。
離れて暮らす事は寂しいけど、姉にとっては良い事なんだと自分に言い聞かせて、私は姉を笑顔で見送った。




「ジェマ様が居なくなっても、私が居ますからね!?」

と、ライラが言ってくれたように、私は相変わらず父や母から見てもらえる事もなく、リンディにはチクリと言われる事もあったけど、その度にライラが私を外に連れ出してくれたりして、心が痛む事がなく過ごす事ができた。









そして、更に2年が経ち、私とリンディも学校へ通う年を迎えた。

「リンディは、王城で魔法の指導を受けているから、時間が無駄にならないようにと提案されたの。」

と、母が嬉しそうに、私に教えてくれたのは─
学校から近い王城の客室をリンディにあてがい、そこから通学すると言う事だった。

「ひょっとしたら、王太子殿下との婚約も……」

と母は更に嬉しそうに呟いた。
因みに、私は学校の寮に入る事になっている。

「その方が、エヴィも楽でしょう?」

確かに、毎日往復で2時間も馬車に揺られるのは辛い。母達の本音は、“エヴィわたしには構ってられないから”だろうけど。兎に角、この邸で過ごすよりは、寮生活の方が私にとっても嬉しいことに変わりはないから良いけどね。
それに、侍女を一人連れて行けると言う事で、ライラも連れて行く事ができるから、嬉しい事尽くめである。


そうして、リンディが王城へ、私は寮へと引っ越しをする前日の夜は、家族5人でお祝いを兼ねた夕食になった。
そこには、相変わらずリンディの好きな物がズラリと並んでいた。どうやら、サイラスも同じ様な好みらしい。

勿論、最後に出て来たのは、ベリーたっぷりのパイ──だけど、ライラがこっそりと、見た目はベリーパイと変わらないけど、中身が私が大好きなカスタードたっぷりのパイを私に用意してくれていた。チラリとライラに視線を向けると、エメリーも笑っていたから、エメリーとライラが気遣ってくれたんだと言う事が分かった。

ーうん。私は…大丈夫だ。ありがとうー

心の中で囁いてから、私はそのカスタードパイを食べた。















「エヴィ!」
「お姉様!?」

学校の寮へとやって来た日。
私にあてがわれた部屋で、ライラと荷物整理をしていると、姉が部屋にやって来た。

「エヴィ、元気だった?前の休みには帰れなかったから…。」

「はい。私は元気でしたよ!お姉様も…元気そうで良かったです。」

姉と抱き合って再会を喜んでいると「お茶を淹れますね」と、ライラがお茶を淹れてくれて、その日は久し振りに姉とゆっくり話をした。












*その頃の王城にて*


「リンディ嬢、ようこそ。ここに来たのはリンディ嬢なんですね。」

「はい。あの…すみません。折角…声を掛けていただいたのに。」

シュン─と切なそうな顔をしながら謝るリンディ。いかにも儚げな少女である。

「いや…リンディ嬢が謝る必要はないですよ。それに、義務ではないですからね。エヴィ嬢が事も自由ですから。」

「母親である私からも謝罪を─。折角、エヴィもリンディと一緒に王城からとお誘いして頂いたにも関わらず…寮生活を希望して、すみませんでした。」

「ブルーム伯爵夫人。先程も言いましたが、義務ではありませんから、気にしないで下さい。それに、私も国王陛下も怒っていませんから。」

「ありがとうございます。アンカーソン様。」



王城で、リンディ達を出迎えたのはアンカーソン公爵だった。ジェマの婚約者ブレインの父親であり、宰相でもある。

リンディを王城の客室で預かる─と言うのは、早い段階から決まっていた。光の魔力持ちは、稀な存在故に色んな意味で狙われる事があり、その身を護る為にも都合が良かったからだ。勿論、光の魔力の訓練もあるからと言うのも事実だった。

ただ、王城に一人とは寂しいだろうと言う事で、「双子の姉のエヴィと一緒に来てはどうか?」と言う話になったのだ。

「一度、本人に訊いて見ます。」とブルーム伯爵夫人に言われて返事を保留。本人に確認後に言われたのは

「王城よりも、寮の方が良い」だった。

エヴィ嬢は馬車もあまり好きではないらしく、毎日の通学が苦痛になるから、寮に入りたい─と。確かに、義務では無いが……コレが我が息子の婚約者ジェマの妹なのか─と思うと、少し頭が痛くなった。そのせいか、ブルーム伯爵夫人が呟いた事を聞き逃してしまったのだった。





「───魔力無しなんて恥ずかしい子を、王城には連れては来れないわ。」








しおりを挟む
感想 188

あなたにおすすめの小説

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。 令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。 愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ―――― 婚約は解消となった。 物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。 視点は、成金の商人視点。 設定はふわっと。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...