最初で最後の我儘を

みん

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再会

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今、私─ジゼル=フォレクシスは、温かい何かに…包まれています。それは、温かいけど決して柔らかくない…むしろ硬い。そして、私の頬に触れているのは、私よりもサラサラとしているであろう黒い髪。

どうやら、私は……ヴィンス様に抱きしめられているようです。

「ジゼル様……」
「はい…」
「ジゼル……さま……」
「……はい………」
「……よかった…………」

チラッ─と、プリュイに視線を向けると、ちょうどプリュイが自分の水槽へと入って行くところだった。何とも……空気の読める妖精である。


よしよし─と言う気持ちを込めて、ヴィンス様の背中を無でると、ヴィンス様は私を抱きしめていた腕を緩めて、私と視線を合わせるように体を離した。

「どこか…おかしい所はないですか?」
「はい、大丈夫です。」
「良かった…取り敢えず……医師を呼んで来ます。何か飲み物も持って来ます。それで……落ち着いたら……ゆっくり話がしたい……。」
「……はい。私も……ヴィンス様とお話ししたいです。」

素直に答えると、ヴィンス様はフワッと微笑んで両手で私の頬を優しく包み込んでおでこにキスをした後、この部屋から出て行った。

「─────!!」

ーあ…甘い!ヴィンス様が…甘い!ー

恥ずかしくて布団に突っ伏している私を、水槽の中から見ていたプリュイは、嬉しそうに見ていた──事に、ジゼルは勿論、気付いてはいなかった。


それから、竜国は一気に忙しくなった。

ジゼルが目覚めたと言う知らせは、直ぐにフォレクシス王国に届いた。
ジゼルは、スタンピードが落ち着いてから半年後には、プリュイのお陰で魔女の呪いから開放されたが、更にそのまま3ヶ月程眠り続けていたのだ。
何故なら、今迄抑えつけられていた、本来ジゼルが持っていた能力が一気に活性化され、それに耐える為に眠りに就いていたのだろう─と言う事だった。
本来のジゼルは無能ではなく、水と白の魔力持ちの黒虎だ。能力で言えば、兄であるレナルド王太子と同等なのだ。

そのジゼルが、魔女の呪いから開放されたが眠りに就いている間は来るな─と、竜王からピシャリと通達されていた為、ヴィンスとプリュイ以外は誰も竜国へとやって来る事はなかった。
それが、ようやくジゼルが目覚め、更に1ヶ月程経ってからようやく竜国に来ても良い─と許可が下りたのだ。真っ先に許可が下りやって来たのは、フォレクシスの兄妹達─レナルド王太子、セレニア第一王女、シェール第三王女だった。




『『『ジゼル!!』』』
「え!?お兄様、お姉様…シェール!?」

しかも、余程急いで来たのだろう。3人ともが獣化した姿─白虎のままでやって来たのだ。
ジゼルの過ごしていた部屋に続く庭園で寛いでいたところに、白虎3頭がやって来て、そのままの勢いでジゼルに飛び付いた。
勿論、ジゼルは驚きつつも、自身も久し振りに……黒虎へと獣化した。

ジゼルの獣化は…約10年ぶりだった。
魔女の呪いをより強めると言う理由で獣化できず、これもまた、無能王女と蔑まれる要因となったものの一つだった。

白虎3頭、黒虎1頭は、そのまま暫くの間、王族と言う立場を忘れたかのように庭園を駆けまくっていた。






「「疲れた……」」

人の姿に戻ったレナルドとセレニアは、トリーが淹れたお茶を飲みながら、ソファーにグッタリとしている。ジゼルとシェールに至っては、獣化したまま庭園の木陰でくっつくようにして眠ってしまっている。

レナルドとセレニアの対面のソファーに座っているのは、シモンとヴィンス。2人は、今迄の事を全て2人に話した。魔女の呪いが解けなければ口外するつもりはなかったが、魔女の呪いが解けた今なら、話しても良い─と、予めジゼルから許可をもらっていたからだ。

「竜王陛下曰く、もう、魔女の呪いが引き継がれる事はないだろう─との事です。」
「そうか…それなら良かった。それなら、ジゼルも安心して……ヴィンスと結婚して、子も生めるだろう。」
「ごふっ───なっ……!?」

レナルドの言葉に、飲んでいたお茶を吹き出しそうになるのを耐えたのは、勿論ヴィンス=サクソニアだった。

「何だ?その反応は……お前……私の可愛いジゼルだと…不満だと言うのか?」
「あら?私の可愛いジゼルが不満なら、貴方にはあげないわよ。私の可愛いジゼルなら、貰い手などいくらでも──」

レナルドの意味の分からない牽制?に、更にセレニアがヴィンスに圧力?を掛ける。

「そんな事一言も言っていません。他の誰にも渡すつもりもありません。お2人が反対されようとも、私はジゼル様を諦めるつもりはありません。ジゼル様が私を選んでくれるのなら…いえ、拒否られても、選んでもらえるまで頑張ります。」

「へー……」
「あら、そう……」
「………」

少しの間、満面の笑顔のままで睨み合い?が続き─

「ふっ──レナルド王太子殿下も、セレニア王女殿下も、お巫山戯はそのへんでお止め下さい。」

と、シモンが苦笑する。

「ふん─認めていない訳ではないし、巫山戯てもいないからな?ジゼルは……本当に可愛いし、無能ではないし……可愛いんだ。」

と、“可愛い”を二度言うレナルドに、シモンとヴィンスは笑うしかなかった。









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