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竜国
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目の前に広がっているのは闇だった。
また、何かが背後から追って来るのを、必死に足を動かして逃げる。夢だと分かる夢だ。
ここ暫くの間─プリュイと契約を交わしてからは見る事がなかった夢。いつもなら、ギリギリでも目が覚めて、何かに追いつかれる事はなかった。
『───つかまえた』
「──っ!!」
何かに、左手首を掴まれた。その何かは、酷く冷たくて……気持ちの悪いものだった。
『お前も、同じ苦しみを……味わえばいい』
「────っ!!」
ハッと目を覚ますと、部屋の中はまだ暗かった。
ドクドクと、心臓が痛い程に脈打っていて、体中の汗が酷い。それに………
左手首に痛みがある
「────っ!」
この痛みには覚えがある。イバラの模様が伸びる時の痛みだ。
ーどうして?ー
今の私は、1人でただただ寝ていただけだ。怪我人や病人に触れたりなんかもしていない。それに、左手首にはちゃんと、竜王様から頂いたブレスレットを着けている。でも、その痛みは……夢でもなく、確実にそこにある。
『───シモン……さま………』
震える体を自分自身で抱え込むように抱きしめて、震える声でシモン様の名を呟いた。
******
「─ん………あれ?ここは……?」
目を開けると、そこには見知らぬ景色が広がっていた。
夜だと思っていたが、すでに日が昇った後だったようで、開け放たれている窓からは光が降り注いでいて、爽やかな風が入り込み、カーテンがフワフワと風に靡いている。
ここは、私が居たはずのレイノックスの王城の客室ではない。学園の寮の私の部屋でもない。
「あ、お目覚めになりましたか?」
「え?」
ここはどこか─と考えていると、ふいに声をかけられ、その声の方へと視線を向ければ、長い黒髪を頭の上で括り上げ、少し釣り目気味の金色の目をした侍女らしき女性が居た。
ー誰だろう?ー
雰囲気からして、人間ではないだろうと思う。「気分はどうですか?」と訊かれ、「大丈夫です」と答えれば、「何か飲み物をお持ちします。」と言って、その女性は部屋から出て行った。
暫くした後、その侍女と一緒にやって来たのは
「シモン様!竜王陛下!?」
「あぁ、ジゼル、そのままで良いから。」
ベッドから出ようとした私を、竜王様が片手を上げて制止させる。「そのままで良いから、話をしよう」と言われ、私はベッドの上で座ったままで、竜王様はベッドサイドの椅子に座り、シモン様はその竜王様の少し後ろに立っていた。
どうやら、私は左手首に痛みを感じ、縋る思いのままシモン様の名を呟いた後、意識を失っていたようで、名を呼ばれたシモン様が私の所に飛んで来た時には、真っ青な顔でベッドの下に倒れていたらしい。
そんな私の異変に気付いたシモン様は、そのまま私を竜国まで連れて来たそうだ。
「竜国……?」
「そう。ここは、竜国の私の居城だ。」
「すみません。急を要する事でしたので、ジゼル様の意思を確認せずに連れて来ましたが、先程、レイノックスとフォレクシスには知らせの遣いを送りました。」
「あ…ありがとうございます。その…すみません…。」
“急を要する事”
ー夢では…なかったんだー
左手首に着いているブレスレットを、右手でギュッと握る。
「……お気付きかもしれませんが……ジゼル様。左手首の模様が……出来上がっています。」
「そう………ですか…………」
「ジゼル…」
竜王様が、私の背中を優しく撫でてくれる。
ーどうして?ー
「喩え模様が完成してしまったとしても、今すぐジゼル様がどうこうなる─と言う事はありません。ただ……ブレスレットをしていたのに完成してしまったとなれば……今迄のような生活は……」
シモン様が言い淀む。
“長生きをしたいなら、自由な生活は捨てろ”
とは、言い難い事だろう。
「分かってますから……」
「何故急にそうなったのか調べています。それと、新たにもう少し強い抑制力を掛けた物を作っています。」
「ありがとうございます。」
「それともう一つ。下界より、上空にある竜国の方が魔女の呪いの影響が少ないと思われるので、暫くの間は、ここで過ごしていただきます。」
「え!?」
ー竜国の王城で過ごす!?ー
「そんなご迷惑は──」
「迷惑ではないよ。それに……ジゼルがここに居てくれる方が、私も安心するから。」
と、竜王様に言われてしまうと、それ以上は遠慮する事も断る事もできず、私は暫くの間、竜国で過ごす事となった。
新しいブレスレットが出来上がる迄は、出来る限り他人との接触は控えた方が良いだろう─と言う事で、私の侍女兼護衛のヴァレリアも、竜国に呼ぶ事は保留となった。その代わり、目覚めた時に居た侍女─トリーが私のお世話をしてくれる事になった。
竜人は滅多な事がない限り、病気になる事はない。毒も殆ど効かない程体が頑丈らしい。それに、多少の事では怪我をする事もないし、怪我をしたとしても直ぐに直る。そして、何より魔女の呪いとは関係の無い竜族。下界に戻るより安全だと言う可能性は高いだろうと思う。何となく、下界に居る時よりも、体が軽く感じるのも、気のせいではないかもしれない。
でも───
「……ヴィンス様に会えないのは……ちょっと寂しい…かも?」
その気持ちには、そっと……蓋をした。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
٩(๑>∀<๑)و♡
また、何かが背後から追って来るのを、必死に足を動かして逃げる。夢だと分かる夢だ。
ここ暫くの間─プリュイと契約を交わしてからは見る事がなかった夢。いつもなら、ギリギリでも目が覚めて、何かに追いつかれる事はなかった。
『───つかまえた』
「──っ!!」
何かに、左手首を掴まれた。その何かは、酷く冷たくて……気持ちの悪いものだった。
『お前も、同じ苦しみを……味わえばいい』
「────っ!!」
ハッと目を覚ますと、部屋の中はまだ暗かった。
ドクドクと、心臓が痛い程に脈打っていて、体中の汗が酷い。それに………
左手首に痛みがある
「────っ!」
この痛みには覚えがある。イバラの模様が伸びる時の痛みだ。
ーどうして?ー
今の私は、1人でただただ寝ていただけだ。怪我人や病人に触れたりなんかもしていない。それに、左手首にはちゃんと、竜王様から頂いたブレスレットを着けている。でも、その痛みは……夢でもなく、確実にそこにある。
『───シモン……さま………』
震える体を自分自身で抱え込むように抱きしめて、震える声でシモン様の名を呟いた。
******
「─ん………あれ?ここは……?」
目を開けると、そこには見知らぬ景色が広がっていた。
夜だと思っていたが、すでに日が昇った後だったようで、開け放たれている窓からは光が降り注いでいて、爽やかな風が入り込み、カーテンがフワフワと風に靡いている。
ここは、私が居たはずのレイノックスの王城の客室ではない。学園の寮の私の部屋でもない。
「あ、お目覚めになりましたか?」
「え?」
ここはどこか─と考えていると、ふいに声をかけられ、その声の方へと視線を向ければ、長い黒髪を頭の上で括り上げ、少し釣り目気味の金色の目をした侍女らしき女性が居た。
ー誰だろう?ー
雰囲気からして、人間ではないだろうと思う。「気分はどうですか?」と訊かれ、「大丈夫です」と答えれば、「何か飲み物をお持ちします。」と言って、その女性は部屋から出て行った。
暫くした後、その侍女と一緒にやって来たのは
「シモン様!竜王陛下!?」
「あぁ、ジゼル、そのままで良いから。」
ベッドから出ようとした私を、竜王様が片手を上げて制止させる。「そのままで良いから、話をしよう」と言われ、私はベッドの上で座ったままで、竜王様はベッドサイドの椅子に座り、シモン様はその竜王様の少し後ろに立っていた。
どうやら、私は左手首に痛みを感じ、縋る思いのままシモン様の名を呟いた後、意識を失っていたようで、名を呼ばれたシモン様が私の所に飛んで来た時には、真っ青な顔でベッドの下に倒れていたらしい。
そんな私の異変に気付いたシモン様は、そのまま私を竜国まで連れて来たそうだ。
「竜国……?」
「そう。ここは、竜国の私の居城だ。」
「すみません。急を要する事でしたので、ジゼル様の意思を確認せずに連れて来ましたが、先程、レイノックスとフォレクシスには知らせの遣いを送りました。」
「あ…ありがとうございます。その…すみません…。」
“急を要する事”
ー夢では…なかったんだー
左手首に着いているブレスレットを、右手でギュッと握る。
「……お気付きかもしれませんが……ジゼル様。左手首の模様が……出来上がっています。」
「そう………ですか…………」
「ジゼル…」
竜王様が、私の背中を優しく撫でてくれる。
ーどうして?ー
「喩え模様が完成してしまったとしても、今すぐジゼル様がどうこうなる─と言う事はありません。ただ……ブレスレットをしていたのに完成してしまったとなれば……今迄のような生活は……」
シモン様が言い淀む。
“長生きをしたいなら、自由な生活は捨てろ”
とは、言い難い事だろう。
「分かってますから……」
「何故急にそうなったのか調べています。それと、新たにもう少し強い抑制力を掛けた物を作っています。」
「ありがとうございます。」
「それともう一つ。下界より、上空にある竜国の方が魔女の呪いの影響が少ないと思われるので、暫くの間は、ここで過ごしていただきます。」
「え!?」
ー竜国の王城で過ごす!?ー
「そんなご迷惑は──」
「迷惑ではないよ。それに……ジゼルがここに居てくれる方が、私も安心するから。」
と、竜王様に言われてしまうと、それ以上は遠慮する事も断る事もできず、私は暫くの間、竜国で過ごす事となった。
新しいブレスレットが出来上がる迄は、出来る限り他人との接触は控えた方が良いだろう─と言う事で、私の侍女兼護衛のヴァレリアも、竜国に呼ぶ事は保留となった。その代わり、目覚めた時に居た侍女─トリーが私のお世話をしてくれる事になった。
竜人は滅多な事がない限り、病気になる事はない。毒も殆ど効かない程体が頑丈らしい。それに、多少の事では怪我をする事もないし、怪我をしたとしても直ぐに直る。そして、何より魔女の呪いとは関係の無い竜族。下界に戻るより安全だと言う可能性は高いだろうと思う。何となく、下界に居る時よりも、体が軽く感じるのも、気のせいではないかもしれない。
でも───
「……ヴィンス様に会えないのは……ちょっと寂しい…かも?」
その気持ちには、そっと……蓋をした。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
٩(๑>∀<๑)و♡
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