45 / 64
彩香と美緒
しおりを挟む
*大森彩香視点*
「聖女のくせに、そんな事もできないの?」
ー本当に呆れるー
この世界の聖女とは、光属性─光の魔力持ちの事をそう呼ぶそうだ。もともとこの国にも居た聖女達は、レベルが低過ぎて使い物にならないと言う事で、私達が召喚されたらしい。
“死に直面した者”、“魂がこの世界に馴染む者”
ラノベ定番。なら、聖女である私は、この世界では私の思うままに進められる筈。これも定番で、王城に居る人は皆綺麗な顔をしている。残念なのは、王太子が女だった事。
ーそこは、金髪緑眼の王子でしょう!?ー
しかも、その王太子─カミリアは、何故か私に向ける視線がキツい。顔は笑っているのに、目が全く笑っていないのだ。
「本当に…ムカつく」
何より、あのカミリア王女が常に側に置いているのがリュークレイン様。初めて見た時、一瞬にして目と心を奪われた。アッシュグレーの髪に、綺麗な紫色の瞳。陽真が一瞬にして平凡な…ちっぽけな存在に思えた。この世界には来ていないようだけど、もし、またアイツに会う事になったら、陽真はあげても良いと思っている。
ー兎に角、その前にー
「本当に、それで本気出してるの?有り得ない。よくそんなんで“聖女”なんて名乗れるわね。私なら、恥ずかしくて言えないわ」
「──っ!」
目の前に居る名ばかりの聖女は、ギュッと自分の服を握り締めて俯いている。
ーふんっ。泣けば許されるとでも思ってるの?ー
と、言ってやろうかと思った時
「何をしているの?」
東の魔女─アシーナが、また私の邪魔をするようにやって来た。
「アシーナ様。何も…ありませんわ。ただ、ケリーさんと浄化の練習をしていただけです」
私は振り返り、ケリーの肩に手を置いてフワリと微笑みながら答えた。
「……そう」
名ばかり聖女のケリーは、ビクビクしながら私に視線を向けている。
ー本当に鬱陶しいー
「ケリー、今日はこれで上がって良いわ。お疲れ様」
「は──はいっ!今日も指導をしていただき、ありがとうございました!」
ケリーは、東の魔女にペコリと頭を下げてお礼を言った後、訓練場から出て行った。
ー魔女より、聖女の方が上なのに、あんに簡単に頭を下げるなんてー
この国の東西南北の魔女4人は、国民からの信頼が厚く人気もある。その筆頭が、このアシーナ。この女も本当に気に入らない。私が役立たずな聖女に指導してあげていると、必ずと言って良い程やって来る。そして、いつも指導の邪魔をしてくるのだ。本当に邪魔な存在だけど、魔女の筆頭であり、あのリュークレイン様の叔母でもある。将来、私の叔母にもなり得る人ならば仕方無いと、言いたい事は我慢している。
それでも、色々我慢ができなくなると───
「本当にムカつく!」
「…………」
私の部屋は、王城敷地内にある別棟の客室にある。そして、隣の部屋に美緒が。その隣に樹君、その隣に陽真の部屋がある。
私は今、美緒の部屋で思いの限り叫んでいる。
「この国の聖女は役立たずだし、アシーナはいつも邪魔をするし、カミリアはリュークレイン様を独り占めするし、何で思い通りにならないの!?」
叫び続ける私に、美緒は何も言っては来ない。美緒は私の幼馴染み。ただそれだけの存在だ。私の引き立て役でもあった。ただ、美緒もこの世界に来てからは、あまり私の言う事をきかなくなった。
「この世界に来てまで、彩香の言う事を無条件で聞く必要は……無いよね?」
なんて、生意気な事を言われて、思わず美緒の顔をひっぱたいてしまった。
「──これで満足した?」
赤くなった頬を、一瞬にして風魔法で冷やして治した美緒。
「もう、私は彩香の言いなりになるだけの存在じゃないから。私は、私の足でしっかりと立って、この世界で生きて行くと決めたの。彩香、あなたも、そろそろちゃんと考えて動かないと……自分の行いは、必ず自分に返って来るよ?アシーナさんにも…言われたでしょう?」
“自分の行いが自分に返って来る”
と言うなら、私はこの世界を救うのだから、私もあらゆる困難や苦労から救われると言う事じゃない?
「返って来ると言うなら、楽しみね!」
ニッコリ笑う私とは逆に、美緒は眉間に皺を寄せて黙り込んだ。
*関元美緒視点*
『返って来ると言うなら、楽しみね!』
ーあぁ、彩香には言葉が通じないのかー
と、ため息を吐くのをグッと我慢する。
“自分の行い=浄化”─しか、頭に無いと言う事なんだろう。
態々、アシーナさんが忠告してくれたのに。
彩香は理解していない。
彩香は、この国を救う為に召喚されたと信じている。
それは違う──私達は……助けられたのだ。
“死に直面した者”で、“この世界に魂が馴染む”身体を持っていたから、死ぬ前に助けられてこの世界に来れたのだ。ならば、今度は私達がその恩を、真摯に受け止めて、お返しをしなければいけないのだ。
きっと、本当の意味での自由は、それが終わってからだろうと思う。心配していた望月さんの無事は確認できたし、ゆっくり話す事もできて本当に良かった。
未だに、彩香の口からは望月さんを心配するどころか、名前すら出て来ていない。
ー浄化巡礼が終わったら……友達として付き合ってもらえるかなぁ?ー
異世界生活は少し不安な事もあるけど、一つの心配事が無くなり、そんな小さな楽しみができたお陰か、私はその日、緑色の光に優しく包まれる夢を視たのだった。
「聖女のくせに、そんな事もできないの?」
ー本当に呆れるー
この世界の聖女とは、光属性─光の魔力持ちの事をそう呼ぶそうだ。もともとこの国にも居た聖女達は、レベルが低過ぎて使い物にならないと言う事で、私達が召喚されたらしい。
“死に直面した者”、“魂がこの世界に馴染む者”
ラノベ定番。なら、聖女である私は、この世界では私の思うままに進められる筈。これも定番で、王城に居る人は皆綺麗な顔をしている。残念なのは、王太子が女だった事。
ーそこは、金髪緑眼の王子でしょう!?ー
しかも、その王太子─カミリアは、何故か私に向ける視線がキツい。顔は笑っているのに、目が全く笑っていないのだ。
「本当に…ムカつく」
何より、あのカミリア王女が常に側に置いているのがリュークレイン様。初めて見た時、一瞬にして目と心を奪われた。アッシュグレーの髪に、綺麗な紫色の瞳。陽真が一瞬にして平凡な…ちっぽけな存在に思えた。この世界には来ていないようだけど、もし、またアイツに会う事になったら、陽真はあげても良いと思っている。
ー兎に角、その前にー
「本当に、それで本気出してるの?有り得ない。よくそんなんで“聖女”なんて名乗れるわね。私なら、恥ずかしくて言えないわ」
「──っ!」
目の前に居る名ばかりの聖女は、ギュッと自分の服を握り締めて俯いている。
ーふんっ。泣けば許されるとでも思ってるの?ー
と、言ってやろうかと思った時
「何をしているの?」
東の魔女─アシーナが、また私の邪魔をするようにやって来た。
「アシーナ様。何も…ありませんわ。ただ、ケリーさんと浄化の練習をしていただけです」
私は振り返り、ケリーの肩に手を置いてフワリと微笑みながら答えた。
「……そう」
名ばかり聖女のケリーは、ビクビクしながら私に視線を向けている。
ー本当に鬱陶しいー
「ケリー、今日はこれで上がって良いわ。お疲れ様」
「は──はいっ!今日も指導をしていただき、ありがとうございました!」
ケリーは、東の魔女にペコリと頭を下げてお礼を言った後、訓練場から出て行った。
ー魔女より、聖女の方が上なのに、あんに簡単に頭を下げるなんてー
この国の東西南北の魔女4人は、国民からの信頼が厚く人気もある。その筆頭が、このアシーナ。この女も本当に気に入らない。私が役立たずな聖女に指導してあげていると、必ずと言って良い程やって来る。そして、いつも指導の邪魔をしてくるのだ。本当に邪魔な存在だけど、魔女の筆頭であり、あのリュークレイン様の叔母でもある。将来、私の叔母にもなり得る人ならば仕方無いと、言いたい事は我慢している。
それでも、色々我慢ができなくなると───
「本当にムカつく!」
「…………」
私の部屋は、王城敷地内にある別棟の客室にある。そして、隣の部屋に美緒が。その隣に樹君、その隣に陽真の部屋がある。
私は今、美緒の部屋で思いの限り叫んでいる。
「この国の聖女は役立たずだし、アシーナはいつも邪魔をするし、カミリアはリュークレイン様を独り占めするし、何で思い通りにならないの!?」
叫び続ける私に、美緒は何も言っては来ない。美緒は私の幼馴染み。ただそれだけの存在だ。私の引き立て役でもあった。ただ、美緒もこの世界に来てからは、あまり私の言う事をきかなくなった。
「この世界に来てまで、彩香の言う事を無条件で聞く必要は……無いよね?」
なんて、生意気な事を言われて、思わず美緒の顔をひっぱたいてしまった。
「──これで満足した?」
赤くなった頬を、一瞬にして風魔法で冷やして治した美緒。
「もう、私は彩香の言いなりになるだけの存在じゃないから。私は、私の足でしっかりと立って、この世界で生きて行くと決めたの。彩香、あなたも、そろそろちゃんと考えて動かないと……自分の行いは、必ず自分に返って来るよ?アシーナさんにも…言われたでしょう?」
“自分の行いが自分に返って来る”
と言うなら、私はこの世界を救うのだから、私もあらゆる困難や苦労から救われると言う事じゃない?
「返って来ると言うなら、楽しみね!」
ニッコリ笑う私とは逆に、美緒は眉間に皺を寄せて黙り込んだ。
*関元美緒視点*
『返って来ると言うなら、楽しみね!』
ーあぁ、彩香には言葉が通じないのかー
と、ため息を吐くのをグッと我慢する。
“自分の行い=浄化”─しか、頭に無いと言う事なんだろう。
態々、アシーナさんが忠告してくれたのに。
彩香は理解していない。
彩香は、この国を救う為に召喚されたと信じている。
それは違う──私達は……助けられたのだ。
“死に直面した者”で、“この世界に魂が馴染む”身体を持っていたから、死ぬ前に助けられてこの世界に来れたのだ。ならば、今度は私達がその恩を、真摯に受け止めて、お返しをしなければいけないのだ。
きっと、本当の意味での自由は、それが終わってからだろうと思う。心配していた望月さんの無事は確認できたし、ゆっくり話す事もできて本当に良かった。
未だに、彩香の口からは望月さんを心配するどころか、名前すら出て来ていない。
ー浄化巡礼が終わったら……友達として付き合ってもらえるかなぁ?ー
異世界生活は少し不安な事もあるけど、一つの心配事が無くなり、そんな小さな楽しみができたお陰か、私はその日、緑色の光に優しく包まれる夢を視たのだった。
78
お気に入りに追加
1,659
あなたにおすすめの小説

チョイス伯爵家のお嬢さま
cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。
ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。
今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。
産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。
4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。
そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。
婚約も解消となってしまいます。
元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。
5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。
さて・・・どうなる?
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。
――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?
追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※序盤1話が短めです(1000字弱)
※複数視点多めです。
※小説家になろうにも掲載しています。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。
なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。
王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる