没落令嬢は、おじさん魔道士を尽くスルーする

みん

文字の大きさ
上 下
21 / 22

21 可愛い人

しおりを挟む
「ハル殿、呼び出して申し訳無い。一応、ニア…彼女の事を見てもらえるかな?」
「勿論、任せて下さい!」

2人はとても……仲が良さそうだ。

「………」

やっぱりツキン─と胸が痛くなって、何を言えば良いか、何を聞けば良いかも分からなくなる。すると、「はぁ───」と、リュウ様が大きなため息を吐いた。

「えっと…ニアさんだっけ?彼女はハル=カルザインだ。こう見えて、成人した2人の子持ちで、旦那とはラブラブヨロシク夫婦だから、何も気にする必要はないから。」
「え!?」
「──なっ!!??」

ボンッ─と音が出そうな勢いで顔を真っ赤にして慌てだしたのはハルさん。

「“ラブラブヨロシク”って、言う必要ある!?無いよね!?」

ーえ?この人、可愛くない?その前に、リュウ様には、私の気持ちがバレバレだったのねー

チラッとレイさんを見ると、レイさんは私を見て笑っている。「どうしたの?」と訊く前に、レイさんが私の耳元に口を寄せて「嫉妬…してくれたの?」と囁いた。

「なっ…ちがっ──……そう…ですよ……何か……文句ありますか………」
「かっ……ありません……」

レイさんは何か言いかけた後、手で口を覆った。





ハル=カルザイさんは、ウォーランド王国ではとても優秀な薬師で、魔力持ちでもあるらしく、私の体調を見に来てくれたのだ。この可愛らしいハルさんも、まさかの40代。どうやら、魔力の量が多くて強い人程、見た目の衰えが遅くなるそうだ。確かに、魔法使いのリュウ様も、見た目は若い。

「「「内面の衰えは抗えないけどね」」」

と、3人とも意見は一致していた。






******

それからの流れはあっと言う間だった。



「こうなると思っていたわ」

と言ったのはモニク。どうやら、レイさんから「ニアをウォーランド王国に連れて行く」と言われ、「ニアが望むなら」と、言っていたそうだ。
以前言っていた、無理矢理云々の話は、この事だった。

「親友としても、従業員としても、ニアを手放す事は残念だし寂しいけど……ニアが選んで、ニアが幸せになれるのなら、私は喜んで送り出すわ。ニア、どうか、幸せになってね」
「モニク…ありがとう………」

既に退職処理終わっていて、有り難い事に退職金まで貰えた。
残念な事と言えば、カリーヌさんに直接会って、今迄のお礼と挨拶ができなかった事。

「その人の体調が落ち着いた頃に、また挨拶に行けば良いのよ」

とニコニコ笑顔でハルさんに言われたけど、イーレンとウォーランドとはかなりの距離がある。そう簡単には来れないだろう───なんて思っていたけど、そんな事は、ハルさんにとってはだった─と知るのは、もう少し後の事だ。




ウォーランド王国へ行く日の3日前─

今回の事についての顛末を教えてくれた。

禁止された媚薬を、ウォーランド王国の王太子とその側近に使用したイーレン我が国の王女ニコル様はそこでも反省せず、更には兄である王太子や魔法使いリュウ様も手に掛けようとしたらしく、生涯幽閉となっているそうだ。その媚薬を作っていたギリスと、脱獄を手伝った魔道士も、生涯幽閉─と言っているけど、王女もギリスも魔道士も、ソレは表向きの処罰なんだろうと思う。“あのお方も魔力の流れを止められた”とギリスが言っていた。魔力持ちが魔力の流れを止められるとは、ある意味死を表す。

その禁止された媚薬を作っていた商会は、今はモニクが取り仕切っている。騒動直後で、今はまだ色々大変だろうけど、モニクならきっと大丈夫だろう。



「ウォーランドの王太子様と、その側近の人は大丈夫だったんですか?」
「大丈夫だったよ。ウォーランドには……とてもレベルの解毒ポーションがあったから……」

ー“レベルの解毒ポーション”って何!?ー

そもそも、媚薬の解毒剤なんて、あっただろうか?レイさんに視線を向けると、レイさんが遠い目をしていたから、それ以上訊く事は止めておいた。兎に角、その2人が何ともなくて良かった。


「暗い話はこれぐらいにして……準備は大丈夫?」
「はい。もともと持っている物が少ないから、準備は直ぐに終わりました。後は…3日後にレイさんとウォーランドへ向かうだけです。ただ──」
「ん?“ただ”─?」
「レイさんが良いと言ってくれても、周りの人達は…そうは思ってくれません…よね?」

レイさんは、魔道士団長クレイル=ダルシニアン伯爵だった。そして、私は没落した伯爵令嬢の平民ニア。喩えレイさんが私を受け入れてくれたとしても……

「それなら、本当に大丈夫だから。まぁ…いくら口で言っても信じてもらえないかもしれないけど、私の周りに身分で煩く言う者は1人も居ないから。寧ろ、皆、ニアの事は諸手を挙げて受け入れてくれるから」

クスクスと笑うレイさん。

ーそんな事…ある?無いよね?ー

と、私は軽くため息を吐いた。







❋エール、お気に入り登録、ありがとうございます❋
( *ˊᗜˋ)ノꕤ*.゚

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

処理中です...