没落令嬢は、おじさん魔道士を尽くスルーする

みん

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「プリンだ!」
「うん。プリンだね」

今日は仕事が休みの週末。
レイさんと約束していて行けなかったお店に、今日、ようやく来る事ができた。勿論『父娘デートなんて羨ましいですね』と、またまたプリンにおまけの生クリームが乗せられている。

「レイさんと一緒にお店に入るだけで、おまけが付いて来るなんて……ラッキーですね!」
「ソウダネ………」

本当の父と母が生きていたら3人で──は無理かな。平民だからこそ、こうやって気軽にお店で食べられるのかもしれない。
でも、これも、後何回レイさんと一緒に食べに来られるのか。ひょっとしたら、今日で最後になる可能性もある。

「レイさんは、予定では、いつが最終出勤日になりそうですか?」
「会長には言ってあるんだけど、今月いっぱいで終わりなんだ」

今月いっぱいと言う事は、残り2週間だ。

「そうなんですね。その2週間の間に、食べに行きたい所とかありますか?」
「後1軒だけ行きたい所があるから、来週、また付き合ってもらえるかな?」
「勿論、一緒に行かせていただきます!」

それが最後になるだろう。その日迄に、レイさんにお礼を用意しておこう。

「ん?ニアさんがアクセサリーを身に着けてるの、珍しいね」
「え?あ、ネックレスこれですか?」

私がアクセサリーを身に着けているのは“珍しい”ではなく、“初めて”だ。

「アクセサリーには興味がなかったから、今迄買った事も無かったんですけど、私が仕事に復帰した日に、ダミアンさんからお詫びを貰ったのを覚えてますか?」
「あぁ、1日数量限定の焼き菓子の詰め合わせだったよね?」
「そうです。それで、帰ってから食べよと思って箱を袋から取り出したら、もう一つ箱が入ってて…。開けたらネックレスこれが入ってたんです。“本当に、今迄すまなかった。お詫びに、良かったら使って欲しい”なんてメッセージ付きで」
「へぇ…………」
「何で黒色─ブラックスピネルなのかは分からないけど…派手じゃないから良いかなぁ…と思って、今日、初めて着けてみたんです。やっぱり…似合いませんか?」

地味な私に黒色は、丁度良いかなぁ…なんて思って着けたけど、似合ってないのかもしれない。その前に、私如きが着けているのがおかしいのかもしれない。

「似合ってない事もない……かもしれないけど……ニアさんの色じゃない…と言うか…………」

ーレイさんの言っている意味がサッパリ分からないー

結局、似合っているのかいないのか………もういっその事、今すぐ外そうかなぁ?

「そうだ、なら、これからアクセサリーを見に行こう!」
「はい?」
「私もニアさんのお陰で美味しい物を色々食べる事ができたから、お礼に私からもアクセサリーを……プレゼントさせてくれないか?」
「え!?お礼なんて要りませんよ!私も美味しい物をトッピング付きで食べれたし、レイさんには助けてもらったから、寧ろ私がレイさんにお礼しないといけない立場ですよ!?」

レイさんのお陰で、ようやく私は1人の人間ひととして進んで行く事ができるようになった。

「あ!今からアクセサリーショップに行きましょう!高い物は無理だけど、私からレイさんにお礼をさせてもらいます!」
「えー…そう来るのか………斜め上過ぎないか?」

レイさんからは呆れた?ような視線を向けられたけど、そこは気にしない事にして、おまけ付きのプリンを堪能した後、私達2人はアクセサリーショップへと向かった。






*レイ視点*


ニアはアンバー色の髪と、それより少し濃い目の色の瞳をしている。

ー確か、ダミアンの瞳の色は黒色だったなー

今迄散々虐げておいて、今更を贈るとか………好きな子を(本当の意味で)苛めるタイプの人間だったのか………。今更謝ったところで、ニアがダミアンに好意を寄せる事は無いだろうけど。
そもそも、アクセサリーの色の意味も知らないニアが、ダミアンからの好意に気付く事はないだろう。そのアクセサリーを着けている理由が、“派手じゃないから良いか”だし……何ともニアらしい思考だけど、それでもやっぱり気に食わない。ニアが初めて身に着けたアクセサリーが、ダミアンから貰ったダミアンの色のネックレス。
もう、そのネックレスを着ける事のないように、新しいアクセサリーをプレゼントすれば良い──と思ったら………

まさかの“ニアわたしがお礼に買います”宣言だった。

「………」

どうして、こうも綺麗に華麗に斜め上に行ってしまうんだろうか?一般的な女性なら、喜んで受け取るのに。まぁ、そこが面白いと言うか可愛いところなのかもしれないが……。


「ごちそうさまでした。それじゃあ、アクセサリーショップに行きますか?」

パッと笑顔で私を見上げて来るニアは可愛らしい。少し前までは霞んだよな暗い瞳だったけど、今ではキラキラと輝いている。そんな嬉しそうな顔をされると、断る事なんてできる筈がない。

「そうだね。取り敢えず…行こうか」

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