没落令嬢は、おじさん魔道士を尽くスルーする

みん

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12 商会の顛末

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私がレイさんに全てを打ち明けたあの日の翌日から、商会周辺が大騒ぎとなった。製造禁止とされている媚薬を製造販売していた事は勿論の事、修道院の院長と通じて孤児を売り買いしていた事も判明し、今は捜査の為に営業中止となっている。

これには従業員達が一番驚いていたそうだ。
従業員にとっては、会長は良い上司でしかなかったからだ。
酷い待遇を受けていたのは孤児として売られて来た私だけだったから。この事実を知ったダミアンさんが、かなりショックを受けたそうで「ニアに謝らないと…」と呟いていたそうだ。明日あたり、嵐になるかもしれない。


『本当に、その孤児の子は10年もの間何も知らなかったのか?』と、捜査員の人が疑ったようだけど─

『彼女は何も知らされていない。知らせる必要は無いと、会長が言っていたわ。彼女の作る精製水の純度だけ偽っていたのも本当よ。コレが、その証拠よ』

そう言って、証拠の書類を出したのは奥様であるモニクだった。何故モニクが私を助けるような事をしたのか。それは──もともと、この商会はモニクの親族関係が営んでいた商会だったけど、何代か前の代の時に、ドルファン子爵家に乗っ取られてしまったのだとか。モニクがその親族筋の令嬢とは知らずに後妻として求婚したギリス=ドルファン。モニクは、商会を取り戻す為にその求婚を受け入れた後(結婚する前の婚約期間中に)、ギリスが孤児を売買している事や媚薬を製造している事を知り、少しずつ証拠を集めていたそうだ。

「ニアがここに居て、本当に驚いたわ。まさか、ニアが孤児として売られて居たなんて…。でも、私とニアが繋がっていると知られたら、ニアがもっと酷い事に巻き込まれるかもしれないと思って……」

だから……私を冷たく突き放す事にした─と。

「ごめんなさい、ニア。本当は……私もニアにまた会えて嬉しかったの」

そう言って、お互い泣きながら抱き合ったのは、商会が少しだけ落ち着いた頃の事だった。

モニクもまた、私が病気療養の為にどこか静かな保養地に行ったと聞かされていたそうだ。

商会はどうなるのか──

そこそこ大きい商会で従業員もそれなりに居る。取り扱っている薬品は品質も良く種類も豊富。このまま取り潰しするのは勿体無い─と言う事で、そのまま奥様であるモニクが会長を引き継ぎ、商会も存続する事になったそうだ。

「ニア、今はゆっくり休んで、元気になったら、またウチに戻って来てくれる?勿論、休んでいる間は休養手当てを出すし、戻って来てくれたら給金は適正なものに変更させてもらうから」

勿論、私はそれを受け入れた。寧ろ、私の方から戻りたいとお願いしたいところだった。

商会も本当にバタバタして大変だったけど、今回の騒動で、商会を辞める従業員は1人も居なかったそうだ。




「いよいよ明日から復帰するんだね」
「はい2週間も休んだのは…初めてでした」

勤務中に気を失って早退してから2週間。ようやく医師からの許可がおり、明日から出勤する事になった。
ゆっくり休んだお陰か、今迄よりも魔力か安定している感じがする。

その久し振りの出勤の前日、レイさんがお菓子を持って私の様子を伺いに来てくれた。

「そう言えば……レイさんは、これからどうするんですか?」

レイさんが商会に入って来たのは、媚薬事件?を調べる為だった。それが解決したなら、もうこの商会で働く意味はないし……本来の仕事に戻らなければいけないと言う事で……。

「商会ではもうする事はないんだけど、まだ他にしてる事や事後処理がごたついててね。後、商会がちゃんと機能するかと確認もしたいから、後1ヶ月ぐらいは働かせてもらうよ。あ、私が潜入してたって事は、奥様とニアさんしか知らない事だから、他言無用で頼みます」
「分かりました。それじゃあ、後1ヶ月、宜しくお願いしますね」





*翌日*

久し振りに職場である商会の作業室にやって来るとと、少し早目に出勤したにも関わらず、そこにはダミアンさんが居た。

「あ…おはようございます………」
「……おはよう…………」
「「……………」」

挨拶が済むと、お互いが無言になる。

ー何でこんな早い時間にダミアンさんが居るの?ー

今迄、こんな早い時間に出勤する事なんてなかった。朝はギリギリの出勤で、帰りは一番早い。
まさか……“2週間も休んで、怠け者め”とか言われるとか?何て事を考えていると、座っていたダミアンさんが立ち上がり、私の方へと近付いて来た。

「ニア!」
「はいいっっ!!」
「今迄………悪かった!」
「は────い??」

“ワルカッタ”???

「ニアが…売られて来た孤児だったとか…給金が最低限以下だったとか………全然知らなくて!いや、知らなかったからと言っても許される事じゃないけど、本当に、今迄…悪かった!!これ、お詫びに食べてくれ!それじゃあ、俺は外の掃除をして来るから!」
「え?あ?掃除?え?」

ズイッ─と紙袋を押し付けられ、それを受け取るとダミアンさんは私の話を聞く事もなく作業室から出て行ってしまった。

ーダミアンさんが…掃除?ダミアンさんが?え?ー

一体どうなっているのか分からず、ボケッと立ち尽くしていると、作業室の扉が開いて誰かが笑いながら入って来た。






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