6 / 22
6 帰り道
しおりを挟む
「こんな遅くまで、仕事してたの?」
「えっと……」
「ニアさん、今日はちゃんと時間内にノルマ分は終わってたよね?“明日の分を少しでも”と言うには……少し遅すぎる時間じゃない?」
「あの……」
ーどうしよう…特別待遇とか……思われるのも嫌だし……でも、本当の事は言えないし……ー
「ニアさん、言えない事でもあ──」
「ニアさんに、話し相手になってもらっていたのよ。気付いたらこんな時間になってしまって……」
「「奥様!」」
どう答えればいいか分からず困っていると、奥様─モニクが現れた。
「ニアさんとは歳が近いから、時々私の話し相手になってもらってるの。ただ、今日はいつもより長くお喋りしてしまって……ニアさん、ごめんなさいね。今、見送りの者を──」
「それなら、私が送って行きますよ」
「え?でも…迷惑では………」
ー仕事仲間とは言え、夜道を2人でなんて…ー
「私、こう見えても、そこそこ強かったりするんですよ。それに、私も独身だから、誰に何を言われる事もないから大丈夫です」
まさか独身。40代で独身。貴族ではあまりないけど、平民ならよくあったりするのかなぁ?
「それに、お互い平民同士だから、悪く言われる事はないしね」
そう言えばそうだ。平民では、男女2人が一緒に居ても、それが=恋仲や婚約者とは限らない。普通に友達として歩いていたりする。
「そう?ニアさんは……それで良いかしら?」
モニクが心配そうな顔をしている。それは演技なのか、それとも───
「奥様、お気使い、ありがとうございます。私は、このままレイさんに送ってもらいます」
「そう……レイさん、宜しくお願いしますね」
モニクはそれだけ言うと、そのまま店の方へと入って行った。
「それじゃあ…帰ろうか……と言うか、家はどこ?」
「あ……あっちの方で……10分位で着くから、送ってもらわなくても──」
「ここで放って帰るのは、平民と言えど紳士としての私の矜持が許さないし、別れた後、ニアさんに何かあったら、立ち直れなくなるから、素直に送らせてもらえるかな?」
ニッコリ笑うレイさん。そう言われると断れる筈もない。
「じゃあ……宜しくお願いします」
「ん……」
私が歩き始めると、レイさんも私に合わせてゆっくりと歩き出した。
それから家に着くまで間、仕事に関しての話はせず、この町に関して色々訊かれた。どうやらレイさんはもともと違う国の生まれで、この国ににやって来たのが1年前で、それもこの商会に引き抜かれる前は、違う領地に住んでいたそうで、まだこの町の事がよく分からないらしい。
「得に、独り身だと食事に困るんだ」
多少の料理はするそうだけど、作れる物は限られている上に、上手ではない。食べられる程度の物なんだとか。だから、基本は買って食べたり外食で済ませるそうで、お勧めのお店などを訊かれた。
この町は観光スポットがあり、比較的よく賑わっている町で、色んなお店が立ち並んでいる。独身なレイさんでも住みやすい町かもしれない。
「私、甘い物も好きなんです」
「それなら───」
勿論、美味しいカフェもたくさんある。食べに行く事なんて滅多にないけど、少ない給料から少しずつ貯金して、時々ケーキを買ったりはしている。自分へのご褒美に。
「でも、カフェって、男一人では入り難いから、いつもテイクアウトで…。店内限定のケーキが食べられないのも、独り身の辛いところかもしれない…」
残念そうな顔をしているのを見ると、それが本音なんだろう。
そんな話をしているうちに、あっと言う間に家に辿り着いた。平民の独身が住まう間取りの少ない小さなアパートメントだ。
「あの、送ってもらって、本当にありがとうございました。正直……予定より遅くなってしまって…どうしようかと思ってたので……」
「迷惑じゃなくて良かった。でも…これからは時間に気を付けてね」
「はい。えっと…また、今度お礼をさせてもらいますね」
ーお金がないから、大した事はできないけどー
「別にお礼なんて要らないけど、それはそれでニアさんが納得しないか……あ、なら、一つだけ、私のお願いを聞いてくれるかな?」
「お願いですか?えっと…私が出来る事なら」
「勿論、ニアさんに出来る事だし、変なお願いでもないし、嫌なら断ってくれても良いよ。私のお願いは、ニアさんの週末の休みの1日を、私にくれる事」
「私の休みの1日を……レイさんに?」
「そう」
ニッコリ笑うレイさん。
レイさんに、休日出勤の予定があったんだろうか?あの商会で休日出勤は珍しいけど、兎に角、その休日出勤のレイさんの代わりに、私が出勤すると言う事??
「えっと…レイさんの代わりに、私が出勤すれば良いんですか?」
「はい?出勤?え?何で?」
「え?違うんですか?え?」
「「…………」」
二人揃って「??」が乱れ飛んでいる。暫くお互い黙ったまま見つめ合った後、吹き出すように笑い出したのは、レイさんだった。
「えっと……」
「ニアさん、今日はちゃんと時間内にノルマ分は終わってたよね?“明日の分を少しでも”と言うには……少し遅すぎる時間じゃない?」
「あの……」
ーどうしよう…特別待遇とか……思われるのも嫌だし……でも、本当の事は言えないし……ー
「ニアさん、言えない事でもあ──」
「ニアさんに、話し相手になってもらっていたのよ。気付いたらこんな時間になってしまって……」
「「奥様!」」
どう答えればいいか分からず困っていると、奥様─モニクが現れた。
「ニアさんとは歳が近いから、時々私の話し相手になってもらってるの。ただ、今日はいつもより長くお喋りしてしまって……ニアさん、ごめんなさいね。今、見送りの者を──」
「それなら、私が送って行きますよ」
「え?でも…迷惑では………」
ー仕事仲間とは言え、夜道を2人でなんて…ー
「私、こう見えても、そこそこ強かったりするんですよ。それに、私も独身だから、誰に何を言われる事もないから大丈夫です」
まさか独身。40代で独身。貴族ではあまりないけど、平民ならよくあったりするのかなぁ?
「それに、お互い平民同士だから、悪く言われる事はないしね」
そう言えばそうだ。平民では、男女2人が一緒に居ても、それが=恋仲や婚約者とは限らない。普通に友達として歩いていたりする。
「そう?ニアさんは……それで良いかしら?」
モニクが心配そうな顔をしている。それは演技なのか、それとも───
「奥様、お気使い、ありがとうございます。私は、このままレイさんに送ってもらいます」
「そう……レイさん、宜しくお願いしますね」
モニクはそれだけ言うと、そのまま店の方へと入って行った。
「それじゃあ…帰ろうか……と言うか、家はどこ?」
「あ……あっちの方で……10分位で着くから、送ってもらわなくても──」
「ここで放って帰るのは、平民と言えど紳士としての私の矜持が許さないし、別れた後、ニアさんに何かあったら、立ち直れなくなるから、素直に送らせてもらえるかな?」
ニッコリ笑うレイさん。そう言われると断れる筈もない。
「じゃあ……宜しくお願いします」
「ん……」
私が歩き始めると、レイさんも私に合わせてゆっくりと歩き出した。
それから家に着くまで間、仕事に関しての話はせず、この町に関して色々訊かれた。どうやらレイさんはもともと違う国の生まれで、この国ににやって来たのが1年前で、それもこの商会に引き抜かれる前は、違う領地に住んでいたそうで、まだこの町の事がよく分からないらしい。
「得に、独り身だと食事に困るんだ」
多少の料理はするそうだけど、作れる物は限られている上に、上手ではない。食べられる程度の物なんだとか。だから、基本は買って食べたり外食で済ませるそうで、お勧めのお店などを訊かれた。
この町は観光スポットがあり、比較的よく賑わっている町で、色んなお店が立ち並んでいる。独身なレイさんでも住みやすい町かもしれない。
「私、甘い物も好きなんです」
「それなら───」
勿論、美味しいカフェもたくさんある。食べに行く事なんて滅多にないけど、少ない給料から少しずつ貯金して、時々ケーキを買ったりはしている。自分へのご褒美に。
「でも、カフェって、男一人では入り難いから、いつもテイクアウトで…。店内限定のケーキが食べられないのも、独り身の辛いところかもしれない…」
残念そうな顔をしているのを見ると、それが本音なんだろう。
そんな話をしているうちに、あっと言う間に家に辿り着いた。平民の独身が住まう間取りの少ない小さなアパートメントだ。
「あの、送ってもらって、本当にありがとうございました。正直……予定より遅くなってしまって…どうしようかと思ってたので……」
「迷惑じゃなくて良かった。でも…これからは時間に気を付けてね」
「はい。えっと…また、今度お礼をさせてもらいますね」
ーお金がないから、大した事はできないけどー
「別にお礼なんて要らないけど、それはそれでニアさんが納得しないか……あ、なら、一つだけ、私のお願いを聞いてくれるかな?」
「お願いですか?えっと…私が出来る事なら」
「勿論、ニアさんに出来る事だし、変なお願いでもないし、嫌なら断ってくれても良いよ。私のお願いは、ニアさんの週末の休みの1日を、私にくれる事」
「私の休みの1日を……レイさんに?」
「そう」
ニッコリ笑うレイさん。
レイさんに、休日出勤の予定があったんだろうか?あの商会で休日出勤は珍しいけど、兎に角、その休日出勤のレイさんの代わりに、私が出勤すると言う事??
「えっと…レイさんの代わりに、私が出勤すれば良いんですか?」
「はい?出勤?え?何で?」
「え?違うんですか?え?」
「「…………」」
二人揃って「??」が乱れ飛んでいる。暫くお互い黙ったまま見つめ合った後、吹き出すように笑い出したのは、レイさんだった。
33
お気に入りに追加
309
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる