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4 新しい魔道士①
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モニクは私にとっては、初めてできた三つ年上の友達だった。
両親が亡くなってからは、私は殆ど邸から出る事ができなくなり、モニクとも会う事がなく、私がそのまま修道院に送り込まれた事で、そのまま縁が切れてしまったと思っていた。だから、モニクがこの商会に嫁いで来たと知った時は、驚きはしたけど嬉しかった。
因みに、5年前─会長が45歳でモニクが23歳での再婚だ。政略的なものがあったのかもしれないけど、今の2人の夫婦仲は良いように見える。
ただ─モニクが嫁いで来てから、会長からの私の扱いが一段と酷くなったようにも思う。
「………」
ー多分、気のせいではないよねー
この5年、仕事の事で話す事はあっても、仕事以外の話は一度もしていない…どころか、目も合わない。まるで私と友達だった事がなかったかのように。会長は知っているかもしれないけど、他の人は、私とモニクが友達─知り合いだったと言う事は知らないようだから、私も誰にも言わないようにしている。
言ったところで誰も信じないだろうしね。兎に角、今の私とモニクは友達ではなく、雇い主の奥様と従業員の間柄でしかない。
******
「なぁ、お前さぁ…もう少し早く規定量の水、作れない?」
「…これが、精一杯です」
「はぁ─────」
と、盛大にため息を吐くのは─ダミアンさん。私と同じ平民で薬師だ。祖父の代から薬師として、この商会に勤めているそうで、平民でありながらも会長からの信頼があつい。そのせいか、他の従業員達への態度も大きかったりするし、特に、私の事は気に食わないようで、いつも文句をつけられる。
「お前がもう少し早く作れれば、もっと時間に余裕をもってポーションが作れるんだ。いい加減もう少し要領よく───」
「指定された時間内にできているのだから、何の問題もないでしょう!」
「げっ………」
「カリーヌさん………」
私が何か言われている時、いつも助けてくれるのはカリーヌさん。
「それに、ニアは朝一番に出勤して掃除までしてるけど、ダミアンはいつもギリギリに来て、退勤は一番よね?なら、何の迷惑もかけてないわよね?どうしても早くと言うなら……エドガー様に言ったらどう?」
エドガー様─水属性の魔道士だ。因みに、男爵家の次男と言うお貴族様だ。
「なっ……別に…そこまでは…とっ取り敢えず、あんまりノロノロするなって事だよ!」
最後は言い捨てるかのよう言ってから、ダミアンさんはこの場から立ち去った。
「ふんっ。お貴族様には何にも言えないからって、いつもニアに当たるんだから……本当に、ちっっっさい男だわ。だから、30にもなって独り身なのよ!」
カリーヌさんとダミアンさんは同じ年で、学校も同じだったらしく、その頃からよく言い合いをしていたそうで、同じ職場で働く事になってからも、よく言い合いをしている。
「ニア、ダミアンの言う事は気にしなくて良いからね?アイツ、自分より上には言えない分、弱い者に当たり散らすのよ。昔から変わらない…と言うか、悪化してるわ」
「カリーヌさん、いつもありがとうございます」
ー本当に、カリーヌさんにはいつも助けてもらってばかりだなぁー
この商会で働きだしてから10年。辛い事も多いけど、悪い事ばかりではない日々を過ごしている。
******
「知ってる?近々、魔道士が1人入って来るそうよ」
「魔道士が…ですか?」
ある日のお昼休み、カリーヌさんから新しく魔道士が入って来ると教えてくれた。
真偽は分からないけど、平民だけど、そこそこの魔力量を持っているらしく、何処かの薬屋で働いているところを、会長が引き抜いて来たそうだ。
“引き抜いて来た”──
私みたいに買われて来たのではなく、その魔道士本人の意思があれば良いけど。まぁ…私みたいな扱いはされないだろうけど。
「どんな人なんでしょうね?」
一体どんな人でいつから来るのか……カリーヌさんと色んな想像を口にしながらランチを食べた。
それから1週間──
「今日からここで働く事になった“レイ”だ。水属性の魔道士だから、エドガー、お前が指導してやってくれ」
「魔道士のレイです。宜しくお願いします」
ペコリ─と頭を下げるレイさん。家名を言わないから平民なんだろう。
茶色の髪はボサッとしていて、前髪が長めで目に掛かっていて目はハッキリとは見えない。40代…ぐらいかな?エドガーさんに付くと言う事は、私とも一緒に働く事になると言う事だよね?仲良く─とは言わないし望みもしないけど、何の問題も起こらなければ良いな………と願うのみだ。
「白だ………凄い……」
「ありがとうございます」
おじ様魔道士こと、レイさんは凄い魔道士だった。
作られた精製水の純度を調べる白い紙があり、精製水にその紙を漬けると、純度によって色が変化する。純度が低いと赤、中程度だと青、そこから純度が高くなるほど薄い青から水色、そして無色─白色のままと言うのは、純度100%を表す。
レイさんの作った精製水は、その白色だったのだ。
両親が亡くなってからは、私は殆ど邸から出る事ができなくなり、モニクとも会う事がなく、私がそのまま修道院に送り込まれた事で、そのまま縁が切れてしまったと思っていた。だから、モニクがこの商会に嫁いで来たと知った時は、驚きはしたけど嬉しかった。
因みに、5年前─会長が45歳でモニクが23歳での再婚だ。政略的なものがあったのかもしれないけど、今の2人の夫婦仲は良いように見える。
ただ─モニクが嫁いで来てから、会長からの私の扱いが一段と酷くなったようにも思う。
「………」
ー多分、気のせいではないよねー
この5年、仕事の事で話す事はあっても、仕事以外の話は一度もしていない…どころか、目も合わない。まるで私と友達だった事がなかったかのように。会長は知っているかもしれないけど、他の人は、私とモニクが友達─知り合いだったと言う事は知らないようだから、私も誰にも言わないようにしている。
言ったところで誰も信じないだろうしね。兎に角、今の私とモニクは友達ではなく、雇い主の奥様と従業員の間柄でしかない。
******
「なぁ、お前さぁ…もう少し早く規定量の水、作れない?」
「…これが、精一杯です」
「はぁ─────」
と、盛大にため息を吐くのは─ダミアンさん。私と同じ平民で薬師だ。祖父の代から薬師として、この商会に勤めているそうで、平民でありながらも会長からの信頼があつい。そのせいか、他の従業員達への態度も大きかったりするし、特に、私の事は気に食わないようで、いつも文句をつけられる。
「お前がもう少し早く作れれば、もっと時間に余裕をもってポーションが作れるんだ。いい加減もう少し要領よく───」
「指定された時間内にできているのだから、何の問題もないでしょう!」
「げっ………」
「カリーヌさん………」
私が何か言われている時、いつも助けてくれるのはカリーヌさん。
「それに、ニアは朝一番に出勤して掃除までしてるけど、ダミアンはいつもギリギリに来て、退勤は一番よね?なら、何の迷惑もかけてないわよね?どうしても早くと言うなら……エドガー様に言ったらどう?」
エドガー様─水属性の魔道士だ。因みに、男爵家の次男と言うお貴族様だ。
「なっ……別に…そこまでは…とっ取り敢えず、あんまりノロノロするなって事だよ!」
最後は言い捨てるかのよう言ってから、ダミアンさんはこの場から立ち去った。
「ふんっ。お貴族様には何にも言えないからって、いつもニアに当たるんだから……本当に、ちっっっさい男だわ。だから、30にもなって独り身なのよ!」
カリーヌさんとダミアンさんは同じ年で、学校も同じだったらしく、その頃からよく言い合いをしていたそうで、同じ職場で働く事になってからも、よく言い合いをしている。
「ニア、ダミアンの言う事は気にしなくて良いからね?アイツ、自分より上には言えない分、弱い者に当たり散らすのよ。昔から変わらない…と言うか、悪化してるわ」
「カリーヌさん、いつもありがとうございます」
ー本当に、カリーヌさんにはいつも助けてもらってばかりだなぁー
この商会で働きだしてから10年。辛い事も多いけど、悪い事ばかりではない日々を過ごしている。
******
「知ってる?近々、魔道士が1人入って来るそうよ」
「魔道士が…ですか?」
ある日のお昼休み、カリーヌさんから新しく魔道士が入って来ると教えてくれた。
真偽は分からないけど、平民だけど、そこそこの魔力量を持っているらしく、何処かの薬屋で働いているところを、会長が引き抜いて来たそうだ。
“引き抜いて来た”──
私みたいに買われて来たのではなく、その魔道士本人の意思があれば良いけど。まぁ…私みたいな扱いはされないだろうけど。
「どんな人なんでしょうね?」
一体どんな人でいつから来るのか……カリーヌさんと色んな想像を口にしながらランチを食べた。
それから1週間──
「今日からここで働く事になった“レイ”だ。水属性の魔道士だから、エドガー、お前が指導してやってくれ」
「魔道士のレイです。宜しくお願いします」
ペコリ─と頭を下げるレイさん。家名を言わないから平民なんだろう。
茶色の髪はボサッとしていて、前髪が長めで目に掛かっていて目はハッキリとは見えない。40代…ぐらいかな?エドガーさんに付くと言う事は、私とも一緒に働く事になると言う事だよね?仲良く─とは言わないし望みもしないけど、何の問題も起こらなければ良いな………と願うのみだ。
「白だ………凄い……」
「ありがとうございます」
おじ様魔道士こと、レイさんは凄い魔道士だった。
作られた精製水の純度を調べる白い紙があり、精製水にその紙を漬けると、純度によって色が変化する。純度が低いと赤、中程度だと青、そこから純度が高くなるほど薄い青から水色、そして無色─白色のままと言うのは、純度100%を表す。
レイさんの作った精製水は、その白色だったのだ。
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