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2 買われた令嬢
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その修道院には、色んな人が居た。
綺麗な身なりの人は、神様に仕える巫女様。
基本的に貴族の令嬢が多く、花嫁修業の一環として、一時的に見習い巫女としてやって来ている。
孤児が10人程、何らかの理由で身を寄せている女性が5人居て、その女性が孤児の面倒をみたりしている。そして、私の扱いは“孤児”だった。
面倒をみてくれる女性のうちの1人─アイリスさんが、読み書きのできる人で、孤児である私達に、字を教えてくれたり本を読んでくれたりしていた。服装はお世辞にも綺麗とは言えないボロボロの服を着ているけど、立ち居振る舞いがとても綺麗で、言葉遣いも丁寧なところを見ると、もとは貴族の令嬢だったんだろうと思う。後の4人は平民らしく、言葉は荒っぽかったりもするけど、毎日ご飯を作ってくれたり遊んでくれたり…良い人ばかりだった。
ーあの邸に居る頃より…楽しいー
そう思える程、修道院での生活は楽しかった。
それから4年─
私が15歳になったある日、院長から呼び出された。
「伯爵家が……没落した?」
叔父が領主となってから4年。領地運営がうまくいかず税金を上げたのにも関わらず、贅沢な暮らしを続け更なる増税を続け───国に領地を没収され、伯爵位を奪爵されたそうだ。
「でも、それと私に何の関係が?」
私はここに来た4年前の時点で、既に伯爵家から除籍されているから、私には関係のない話だ。
「それが、大アリなんです」
と、不敵に笑う院長から聞かされた話は衝撃的なモノだった。
私は除籍されていなかった事。
私は病気で、療養の為に辺境地にある別邸で暮らしている──事にして、秘密裏に修道院に入れられていたのだ。
「どうして………」
ー私が邪魔なら、そのまま除籍すれば良かったのにー
理由は単純明快で──
私が伯爵だったから
だった。実は、両親亡き後、伯爵を継いだのは私だった。それが、まだ幼過ぎる為、代理として叔父が立つ事になり、先ず1年、様子をみる事になった。そこで、何の問題もなければ、叔父がそのまま、私が成人するまで代行すると言う事になっていたそうで、私が死んでしまえば、その爵位を失う事になってしまう。でも、私が邪魔で───
「そこで、1年毎に寄付をしてもらう代わりに、貴方をここに受け入れる事にしたんです。それなりに、私もリスクを背負うわけですからね。でも、その寄付が無くなってしまえば……」
「なら…それこそ……私を孤児として………」
「ええ、それも考えましたけど、それで、今迄の4年の嘘が消える訳じゃありませんからね。どうしても…貴方の存在は困るんですよ」
ーそんな事…私は……知らないー
ギュッと手を握りしめて下を向く。
「そうしたら、貴方を受け入れてくれると言う商会があったの」
「商会?」
「貴方の魔力を、買って下さるそうよ」
「…………」
この国の魔力持ちは少ないと言われている。魔力を持っているのは殆どが貴族で、平民は殆ど持っていない。それ故に、魔力持ちは国から大切に保護される存在なのだけど……保護されるのは、やっぱり貴族だけで、魔力持ちの平民はと言うと──
商会やら、それこそ貴族に買われて、いいように使われるのだ。勿論、公的には認められてはいない。
「3日後に迎えが来るそうだから、それ迄に荷物を纏めておくように」
「分かりました………」
どんな商会なのか。そこで私は何をさせられるのか。唯一分かる事と言えば、“誰も助けてはくれない”と言う事だけ。ここに居る人達は、皆生きるだけで精一杯だから。それに「行きたくない」と言える筈もない。私の我儘で皆に迷惑が掛かってしまうかもしれないから。取り敢えず、魔力を買ったと言う事は、私に魔力がある限りは生きていけると言う事で……
「頑張るしか……ないよね………」
1人呟きながら部屋に戻り、部屋の片付けを始めた。
4年生活をしていた割に荷物は少なく、今回もまた小さな鞄一つだけで十分だった。
「ニア、元気で……頑張ってね……」
「アイリスさん、今迄、ありがとうございました。アイリスさんも……お元気で………」
商会からの迎えが来たのが早朝なうえ、同じ孤児の子達には言っていなかったから、私を見送ってくれたのはアイリスさんだけだった。
ーそれで…良いー
本当は、誰の見送りも要らなかった。以前とは違って、ここでの生活は楽しくて……皆とお別れするのが辛くなるから。
「皆にも……ありがとうと伝えて下さい」
「分かったわ………」
今にも泣きそうになっているのはアイリスさん。とても……優しいお姉さんのような人だった。迎えの馬車に乗り込む前に、アイリスさんにギュッと抱きつき「本当に、ありがとうございました」ともう一度お礼を言った後、私はサッと馬車に駆け込み、その後は振り返る事も、窓から外を見る事もしなかった。
綺麗な身なりの人は、神様に仕える巫女様。
基本的に貴族の令嬢が多く、花嫁修業の一環として、一時的に見習い巫女としてやって来ている。
孤児が10人程、何らかの理由で身を寄せている女性が5人居て、その女性が孤児の面倒をみたりしている。そして、私の扱いは“孤児”だった。
面倒をみてくれる女性のうちの1人─アイリスさんが、読み書きのできる人で、孤児である私達に、字を教えてくれたり本を読んでくれたりしていた。服装はお世辞にも綺麗とは言えないボロボロの服を着ているけど、立ち居振る舞いがとても綺麗で、言葉遣いも丁寧なところを見ると、もとは貴族の令嬢だったんだろうと思う。後の4人は平民らしく、言葉は荒っぽかったりもするけど、毎日ご飯を作ってくれたり遊んでくれたり…良い人ばかりだった。
ーあの邸に居る頃より…楽しいー
そう思える程、修道院での生活は楽しかった。
それから4年─
私が15歳になったある日、院長から呼び出された。
「伯爵家が……没落した?」
叔父が領主となってから4年。領地運営がうまくいかず税金を上げたのにも関わらず、贅沢な暮らしを続け更なる増税を続け───国に領地を没収され、伯爵位を奪爵されたそうだ。
「でも、それと私に何の関係が?」
私はここに来た4年前の時点で、既に伯爵家から除籍されているから、私には関係のない話だ。
「それが、大アリなんです」
と、不敵に笑う院長から聞かされた話は衝撃的なモノだった。
私は除籍されていなかった事。
私は病気で、療養の為に辺境地にある別邸で暮らしている──事にして、秘密裏に修道院に入れられていたのだ。
「どうして………」
ー私が邪魔なら、そのまま除籍すれば良かったのにー
理由は単純明快で──
私が伯爵だったから
だった。実は、両親亡き後、伯爵を継いだのは私だった。それが、まだ幼過ぎる為、代理として叔父が立つ事になり、先ず1年、様子をみる事になった。そこで、何の問題もなければ、叔父がそのまま、私が成人するまで代行すると言う事になっていたそうで、私が死んでしまえば、その爵位を失う事になってしまう。でも、私が邪魔で───
「そこで、1年毎に寄付をしてもらう代わりに、貴方をここに受け入れる事にしたんです。それなりに、私もリスクを背負うわけですからね。でも、その寄付が無くなってしまえば……」
「なら…それこそ……私を孤児として………」
「ええ、それも考えましたけど、それで、今迄の4年の嘘が消える訳じゃありませんからね。どうしても…貴方の存在は困るんですよ」
ーそんな事…私は……知らないー
ギュッと手を握りしめて下を向く。
「そうしたら、貴方を受け入れてくれると言う商会があったの」
「商会?」
「貴方の魔力を、買って下さるそうよ」
「…………」
この国の魔力持ちは少ないと言われている。魔力を持っているのは殆どが貴族で、平民は殆ど持っていない。それ故に、魔力持ちは国から大切に保護される存在なのだけど……保護されるのは、やっぱり貴族だけで、魔力持ちの平民はと言うと──
商会やら、それこそ貴族に買われて、いいように使われるのだ。勿論、公的には認められてはいない。
「3日後に迎えが来るそうだから、それ迄に荷物を纏めておくように」
「分かりました………」
どんな商会なのか。そこで私は何をさせられるのか。唯一分かる事と言えば、“誰も助けてはくれない”と言う事だけ。ここに居る人達は、皆生きるだけで精一杯だから。それに「行きたくない」と言える筈もない。私の我儘で皆に迷惑が掛かってしまうかもしれないから。取り敢えず、魔力を買ったと言う事は、私に魔力がある限りは生きていけると言う事で……
「頑張るしか……ないよね………」
1人呟きながら部屋に戻り、部屋の片付けを始めた。
4年生活をしていた割に荷物は少なく、今回もまた小さな鞄一つだけで十分だった。
「ニア、元気で……頑張ってね……」
「アイリスさん、今迄、ありがとうございました。アイリスさんも……お元気で………」
商会からの迎えが来たのが早朝なうえ、同じ孤児の子達には言っていなかったから、私を見送ってくれたのはアイリスさんだけだった。
ーそれで…良いー
本当は、誰の見送りも要らなかった。以前とは違って、ここでの生活は楽しくて……皆とお別れするのが辛くなるから。
「皆にも……ありがとうと伝えて下さい」
「分かったわ………」
今にも泣きそうになっているのはアイリスさん。とても……優しいお姉さんのような人だった。迎えの馬車に乗り込む前に、アイリスさんにギュッと抱きつき「本当に、ありがとうございました」ともう一度お礼を言った後、私はサッと馬車に駆け込み、その後は振り返る事も、窓から外を見る事もしなかった。
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