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31 崩壊への路
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慰労会は盛大に執り行われた。
一般的なダンスなどはなく、飲み食いしながら大騒ぎする。既婚者であれば妻を、婚約していれば婚約者を連れての参加だけど、女性は女性達で集まり、テーブルに座って穏やかに食事をする。そうする事で、旦那が不在時に何かあった時、お互い助け合えるように親睦を深めておくんだそうだ。
参加したレオノールも、その女性達と一緒に過ごして、楽しんだようだった。私はと言うと──
「カミリア様、スープをご用意しました」
「ありがとう……」
ウラリーさんが私の背中に手を当てて起こしてくれて、背中に枕を二つの並べて、私がベッドの上で楽に座れるようにしてくれた。
2日前の夜は元気だったのに、朝目覚めると体が怠くて起き上がる事ができず、そこへやって来たウラリーさんに伝えると、医者を呼んでくれた。
『風邪ですね。今日は慰労会には参加せず、ゆっくり休んで下さい』
何もしていないどころか、昨日は外にすら出ていないのに風邪。
「本当にごめんなさい……」
「カミリア様、謝る必要なんてありませんからね?風邪なんて、何をしていても、何もしていなくてもなる時にはなるんです。風邪をひいた時にする事は、ゆっくり休む事と、無理でなければ食事を取る事だけです」
「ふふっ…分かりました。ありがとうございます」
私が謝った事に対して怒っているウラリーさん。怒られているけど、心が温かくなるのだから不思議だ。
ルテリアルでは、体調を崩すと厭味を言われて、寝込んでしまっても誰も助けてはくれなくて、ずっと一人で我慢していた。でも、スネフェリングでは、こうしていつも、ウラリーさんやアンナさんが側に居てくれる。
「昨日よりも顔色が少し良くなりましたけど、油断は禁物ですからね?食事をした後は、薬を飲んでから、また寝て下さい」
「はい……」
ウラリーさんの言う通り、私はスープを完食した後、薬を飲んで眠りに就いた。
「ん…………」
「あら、目が覚めた?」
夜中にふと目が覚めると、そこに大魔女オードリナ様が居た。
「オードリナ様?」
「あぁ、起きては駄目よ。そのまま横になっていなさい」
「はい……すみません」
「謝らなくて良いわ。体調はどう?」
「もう大丈夫そうです」
「なら良かったわ」
どうやら、昨日の慰労会には、アマデュー大神官とオードリナ様も参加していたそうだ。
「なかなか会いに来れなくてごめんなさいね」
「それこそ、オードリナ様が謝る必要はありませんよ。ルテリアルの為に尽力して下さっていたのですから」
オードリナ様は今回も、ルテリアル─お兄様とお姉様の為に動いてくれて忙しかったのだから、感謝しかない。
「あ…」
そこに、あの蝶がヒラヒラと飛んで来た。
「やっぱり、カミリアにはフルトゥーレが見えるのね」
「フルトゥーレ?」
この蝶は“フルトゥーレ”と言うオードリナ様の魔力で創られた蝶で、本来であれば、強い魔力の持ち主でなければ見えないらしい。そんな魔力で創られたフルトゥーレを、ルテリアルでは私の様子を見る為に飛ばしていたそうだ。
「監視されてるようで嫌だったでしょう?ごめんなさいね」
「嫌どころか、この子には慰めてもらったりもしていたから、側に居てくれて嬉しかったんです」
未だに見えない二つの光。あの光はオードリナ様とは関係無さそうだから、今はまだ言わないでおこう。
「そうなの?それじゃあ、この子はカミリアの側に置いておくわ」
オードリナ様がそう言うと、蝶─フルトゥーレは私の側をクルクルと飛び回った。
*スネフェリング皇帝執務室*
(オードリナ視点)
「カミリアは、もう大丈夫そうだわ」
「良かった」
今、ここに居るのは、イグネイシャス皇帝、ペルシア皇妃、宰相アナトール、大神官アマデューと、私の5人。今後のルテリアルとカミリアについての説明と報告をする為に集まってもらった。
「取り敢えず、予想通り、ルテリアルは復興もスネフェリングに頼り切る感じで進めているわ」
「なら、これからルテリアル国王が取る行動は決まったね。これから2年から3年はおとなしいだろうけど、それを過ぎると簡単に手の平を返すだろうね。だから、その頃に───」
と、アマデューが笑顔で話している姿は、戦闘狂と言われた先々代のスネフェリング皇帝よりも黒い。本気でルテリアル─エイダンとカティエを潰しに掛かっている。
「続いて、カミリアに関しての事だけど、今から話す事は、事が終わるまで口外禁止。勿論、カミリア本人にも。先日、ようやくカミリアの本当の名前を見付けたわ。これで、ようやく全てを元に戻せるわ」
「それは良かった」と言ったのはイグネイシャス。ペルシアとアナトールは、知らなかった事だから理解できていない顔をしている。
「第二王女とされているカミリアは、生まれた直後にカティエによって、色と名前を奪われてしまっていたのよ」
ーカティエ、私は貴方を赦さないー
一般的なダンスなどはなく、飲み食いしながら大騒ぎする。既婚者であれば妻を、婚約していれば婚約者を連れての参加だけど、女性は女性達で集まり、テーブルに座って穏やかに食事をする。そうする事で、旦那が不在時に何かあった時、お互い助け合えるように親睦を深めておくんだそうだ。
参加したレオノールも、その女性達と一緒に過ごして、楽しんだようだった。私はと言うと──
「カミリア様、スープをご用意しました」
「ありがとう……」
ウラリーさんが私の背中に手を当てて起こしてくれて、背中に枕を二つの並べて、私がベッドの上で楽に座れるようにしてくれた。
2日前の夜は元気だったのに、朝目覚めると体が怠くて起き上がる事ができず、そこへやって来たウラリーさんに伝えると、医者を呼んでくれた。
『風邪ですね。今日は慰労会には参加せず、ゆっくり休んで下さい』
何もしていないどころか、昨日は外にすら出ていないのに風邪。
「本当にごめんなさい……」
「カミリア様、謝る必要なんてありませんからね?風邪なんて、何をしていても、何もしていなくてもなる時にはなるんです。風邪をひいた時にする事は、ゆっくり休む事と、無理でなければ食事を取る事だけです」
「ふふっ…分かりました。ありがとうございます」
私が謝った事に対して怒っているウラリーさん。怒られているけど、心が温かくなるのだから不思議だ。
ルテリアルでは、体調を崩すと厭味を言われて、寝込んでしまっても誰も助けてはくれなくて、ずっと一人で我慢していた。でも、スネフェリングでは、こうしていつも、ウラリーさんやアンナさんが側に居てくれる。
「昨日よりも顔色が少し良くなりましたけど、油断は禁物ですからね?食事をした後は、薬を飲んでから、また寝て下さい」
「はい……」
ウラリーさんの言う通り、私はスープを完食した後、薬を飲んで眠りに就いた。
「ん…………」
「あら、目が覚めた?」
夜中にふと目が覚めると、そこに大魔女オードリナ様が居た。
「オードリナ様?」
「あぁ、起きては駄目よ。そのまま横になっていなさい」
「はい……すみません」
「謝らなくて良いわ。体調はどう?」
「もう大丈夫そうです」
「なら良かったわ」
どうやら、昨日の慰労会には、アマデュー大神官とオードリナ様も参加していたそうだ。
「なかなか会いに来れなくてごめんなさいね」
「それこそ、オードリナ様が謝る必要はありませんよ。ルテリアルの為に尽力して下さっていたのですから」
オードリナ様は今回も、ルテリアル─お兄様とお姉様の為に動いてくれて忙しかったのだから、感謝しかない。
「あ…」
そこに、あの蝶がヒラヒラと飛んで来た。
「やっぱり、カミリアにはフルトゥーレが見えるのね」
「フルトゥーレ?」
この蝶は“フルトゥーレ”と言うオードリナ様の魔力で創られた蝶で、本来であれば、強い魔力の持ち主でなければ見えないらしい。そんな魔力で創られたフルトゥーレを、ルテリアルでは私の様子を見る為に飛ばしていたそうだ。
「監視されてるようで嫌だったでしょう?ごめんなさいね」
「嫌どころか、この子には慰めてもらったりもしていたから、側に居てくれて嬉しかったんです」
未だに見えない二つの光。あの光はオードリナ様とは関係無さそうだから、今はまだ言わないでおこう。
「そうなの?それじゃあ、この子はカミリアの側に置いておくわ」
オードリナ様がそう言うと、蝶─フルトゥーレは私の側をクルクルと飛び回った。
*スネフェリング皇帝執務室*
(オードリナ視点)
「カミリアは、もう大丈夫そうだわ」
「良かった」
今、ここに居るのは、イグネイシャス皇帝、ペルシア皇妃、宰相アナトール、大神官アマデューと、私の5人。今後のルテリアルとカミリアについての説明と報告をする為に集まってもらった。
「取り敢えず、予想通り、ルテリアルは復興もスネフェリングに頼り切る感じで進めているわ」
「なら、これからルテリアル国王が取る行動は決まったね。これから2年から3年はおとなしいだろうけど、それを過ぎると簡単に手の平を返すだろうね。だから、その頃に───」
と、アマデューが笑顔で話している姿は、戦闘狂と言われた先々代のスネフェリング皇帝よりも黒い。本気でルテリアル─エイダンとカティエを潰しに掛かっている。
「続いて、カミリアに関しての事だけど、今から話す事は、事が終わるまで口外禁止。勿論、カミリア本人にも。先日、ようやくカミリアの本当の名前を見付けたわ。これで、ようやく全てを元に戻せるわ」
「それは良かった」と言ったのはイグネイシャス。ペルシアとアナトールは、知らなかった事だから理解できていない顔をしている。
「第二王女とされているカミリアは、生まれた直後にカティエによって、色と名前を奪われてしまっていたのよ」
ーカティエ、私は貴方を赦さないー
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