見捨てられた(無自覚な)王女は、溺愛には気付かない

みん

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23 綺麗なもの

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翌日の出立時間は早朝。勿論、離宮オニキスでの見送りは無い。だから、王城の馬車乗り場迄自力で行かないといけないのかな?と思っていると─

「迎えに来ました」
「……ありがとうございます」

驚いた事に、スネフェリングの護衛が、オニキス迄馬車で迎えに来てくれていた。“人質”としての価値があると思われているのかもしれない。
取り敢えず、断る事も遠慮する事もないから、お礼を言ってから素直に馬車に乗り込むと─

「「カミリア様、おはようございます」」
「大神官様とレオノール!?」

その馬車には、既に大神官様とレオノールが乗っていた。どうやら、移動時間が長い為、3人とも同じ馬車に乗っている方が良いだろう─と、スネフェリングの使者が提案してくれたらしい。ちなみに、大神官様は、聖女と第二王女を無事にスネフェリング迄届ける義務がある─と言って、同行する事になったそうだ。
王女わたし”と言うよりは、“聖女を”と言う意味合いが大きいんだろう。大神官様自らレオノールを指名したから。

「カミリア……様、ひょっとして、あまり眠れませんでした?」
「ふふっ…“カミリア”で良いし、敬語も要らないわ。大神官様も…見逃してくれますよね?」
「カミリア様がそう言うなら」

ニッコリ微笑む大神官様は、本当に年齢不詳だ。

「昨日は、あまり眠れなかったわ。レオノールは大丈夫?」
「私はぐっすり眠れたわ。色々不安な事もあるけど、ルテリアルはスネフェリング帝国が護ってくれるとわ分かっているし、私はスネフェリングで色んな経験を積む事ができると思うと、不安より期待の方が大きくて…」
「なら良かったわ」

聖女レオノールは、大神官様の名の元に安全が保証されているし、聖女に手を出すような者はいないだろう。スネフェリングでの暮らしが、レオノールにとってプラスになる事は間違いない。

「大神官様は、神殿を不在にして大丈夫だったんですか?」
「ええ。神殿は、私が居なくても副神官のアンセルムが居るからね。それに、私もそろそろ引退しても良いかな?と」
「引退!?まだまだ若いのにですか!?」

アマデュー大神官は、絶大な人気を博している。信奉者も多い。

「私もそれなりの年だからね。最近疲れがね…そろそろ、若手に引き継いでも良いかなと」

ー一体何歳なんだろう?ー

兎に角、これからの長い移動時間と、スネフェリングでの生活に不安はあったけど、レオノールと大神官様のお陰で、少しだけ気持ちが楽になった。






それから、王城門前の広場で国王王妃両陛下揃っての見送りがあったけど、スネフェリングの使者に声を掛けただけで、私はお母様と言葉を交わすどころか、目が合う事もなかった。

「お母様………」

結局、朝起きると、お母様が淹れてくれたお茶はなくなっていて飲む事ができなかった。オードリナ様とも会っていないから、話を聞く事もできていない。あのお茶はなんだったのか──

「それでは、出立!」

スネフェリングの使者が声を上げると、私達の乗った馬車がゆっくりと動き出した。

ーこの城は、こんなにも大きかったのねー

初めて目にした、私の家でもあった王城は、離宮オニキスが見窄らしく見える程に大きくて豪華な城だけど、何となく仄暗く見えたのは……私の心が沈んでいたからだろう。






出立から2日──

王城はルテリアルの中心部にある為、出国する港迄2日掛かる。ルテリアルは島国だから、必ずその港から更に2日程船に乗らないと大陸に行く事はできない──筈だった。

『港迄行くと、魔道騎士を待機させているから、私達は転移魔法で大陸に移動します』

数名の護衛と荷物は船で、使者2人と私とレオノールと大神官様は転移魔法を使用する事になった。
転移魔法は簡単な魔法ではないのに、それを使えると言う事は、スネフェリングは魔法でも凄い国なのかもしれない。

「あ、カミリア、海が見えて来たわ」
「うみ?」

レオノールが指差す方に視線を向けると

「わぁー」

そこには、空よりも濃い青色をした世界が広がっていた。

「これが……海?」
「カミリア様は、海を見るのは初めてなのかな?」
「はい!初めてです!本で、どんなものかは知ってましたけど…」

私が王城…離宮オニキスから出たのは、戦禍の時に辺境地に行った時だけ。その辺境地の離宮からも海に行く事はできたけど、部屋から出る事を許されていなかったから、結局は海を見る事はなかった。

「海は…こんなにも綺麗なものだったんですね」

ここに来る迄もそうだった。建物が並ぶ都市も綺麗だったけど、通りすがった森林公園も緑が綺麗だった。外の世界には、綺麗なもので溢れていた。

ー最後に、綺麗な物が見れて良かったー

「これからも、きっと、綺麗な物をたくさん目にする事ができますよ」

大神官様は優しい。でも、それは不可能だ。汚点で人質でしかない私に、これからも自由はないだろうから。

「そうだと良いですね……」

私は、そう答えるしかできなかった。


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