見捨てられた(無自覚な)王女は、溺愛には気付かない

みん

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4 大魔女と聖女①

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属性関係なく、全ての属性を扱える魔女。無敵と思われる存在ではあるが、全てが自由にできる訳ではない。魔女となれば、その流れる“血”に色々な制約が掛けられる。その制約を破れば、自身の身に返って来る。

オードリナがまだ魔女に覚醒したばかりの頃、力を得た事で少し傲慢になり、その制約を犯してしまい、大怪我を負った事があった。そんな時、オードリナを助けてくれたのがエリアーヌ─前王妃であり双子の母親だった。

それから、オードリナとエリアーヌは仲が良くなり、オードリナはルテリアル王国で過ごすようになった。2人の親友としての関係は、エリアーヌが王妃になってからも続いた。勿論、魔女の存在は大陸でも尊い存在である為、国王も反対する事はなかった。

ルテリアル王国は、“4大精霊と魔女の加護あり”と言われる迄になり、国中が豊かで平和な国となった。



『オードリナ…私の子達を……見守ってくれるかしら?』

それが、双子の出産と引き換えに命を落とす事になったエリアーヌの最後のお願いだった。
出産迄特に問題なく元気だったエリアーヌだったが、双子を出産すると同時に容態が一変した。出血が止まらなかったのだ。
オードリナがエリアーヌの元へと駆け付けた時は、既に遅かった。

『安心してちょうだい。大魔女の名において、大親友であるエリアーヌの子の双子を見守るわ』

そう言うと、エリアーヌは微笑んで──





それからも、大魔女オードリナはルテリアルで過ごしながら、双子を見守っている。伯母と甥と姪のような関係に近いのかもしれない。兎に角、双子もオードリナにはよく懐いている。

「ところで……もう一人の王女も、同じ10歳ではなかったかしら?この場には…居ないようだけど」

そのオードリナの言葉に、ホール全体が一気に静かになった。“汚点”であるカミリア王女の話は、王城では禁句と言う暗黙のルールのようなものがある。でも、それは魔女には通用しない。それに、魔女は身分や種族、見目だけで判断する事はない。偏見もまた、ある意味制約に引っ掛かる事があるからだ。

「大魔女オードリナ様、お祝いに来ていただき、感謝します。我が娘であるカミリアの事も気にしていただき、本当にありがとうございます。ですが…申し訳ありません。カミリアは昨日から体調を崩していて、自室で寝ているのです」

「そうなのね。なら、私がお見舞がてらに─」
「オードリナ様、私、オードリナ様の魔法のお話を聞きたいわ」
「あ、僕も聞きたいです!」
「オーウェン、ヘレンティナ………ええ、分かったわ。カティエ王妃、王女が元気になったら、またお祝いを持って来るわ」
「ありがとうございます」
「…………」

大魔女オードリナの言葉に、カティエ王妃は微笑んだが、エイダン国王は黙ったままだった。






「国王陛下、王妃陛下、この度は、おめでとうございます」

そして、大魔女オードリナと入れ替わるように挨拶にやって来たのは、ルテリアル王国の大神殿所属の副神官アンセルムだった。

「ありがとうアンセルム。ところで、アマデュー大神官は──」
「申し訳ありません。アマデュー様は遠方の国にいらっしゃるようで、間に合いませんでした」
「そうか。まぁ、仕方無い。それもこの国の為故な…」

ルテリアル王国で信仰しているのは、“神”ではなく“4大精霊”だ。大神官アマデューは、その4大精霊の声を聞く事ができる者とされている。そして、その大神官アマデューは今、数年前から大陸を旅して回っていて不在中なのだ。理由は──

ルテリアル王国の、4大精霊の加護が薄れて来ている理由を探す為だった。

本来であれば、10歳の誕生日を迎える者達に大神官が祝福を与えるのだが、ここ数年はこの副神官のアンセルムが行っている。
このアンセルムもまた、珍しい白色の魔力持ちで、国民からの支持も厚く人気もある。

「国王陛下、この場を借りて、報告がございます。宜しいでしょうか?」
「許す」
「ありがとうございます。レオノール」
「はい……」

“レオノール”と呼ばれ、アンセルムの後ろから姿を現したのは、ピンク色の髪と瞳で、神官服を着た女の子だった。

「2日前のだった為、報告ができませんでしたが、この少女に“光属性”が発現しました。10年ぶりの聖女誕生でございます」

「何と!」
「まぁ!」

アンセルムの言葉に、ホール全体がざわめき立った。

“聖女”

それもまた、特別な存在だ。光属性もまた、魔女と同じように遺伝的要素は無く、殆どが成長段階で発現する。その発現年齢が早ければ早いほど強い力を持つとされている。
そして、目の前に居るのは双子と同い年ぐらいの少女だ。聖女になる可能性がある─と言う事だ。

「なんとめでたい事だ!我が国は、更なる発展を遂げるだろう!」

国王の一言で、その場は拍手喝采となり、その日は素晴らしい誕生会となった。





ただ、数人だけは──


心から笑顔になる事はなかった────





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