3 / 46
3 誕生会
しおりを挟む
カロルはカティエ王妃専属の侍女で、カティエが側妃として王城に来る前─公爵令嬢だった頃から侍女をしている。
「まだ、何か見えるなどとおかしな事を…またカティエ王妃を悲しませたいのですか?」
「そんな事は──」
「なら、またお薬をお飲み下さい」
カロルがカミリアに、赤色の液体の入った小瓶を差し出すと、カミリアは素直にそれを受け取った。
「分かったわ」
カミリアが初めて“光る何か”を目にしたのは3歳になってから。
『なにか、ひかってキレイ』
と、手を伸ばしながらポツリと呟けば、『精神的に病んでいる』『魔力が無い事で、妄想癖があるのでは?』と言われるようになり──
『カミリア、私の可愛いひとり娘…どうかお願いよ。これ以上おかしな事を口にして、あなた自身が傷付くような事はしないで』
『おかあさま…はい…ごめんなさい……』
唯一私の味方で優しい母が、泣きながら私を抱きしめた。
ーおかあさまを、こまらせたくないー
そうして、精神を落ち着かせる薬だと言う事で、定期的に赤色の薬を飲むようになった。その薬を飲むと、光って見えていた物が見えなくなった。だから、カミリアはやっぱり自分が本当におかしかったのか?と思っていた。ただ、その薬を飲むと体が怠くなり、数日寝込んでしまうのだ。
ー今コレを飲めば、誕生会には参加どころか、食事も食べる事はできないよねー
「では、必ず今日中にお飲み下さいね。では、私は明日の準備で忙しいのでこれで失礼します。良いですね?くれぐれも、おとなしくしていて下さいね……王妃様の為にも……」
と言うと、カロルは部屋から出て行った。
この薬を飲まないと言う選択肢は無い。何故か、飲んだと嘘をついても必ずバレてしまうのだ。バレると母が悲しむし、何よりカロルから受ける罰が何よりも怖かった。
『何故、カティエ様を困らせるような事をされるのですか!?』
と私を裏部屋に連れ出して、普段目に言えない所を鞭打ちされるのだ。打たれた後は皮膚が腫れてジクジクと痛んで熱をもち、2日寝込んでしまう事もある。そして、痛みが少し落ち着いて来た頃、それなりの高価なポーションで治癒される為、私がそんな仕打ちを受けていると言う事は誰も知らない。母でさえも。
『カミリア様がカティエ様の為にできる事は、たった一つだけです。おとなしく過ごす事です』
今迄もずっとおとなしく過ごしていた。ただ、10歳の誕生日は貴族としては特別な意味のある誕生日。“汚点”と呼ばれる無能な私であっても、現王妃の娘であるのは確かな事だから、誕生会に参加する事はできなくともプレゼントを貰ったり、いつもより豪華な食事ができたり、ケーキを食べるぐらいはできるかも─と、淡い期待をしていた。
それが───
「1人、ベッドの上で寝込んで迎えるのね……」
小瓶の蓋を開けて、その赤色の液体を一気に飲み干す。
「カミリア…お誕生日、おめでとう……」
自分で自分にお祝いを口にした後、私は体が怠くなる前に寝る準備を始めた。
********
翌日の双子の王子と王女の10歳の誕生会は、盛大に執り行われた。
国中の殆どの貴族が集まり、双子への贈り物でホールが埋め尽くされそうな程だった。
「10歳のお誕生日、おめでとうございます」
「「ありがとう」」
祝の言葉を受けると、王子と王女はニッコリ微笑んでお礼を口にする。そんな2人の姿を、ホールの壇上に座って微笑ましく見ているのは、国王王妃両陛下。
「お2人とも、楽しそうですね」
「そうだな。カティエのお陰で、2人も立派に成長している。礼を言う」
「陛下……ありがとうございます」
「オーウェン、ヘレンティナ、おめでとう!」
「「オードリナ様!」」
そこへ、お祝いに駆け付けて来たのは、綺麗な白色の髪に、金色の瞳をした女性─この大陸唯一の大魔女であるオードリナだった。
“魔女”
“魔法使い”とは全く異なる存在。
魔法使いは、魔力を持って生まれた者で、その魔力を特化させ、その力を国の為に使ったり研究をする魔力持ち達の事を言う。基本、属性は一つだけで、稀に二つ持つ者も居る。両親が魔力持ちであれば、殆どの確率で子も魔力を持って生まれる。遺伝的要素が高い。
魔女は成長段階で覚醒する事が多く、遺伝的要素は殆ど無い。そして、属性は無い。覚醒した者だけが記憶や能力を引き継ぐようになっているようで、魔女になった者だけが使える言葉と呪文で属性関係なく魔法が使える存在だ。数年前迄、魔女は大陸中に数人居たが、今はこのオードリナただ1人。そして、歴代でも力が強いとされており、今では大魔女と呼ばれている。
基本、魔女はどの国にも属さない自由な存在だが、今はこのルテリアル王国に定住している。その理由が、今日の誕生会の主役の双子の為だった。
「まだ、何か見えるなどとおかしな事を…またカティエ王妃を悲しませたいのですか?」
「そんな事は──」
「なら、またお薬をお飲み下さい」
カロルがカミリアに、赤色の液体の入った小瓶を差し出すと、カミリアは素直にそれを受け取った。
「分かったわ」
カミリアが初めて“光る何か”を目にしたのは3歳になってから。
『なにか、ひかってキレイ』
と、手を伸ばしながらポツリと呟けば、『精神的に病んでいる』『魔力が無い事で、妄想癖があるのでは?』と言われるようになり──
『カミリア、私の可愛いひとり娘…どうかお願いよ。これ以上おかしな事を口にして、あなた自身が傷付くような事はしないで』
『おかあさま…はい…ごめんなさい……』
唯一私の味方で優しい母が、泣きながら私を抱きしめた。
ーおかあさまを、こまらせたくないー
そうして、精神を落ち着かせる薬だと言う事で、定期的に赤色の薬を飲むようになった。その薬を飲むと、光って見えていた物が見えなくなった。だから、カミリアはやっぱり自分が本当におかしかったのか?と思っていた。ただ、その薬を飲むと体が怠くなり、数日寝込んでしまうのだ。
ー今コレを飲めば、誕生会には参加どころか、食事も食べる事はできないよねー
「では、必ず今日中にお飲み下さいね。では、私は明日の準備で忙しいのでこれで失礼します。良いですね?くれぐれも、おとなしくしていて下さいね……王妃様の為にも……」
と言うと、カロルは部屋から出て行った。
この薬を飲まないと言う選択肢は無い。何故か、飲んだと嘘をついても必ずバレてしまうのだ。バレると母が悲しむし、何よりカロルから受ける罰が何よりも怖かった。
『何故、カティエ様を困らせるような事をされるのですか!?』
と私を裏部屋に連れ出して、普段目に言えない所を鞭打ちされるのだ。打たれた後は皮膚が腫れてジクジクと痛んで熱をもち、2日寝込んでしまう事もある。そして、痛みが少し落ち着いて来た頃、それなりの高価なポーションで治癒される為、私がそんな仕打ちを受けていると言う事は誰も知らない。母でさえも。
『カミリア様がカティエ様の為にできる事は、たった一つだけです。おとなしく過ごす事です』
今迄もずっとおとなしく過ごしていた。ただ、10歳の誕生日は貴族としては特別な意味のある誕生日。“汚点”と呼ばれる無能な私であっても、現王妃の娘であるのは確かな事だから、誕生会に参加する事はできなくともプレゼントを貰ったり、いつもより豪華な食事ができたり、ケーキを食べるぐらいはできるかも─と、淡い期待をしていた。
それが───
「1人、ベッドの上で寝込んで迎えるのね……」
小瓶の蓋を開けて、その赤色の液体を一気に飲み干す。
「カミリア…お誕生日、おめでとう……」
自分で自分にお祝いを口にした後、私は体が怠くなる前に寝る準備を始めた。
********
翌日の双子の王子と王女の10歳の誕生会は、盛大に執り行われた。
国中の殆どの貴族が集まり、双子への贈り物でホールが埋め尽くされそうな程だった。
「10歳のお誕生日、おめでとうございます」
「「ありがとう」」
祝の言葉を受けると、王子と王女はニッコリ微笑んでお礼を口にする。そんな2人の姿を、ホールの壇上に座って微笑ましく見ているのは、国王王妃両陛下。
「お2人とも、楽しそうですね」
「そうだな。カティエのお陰で、2人も立派に成長している。礼を言う」
「陛下……ありがとうございます」
「オーウェン、ヘレンティナ、おめでとう!」
「「オードリナ様!」」
そこへ、お祝いに駆け付けて来たのは、綺麗な白色の髪に、金色の瞳をした女性─この大陸唯一の大魔女であるオードリナだった。
“魔女”
“魔法使い”とは全く異なる存在。
魔法使いは、魔力を持って生まれた者で、その魔力を特化させ、その力を国の為に使ったり研究をする魔力持ち達の事を言う。基本、属性は一つだけで、稀に二つ持つ者も居る。両親が魔力持ちであれば、殆どの確率で子も魔力を持って生まれる。遺伝的要素が高い。
魔女は成長段階で覚醒する事が多く、遺伝的要素は殆ど無い。そして、属性は無い。覚醒した者だけが記憶や能力を引き継ぐようになっているようで、魔女になった者だけが使える言葉と呪文で属性関係なく魔法が使える存在だ。数年前迄、魔女は大陸中に数人居たが、今はこのオードリナただ1人。そして、歴代でも力が強いとされており、今では大魔女と呼ばれている。
基本、魔女はどの国にも属さない自由な存在だが、今はこのルテリアル王国に定住している。その理由が、今日の誕生会の主役の双子の為だった。
170
お気に入りに追加
482
あなたにおすすめの小説

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる