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第一章ー婚約ー

王太子のスタート地点

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「ハル、久し振りだな」

謁見の間に入る前に、魔法使いであるリュウに声を掛けられた。

「リュウ。久し振り。元気だった?」

「毎日毎日、陛下─ジンにこき使われまくって大変だったけど…時代よりはマシかな?」

「“社畜”…懐かしい響きだね…。私は大学生で終わってるから、体験はしてないけど。」

「ははっ。社畜なんて、体験するもんじゃないから。」

穏やかに笑いながら、私の頭をポンポンと叩くリュウ。これが、本来のこの人なんだろう─と思う。のリュウは、ゲームに囚われ過ぎていたんだろう。

リュウのせいで、私は死にかけたし、トラウマにもなってたけど…。こうして、リュウを目の前にしても、何とも思わなくなった。同郷だからか、不思議と気兼ねなく話す事もできるし…。

「─っと。これ以上は止めておこう。」

と言いながら、私の頭から手を離して両手を上げて後ろに下がった。

「?」

ーどうしたんだろう?ー

と思っていると─私の横に、笑顔で圧を掛けているエディオルさんが居た。

ーひぃっ…すっかり忘れてた!!ー

ミヤさんと王太子様に気を取られて忘れてたけど、私、エディオルさんにエスコートされてたんだ!

あれ?私、少しずつだけど、エディオルさんのエスコートに…慣れて来てない?慣らされてる?あれ?

「本当に、エディオルは…相変わらずだよね?」

「だから、お前だけには言われたくないと言っただろう。」

「はいはい。」

ーあれ?エディオルさんとリュウは、仲良しさん?ー

「ふふっ」

「ん?どうした?ハル。」

「あ、すみません。エディオルさんとリュウが、仲良しだな─って思ったら、何だか…ちょっと不思議?面白いなって。」

ーだって、ゲーム制作者と、その攻略対象者だよ?ー

ついつい笑ってしまっていると

「エディオルねぇ…」

と、リュウがニヤニヤしながらエディオルさんを見る。

「ハル?」

「ひゃいっ!」

急に名前を呼ばれて、またまた腰をグイッと引き寄せられた─から、また変な声が出ましたよ!たまには、可愛い女の子らしく、「きゃっ」とか言ってみたいです!じゃなくて!!と、抗議の意を込めてエディオルさんを軽く睨みつけてみると、私の耳元に顔を寄せて

「だから、も、可愛いしかないからな?」

ー何で!?エディオルさんって、“可愛い”のハードル、低すぎませんか!?ー

「ハルに関しては、何をしても可愛くしか見えないからな?諦めろ。」

「う゛───っ!!!!!」

ポンッと顔が熱を持つ。

ーやっぱり、エディオルさんには勝てません!ー











*ランバルト視点*


「……えっと…は…誰だ?」

「王太子様は、目悪くなったんですか?」

「う゛っ─。」

「エディオルさんは、既にハルからの信頼を得てますからね。と言いますか、恋仲になりましたから。もう、正真正銘の彼氏彼女ですから。もう、あの2人の邪魔はしないで下さいね?良いですね?三度目なんて─有り得ませんからね?」

ミヤ様は、口元は笑っているのに、目は全く笑っていない笑顔で言った。

ーやっぱり、ミヤ様はかなり怒っているな。いや…嫌われてる…のか?ー

「う゛っ」

自分が思った事に、自分で傷付くとか─

「はぁ─。私が言うのもなんだが…ハル殿がまた、この世界に戻って来てくれて良かった。それに─」

と、ミヤ様の方に顔向け、しっかりと視線を合わせる。

「ミヤ様も戻って来てくれて、私は…とても嬉しい。もう、二度と会えないと思っていたミヤ様を、また、こうしてエスコートできる事が嬉しい。ミヤ様には…嫌われているかもしれないが…もう一度だけ…チャンスが欲しい。」

「……」

私の左腕に添えられていたミヤ様の手をとり、ミヤ様と向き合うようにして立つ。

「私はミヤ様が…好き─なんです。でも、王太子としてとか、無理矢理にでも─なんて事はしたくない。だから、これからの私を見て、私の事を知ってもらってから…返事が欲しい。これで最後にするから…最後に…もう一度だけ、チャンスをもらえないだろうか?」

お互い目を反らさずに、少し沈黙が続いて─

「…王太子様のお気持ちは…分かりました。─と言う先入観は捨てて、しっかり見て知ってから返事をさせて頂きます。」

と、ニッコリ微笑むミヤ様は、本当に綺麗だ。

「ありがとう」

私はミヤ様にお礼を言ってから、ミヤ様の手の指先にキスをした。








*エディオル視点*


「ふわぁー…なんだか…絵本の中のワンシーンみたいですね。私はミヤさんの味方?なので、王太子様を応援する事は…しませんけど、取り敢えずは、良かったですね。」

「「……」」

ーいや、逆だろう。ランバルトから“王太子”を取ったら…“やらかした馬鹿”しか残らないよな?それにー

チラリと横に居るハルを見る。

ハルも、ランバルトの応援はしない─と言った。ミヤ様にとって、一番影響力を持つだろうハルが、ランバルトの為には動かない─と言う事は、結構な痛手だと思う。

ーある意味、自業自得だなー

こればっかりは、周りがとやかく言う事ではない。まぁ…これが本当にラストチャンスだ。ランバルト自身が頑張るしかない。
俺も人の事を気にしている暇はないしな。

「さぁ、そろそろ謁見の間に入ろう。」

ランバルトの掛け声に、その場の皆が頷き、俺は改めてハルの腰を引き寄せる。ハルは体をビクッとさせて

「エディオルさん!あのっ…引き寄せ過ぎてます!近過ぎます!」

と、顔を赤くして小声で抵抗して来る。

ーはぁ─何しても可愛くしか見えないからな、本当に困る。どうしてやろうかー

「はいはい。何しても無駄だから、諦めようか。」

「ゔっ──」

そうして俯いたハルも、やっぱり可愛くて…更に引き寄せてから謁見の間に入って行った。









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