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十一

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「キーラさん、勝手に抜き取ってしまって、すみませんでした。」

頭を下げて謝り、キーラに剣を返す。

「いえ──あの…」

と、キーラが何とか声を出した時

「────ララ殿!」

後ろからグイッと腕を引き寄せられて、そのままルースの腕の中に捕らわれた。

「し…失礼致します!」

と、何とか我に返ったキーラが、意識を失っているカレンを引き摺りながら去って行った。

「………」

無言のまま、私を抱き締めているルースの背中を、ポンポンと叩く。ルースは、私の肩に顔を埋めていて、今、どんな表情をしているのかは分からない。

ーきっと、ルースは気付いたよねー

もう、気付かれても良いか─と思ったから。

「アドルファス様、おかえりなさい。辺境地でのトラブルは、もう片付いたんですか?」

「……あぁ…もう終わった。だから、急いで帰って来て、急いでここに来た。そうしたら…」

ルースは、私の肩から顔を上げて、今度は自身の腕の中にいる私を見下ろして来た。

「何て呼べば良い?」

ルースの手が、私の頬に触れる。

切なそうで、泣きそうな顔をするルース。
あの日─最後に見たルースの顔が重なる。

、目が覚めたらシャノンが居なくて─。俺の腕の中に閉じ込めた筈のシャノンが居なくて。好きな女の子を─たった1人で逝かせてしまったと─。本当は、シャノンが寝た後、シャノンに、俺の竜心を飲ませようと思ってたんだ。」

「えっ!?」

「シャノンは、竜心を飲ませただけの伴侶では本能は抑えられない─と言ったけど、どうしてもシャノンを喪いたくなくて。試してみる価値はあると思って。シャノン以外の番や伴侶は要らない─とも思っていたから。でも───俺はララ殿を見付けてしまった。シャノンが好きだった筈なのに、ララ殿を見た瞬間、ララ殿が欲しいと思った。同時に怖くもなった。」

「怖い?」

“何が?”と思い、首を傾げてルースを見上げる。

「番と、ララ殿に惹かれている自分が怖かった。シャノンに抱いていた“好き”は何だったんだろう─と。」

「……」

「でも、ララ殿の側に居ると、本当に心が落ち着いて穏やかな気持ちになるんだ。だから、ララ殿に、俺を知って欲しいと思った。勿論、シャノンを忘れる為とかじゃなくて、ララ殿となら、前に進めると思ったから。でも─」

ルースは、私の頬に手をあてたまま、オデコとオデコをくっつけて

「ララ殿が……シャノンだった─シャノンがララ殿だった。俺は、二度も…同じ女の子に恋を…したんだな。」

「……恋………」

ー今、私の目の前に居るのは…本当に、私の左腕だったアドルファスなの!?ー

シャノンに於いてのアドルファスとは、戦友の様なものだった。共に戦い、共に切磋琢磨し合って頼れる仲間なのだと。ルースだって、私に対して恋愛感情を表す事なんて無かった。それが─

今は私の目の前で、私が好きだと─シャノンとララと、二度もに恋をした─と言う。その顔がまた…とても甘い顔をしている。

ーこんな甘い顔のルースは、初めて見たー

「……確かに、私は竜王シャノンだった。でも、今は、ただの人族のララ。ララ=スペライン。だから…“ララ”と呼んで欲しい。」

「分かった─ララ。」

ルースは、本当に愛おしい者の名を呼ぶ様に、嬉しそうに微笑む。そんな顔を見ると、胸がドキドキして少し苦しくなる。

ーこれが…“恋”なんだろうか?ー

前世では、アレを“恋”と呼ぶかは分からないけど、苦しい恋しか知らなかった。現世では、今迄“恋”なんてしていなかった。

「あ!すまない!嬉し過ぎて忘れていた!ララ、舌を噛まないように、口を閉じておいてくれ。」

「はい?──わぁっ!!」

ルースはそう言うと、私を抱き上げた。

「どうしてびしょ濡れなんだ?暖かい気候とは言え、風邪をひいたら大変だから、急いで湯の支度をさせよう。」

ーあ!私も忘れてた!ー

「ごめんなさい!アドルファス様も濡れてしまって─」

「…ース…」

「え?」

「もう、“ルース”とは…呼んでくれないのか?」

抱き上げられているから、私がルースを見下ろし、ルースが私を見上げて来る。そこには、私の好きな漆黒の瞳がある。その目元にソッと手を触れて

「……ルースの瞳は、本当に綺麗だね。」

と言えば、ルースはキョトンとした後フワリと微笑んで、私を部屋まで運んでくれた。













「えっと…ルース?その…下ろしてくれない?その…重いでしょう?それに─」

「嫌だ。ララは全然重くない。」




あれから、湯を用意してもらいお風呂に入った。そして出て来ると

「シャ────ララ様!私、これからはララ様に誠心誠意を込めてお仕えさせて頂きます!!」

と、キーラに手を握り締められながら言われた。

ーうん。キーラにもバレたよね。キーラは、竜王であるシャノンに憧れを持っていたからー


キーラにテキパキと身支度を整えられ、丁度終わった頃にルースが部屋にやって来た─かと思えば、私をまた抱き上げてそのままソファーに腰を掛けた。ルースは私を膝の上に乗せたままで、私はギュウッとルースに抱き付かれている。

「それに…こうしていると、落ち着くんだ。」

ーそう言われるとなぁー

どうやら私は、相変わらずルースの少し困った様な顔には弱いみたいだ。

「なぁ…ララ。今日は…一緒に寝ても良い?」

「──え?」

「何もしないから。の…やり直しがしたいだけだから。今度こそ、何処にも行かないと…ララが俺の腕の中に居ると実感したいんだ。それだけだから。」

ーあぁ、私は…自分勝手な行いで、こんなにもルースを傷付けてしまっていたんだー

「ふふっ。やっぱり私は、相変わらずルースのその顔には…弱いみたい。でも、約束よ。私の意識の無い時に竜心を飲ませようとは…しないでよ?」

と、笑いながら言うと

「それは残念だ。」

と、肩を竦めてルースも笑った。














「ねぇ…本当に、こんなにくっついてて眠れるの?」

も言ったけど、ある意味眠れないかもしれないけど、ララを抱き締めてないと─心配だからな。苦しくは無いし…寧ろ嬉しいしかないな。」

あの日と同じように、私の背中からルースに抱き締められた状態でベッドに入っている。あの日と同じように、ルースの温もりにホッと安心する。

「俺、シャノンにしたかった事があったんだ。」

「“したかった事”?」

「うん。それに、ララにもしてあげたい事がたくさんあるんだ。だから─これから、シャノンにしたかった事を含めて、ララにしていくつもりだから、そのつもりでいてくれ。」

「えっと─例えば何を?」

と軽くルースを振り返って訊く。

「ん─シャノンにしたかった事は─甘やかす事─だな。」

「甘っ!?」

「うん。シャノンは竜王になってからは、誰を頼る事も甘える事もしなかっただろう?だから、俺だけは、シャノンを甘やかせたいって思ってたんだ。だから──これからは、とことん甘やかすからな?」

ー今以上の甘やかしがあるの!?今で、十分甘いんだけど!?ー

「それに、何と言うか…相変わらずララでも強かった訳だけど…今度は俺に、ララを守らせて欲しい。もう、好きな子にただ守られるだけの俺では居たくない。後は─」

「えっ?まだあるの!?」

「え?まだまだあるけど…そうだなぁ…簡単に言うと、これから先、ずっと、俺はララを…愛し続けるから、もう二度と離さないから覚悟しておけ─って事だな。」

「なっ──」

ーちよっと、これ、本当にあのアドルファスなの!?ー

「ルース…人が変わってない?」

「ん?変わってない。今の俺が…本来のと言うか、素直になった俺って事。もう、俺の気持ちを隠す必要は無いし、ララは俺の番だからね。」

ルースは嬉しそうに笑った後、また腕に優しくギュッと力を入れて、その腕の中に閉じ込められた。












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