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「…アドルファス、何故伝えなかった?」

ジュードとララが居る部屋から、隣の部屋へと移動したブラントとアドルファス。2人ともが、その部屋にある椅子に座ると、直ぐ様ブラントが口を開いた。

「……」

「アドルファス。俺は、別に責めてる訳じゃないからな?ただ、本当に、何故伝えたかったのかを訊いているだけなんだ。」

ブラントが困ったよう言う。

「なぁ、アドルファス。次に進む事は、悪い事じゃないんだよ?それに、次に進む事が、忘れる事では無いんだ。ただ、だけなんだ。」

「俺だって分かって…いるんだ。それに─」

と、アドルファスは顔を上げて、先程迄居た部屋の方へと視線を向けた。

「彼女の側に居るのは…心地好かった─。」

そう言うと、アドルファスは自然と笑顔になり、それを見たブラントはホッと安心した。

「なら、ちゃんと彼女にも伝えて…どうなるか分からないけど、ジュード殿と一緒に竜国に来てもらうようにお願いしろよ?」

「あぁ─分かった。しかし…2人が今話している言葉は…古代語か?」

どうやら、やっぱり2人の会話は、ブラントとアドルファスに聞こえているようだ。

「多分。何を言っているか…サッパリ解らないけどね。でも…竜国に来てくれると…良いんだけど…」

本能が暴走する事はなく、穏やかな気持ちのままで、番であるジュード殿と向き合う事ができた。本能がジュード─番─を求めている。でも、それだけでは物足りないと思った。番ではなく、を知って、を選んで欲しい─と思った。

ー愛おしいー

初めて知った感情だが、嫌な気分ではない。

本当に、もう少し早くこの研究の成果が出ていれば…私達は…竜王シャノンを喪わずに済んだのに。ただただ、それだけが残念であり悔しい事だった。













「竜国に…行きます。竜王様、宜しくお願いします。」

兄がそう言うと、ブラントは本当に嬉しそうに笑った。

「それと、お言葉に甘えて…妹─ララも一緒に…良いですか?」

と、兄が訊けば

「勿論、ララ殿も一緒に来てくれると言うなら喜んで。それに─アドルファス?」

と、ブラントは、何故か言葉を途切れさせアドルファスに視線を向けると、アドルファスが軽く息を吐いた後

「信じられないかも知れないが─と言うか、俺自身、信じられない気持ちがあるんだが…ララ殿。」

「はい?」

ーえ?私?ー   

「…ララ殿は、俺の番─なんだ。」

「…………はい?」

ーアドルファスは…何て言った?ー

「ララ殿も、竜国に来てくれると言うなら、俺と一緒に過ごして、俺を知ってもらいたい。」

ーごめんなさい。もう知ってる。めちゃくちゃ知ってますよ!知ってるけどー

「番?ほ…本当に?」

「人族のララ殿には分からないと思うけど…本当なんだ。本能で分かるし…それに…ララ殿の側に居るのは心地好くて…気持ちが落ち着くんだ。」

と、アドルファスが、優しい目をして笑う。

ーあぁ…懐かしいー

そうだ、アドルファスは、いつもこんな優しい目で…シャノンを見て笑っていたな。

最後に私に温もりをくれたルース。でも、最後に見たルースは少し泣きそうな─辛そうな笑顔だった。

“番”に対して良い思い出なんて一つもなかったけど、ルースのこの笑顔を、また見られるんだ─と思うと、番も少しは良いものに思えて来る。

「すみません。本当に番の感覚が分からなくて。でも…そう言ってもらえる事は…嬉しい?です。」

素直にそう言うと、何故か、ルースがヒュッと息を呑んだのが分かった。

「ん?」

と首を傾げてルースを見る。

「…あ─いや、すまない。少し考え事をしてしまっていた。兎に角…これから暫くの間、宜しく頼む。」

と言って、ルースはまた微笑んだ。

ー気のせい…だった?一瞬、ルースが緊張した感じがしたけどー

兎に角、竜国とはまた…本当に久し振りだよね。100年前とは変わってるんだろうか?100年位なら、変わらないかな?それに、他の皆も元気にしているんだろうか?皆に会えるのは少し楽しみだけど…

「あの…一つ、訊いても良いですか?」

「どうぞ?」

「竜族の…それも、竜王の番が人族だと…よく思わない人も…居るのでは?」

これは竜族に限ってではないけど、人族にだって、300年も前の争いで、未だに竜族を嫌悪している人が居るのだ。

「全く無い─とは言えないけど、竜族にとっての番は、それ以上に尊いモノだから。ジュード殿が竜国に来たとしても、何かされるとかは絶対に無い。あったら…それこそ、竜国がどうなるか分からないし。」

と、肩を竦めながらルースが言う。

それもそうか。竜族一の力を持つ竜王の番に手なんて出したら、それこそ大変だよね。

「勿論、ララ殿にも手なんて出させないから。」

と、ルースはニッコリ笑う。

「ありがとう…ございます…」

ーそれ、めちゃくちゃ恥ずかしいー

シャノンの頃には、“守ってあげる ”なんて言われた事はなく、“守ってやる”と言う側だったから…何だろう…ムズムズする…。それに…ルースがカッコ良く見えるのが…不思議だ…。“恋”なんてよくは分からないけど、ルースとなら…分かるかも…知れないよね。そう思うと、私も自然と笑顔になった。













それから、一週間後に竜国に行く事になった。

それまでに、私達の置かれている状況説明や、竜国から領地の運営を手伝ってくれる人達の紹介を領民にしたりと、慌ただしく一週間は過ぎて行った。



そして、一週間後、ブラントとルースが私達を迎えに来た──竜の姿で。 

「「……」」

あまりの大きさにに、兄は驚いている。私は…

ー懐かしいなー

ブラントの人の姿は、金髪に青い瞳。竜化すると青竜になる。そして、ルースは人の姿も竜化しても黒─黒竜だ。私は、シャノンの頃からルースの漆黒の瞳が好きだった。それは、竜であっても人であっても変わらない。

『この、竜の姿が…恐ろしい?』

と、ブラントが心配そうに兄に訊いている。

「恐ろしくはないですけど…何と言うか…思っていたよりもデカイな─と思って…。」

『そうか。』

『ララ殿も…大丈夫か?』

「はい。怖くは…ありません。」

『良かった』

ルースも安心したように目を細める。

『では、竜国へ行こうか。』

ブラントがそう言うと、ブラントが兄を、ルースが私をソッと優しく、竜の大きな手で持ち抱える。

『それでは、暫くは不自由を強いるが、我慢して欲しい。どうしても駄目なら言ってくれ。』

ルースはそう言うと、翼を広げて飛び上がった。






「うわぁ────」

100年ぶりに飛んだ空は─美しかった。風圧が掛からないように、私に魔法を掛けてくれているから、風を感じる事はできなかったけど、“飛ぶ”と言う懐かしい感覚が甦る。

あんなに自由に飛んでいたのに。どんな竜よりも速く飛べていたのに。

『くくっ…ララ殿は、平気そうだな?』

「はい!とっても楽しいです!」

最後に飛んだ時は、皆から─番から逃げるように、暗闇に向かって飛んだ。でも、今は─

優しくルースの手に抱えられて、美しい、真っ青な空を飛んでいる。ただただ、それだけで嬉しい。

ー忘れていたけど、空はこんなにも…美しかったんだなー

そう思うと、胸がキュッとなって、少しだけ…涙が出た。





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