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「見付けた。私の─番。」

竜王─ブラント─は、本当に愛おしい者を見る様な目で、兄を見つめながら言った。

ー番ー

その言葉に、心臓がドクリッと反応する。

反応したのはきっと、ララじゃない─シャノンだ。



人族に転生してから知った事。300年前に、100年続く争いの原因となった、竜王の番。人族には番と言う概念がない。勿論、番の概念がある種族にとっては、お互いが番だと分かるし何を置いても大切な存在。番に出会える事は幸せな事なのだ。

でも、人族には番の感情なんて、全く分からないのだ。分からない上に、番だった為に拐われ、争いが起こった。だから、人族にとって、番とは、忌み嫌われる存在なのでは?と思っていたけど。そうとは限らないようだ。

「番だと、溺愛されるらしいわよ!羨ましい!」

「番同士は、浮気の心配すらないのよ!素敵ね!」

と、人族では憧れ?めいたモノだったりするから、本当に驚いた。




ー閑話休題ー



えっと─目の前に居る竜王─ブラント─は…何と言った?


「番─ですか?あの…竜王…様。何かのお間違えでは?その─私は…男ですので…。」 


と、兄はゆっくりと、言葉を選びながら話した。


ー兄さん…残念ながら、竜に性別は…関係無いんですー

「いや、あなたは確かに、私の番だ。」

竜王はフワリと微笑み、兄の頬を手でソッと触れる。

ー何故、番を目の前にして、そんなにも落ち着いていられるの?私が番を目にした時はー

の感情がララを支配して、段々と息苦しくなって

「……にい…さん…」

「ララっ!?」

やっとの思いで兄さんを呼ぶと、焦ったように私を見る兄さんと目が合って─崩れ落ちる私の体を、誰かに抱き留められる様な感覚に陥り──そこでプツリと意識が途切れた。















気が付くと、そこは真っ暗闇だった。
そこに、シャノンが踞っている。












が欲しい



愛おしいの番



の唯一の半身



だけを見て欲しい





決して、手にしてはいけない番




そう理解すると、身体が一気に熱を喪って行くのに、それとは反比例するように、本能が番を求めて暴れだす。

苦しい─誰か…助けて─!






『─大丈夫…。もう、大丈夫だから。』

ー誰?ー

とても、優しい声がする。

それと同時に、手が温かい何かに包まれて、そこから身体全体に温もりが広がっていく。

懐かしい温もり。

「……ース………?」

懐かしい、ルースの温もりを思い出す。

ルースは、あれからどうしたんだろう?きっと…怒っただろう。一緒に居ると言ったのに、私はそこから抜け出したんだ。ルース…


「……めん……さい…」


ここでまた、私の意識が途切れた。


















「───ん…」

目を開けると、いつもとは違う風景が目に飛び込んできた。

ーここは…何処?ー

体を起こして、辺りを見回しながら記憶を辿る。

ーえっと…私、どうなったんだっけ?ー


式典が終わって帰ろうとしたら─





『見付けた。私の─番。』


「あぁ─!!兄さん!」


「お目覚めになりましたか?」

「えっ!?」

急に声を掛けられてビックリして、声がした方を見ると、城付きの女官らしき女の子が立っていた。

「えっと?あの…ここは?」

と訊くと

「はぁ─…。ここは、王城内にある客室です。あなたは、今日の式典が終わった後、倒れたんです。それで、竜族の方が運んで下さったんですよ。」

「そ…そうですか…」

ーえ?この子…溜め息吐いたよね?それに、なんだか…言い方が刺々しくない?私、何かした?ー

「はぁ─。本当に…式典に参加しただけで倒れるとか…たかが男爵令嬢のくせに…」

ー成る程…馬鹿にされてるって事かー

「元気になったのなら、さっさと出て行ってくれませんか?こっちは、まだやる事がいっぱいあるので、忙しいんですよ。」

「…分かりました。ご迷惑を掛けて…すみませんでした。ところで…私の兄を…知りませんか?」

腹はめちゃくちゃ立ってるけど、ここで言い返したところで面倒になるだけだと思い我慢した。

「あなたの兄の事なんて知りません。子供じゃあるまいし…自分で探して下さい。この部屋を出て、右側に行けば帰れますから。」

と、その女官はそれだけ言うと、部屋から出て行った。

ーあれで城付きの女官とは…酷いもんだなぁ。実力主義の竜族だったら有り得ないよねー

「ふぅ─。兎に角、ここから出て、兄さんを探さないと。」

まだ少し体は怠かったけど、兄が心配だった事もあり、私はその部屋からすぐに出た。









「はぁ─。何処にも居ない…と言うか…ここはどこ?」

王城が広いのは分かっていた。ただ、気を失っていた時、意識がシャノンに引き摺られていたせいか、自分が人族だった事がスッポリ抜けていたようで…

「……疲れた…無理…」

気を失なって倒れたばかりで、起きて直ぐに歩き回って…今、身体が悲鳴をあげている。

「ホントに…竜族とは…全然違うのね。」

兄を探していて入り込んでしまった庭園。その庭園にあるベンチに腰を掛けた。



ブラントの番が…兄さん…本当に?まさかの…三代続けて竜王の番が人族。

「無いわー…」

まぁ…兄さんには嫁どころか、婚約者も恋人も居ないのが、不幸中の幸い─かな?

でも─

どうして、番を目の前にして、あそこまで穏やかに居れたのだろう?

「……考えたところで…分からないよね。よし、また、兄さんを探しますか!」

気合いを入れて、ベンチから立ち上がる

「あっ──」

けど、うまく足に力が入らなくて、前のめり倒れかけて、衝撃に備えて?目をギュッと瞑る

「───見付けた!」

慌てたような声と共に、私の体が温かい何かに包まれた。

「??」

来るだろう衝撃は来ず、倒れる事もなかった。

「部屋に行けば、居なくなっていて─心配した。」

ーこの声はー

ギュッと瞑っていた目を開けて、声のする方に顔を上げると─漆黒の瞳と目が合った。

「………」

「君の兄は今、竜王陛下と一緒に居る。」

ー落ち着くのよ!私!ー

気付かれないように、軽く息を吐く。

「あの…兄は大丈夫なんですか?兄は…本当に、竜王様の番なんですか!?」

「陛下が嘘をつく理由はないから、本当に番なんだと思う。それで…ジュード殿に頼まれて、君を迎えに来たんだが…少し、我慢─してくれ。」

「え??─って!?」

「歩けない…と言うか、立ってるのもやっとだろう?」

と言いながら、私をヒョイッと抱え上げる─所謂“お姫様抱っこ”である。

「え?あの、ここまでしていただくのは…あの、少し休めば歩けるかと…」

「遅くなると、ジュード殿が心配するだろうし…それに、竜の俺からしたら、人族の君は軽過ぎる位軽いから、何の苦にも─ならない。」

「でも─」

「落とすつもりはないが、危ないから…しっかり掴まっててくれると助かる。」

ルース─アドルファス─が、あまりにも困った様に私を見てくるから、何となく胸がギュッと痛む。

「では─お言葉に甘えて。兄の所まで…宜しくお願いします。」

そう言うと、アドルファスは目を細めて笑った。







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