前世竜王だった私の右腕が選んだのは私の兄で、私は左腕に囚われる

みん

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「ララ、支度は出来た?」

「兄さん!丁度、今できたところよ。」


私の名前は─ララ=スペライン─

人族のスペライン男爵の妹である。
3年前、両親が流行り病で亡くなり、嫡男である兄─ジュード─が後を継ぎ男爵となった。そこからは、兄妹2人で力を合わせて領地運営に励んだ。勿論、周りの人達の助けがあっての事だ。

「王都に行くのは…2年ぶりだね?」

「そうよ。私のデビュタント以来よ?」

そう。私は2年前に成人をし、デビュタントとして、年に一度王城で開かれる、デビュタントの為の夜会に参加した。そして、今回、それ以来となる登城である。

貴族として、年に何度か王城で開かれる夜会に参加しなくてはいけないのだろうけど、両親が亡くなり、兄妹は2人きり。しがない男爵。贅沢をする時間もお金だってない。そんな理由で、夜会には参加していないのである。

それでも、そんな生活でも─とても楽しい。

とは、とても儚い存在だと思っていた。でも─違った。人は、限りある短い人生を精一杯生きている。そんな毎日が…とても楽しいのだ。

すぐ風邪をひいたりするのは…ちょっとだけ難点だけど。




実は私は、前世の記憶をまるっと持ったまま生まれ変わった。

前世の私の名前は─シャノン─前竜王だった。














、私はルースの腕から抜け出し、最果ての地へと飛び立った。竜族の中で一番と言われたスピードで飛び続けた。誰にも追い付かれる事のないように。


そうして辿り着いた所は、何も無い暗闇が支配する、亀裂が入った地があるだけの場所だった。

不思議と、恐怖感は無かった。飛んでいる間も暴走しそうになる本能と戦い続けた。それなのに、今はその本能でさえ静まりかえっている。

ーそうか…“最果ての地”とは、“無”が支配する場所なのかー

と、自然と理解した。ならば、このまま、静かに穏やかに自分の命に…終止符を打てる─。

白竜の姿から、人の姿へと変化し、その亀裂の前まで進む。

落ちる前に、さっきまで感じていた温もりを思い出す。

「…ルース…」

私をずっと側で支えてくれたルース。最後に一緒に居てくれて…ありがとう。

「さよなら…ルース…」

最後にそう囁いて、私は亀裂に身を投げ出した。














そうして、気が付けば私は人族てして生まれ変わり、物心付いた頃には、前世の記憶をまるっと思い出していた。

出来る事なら、平民が良かった。もう、王族に関わるのは真っ平ごめんだ。全くもって良い思い出も印象もない。このままずっと領地に引っ込んだまま一生過ごしたい。

と思っていたのに─

今回の式典には、男爵家として必ず出席しなければいけないのだ。10年毎に催されるようになった式典─

“終戦記念日の式典”である。

そして、今年は丁度300年目に当たるのだ。

シャノンが死んで100年かー

人族にとったら、孫、曾孫へと世代が変わっているが、竜族や魔族にとってはさほど大した時間ではない。と言う事は…

この式典には、見知った顔ぶれが居る─と言う事だ。まぁ、彼らからしたら、私がシャノンだった─なんて事が判る筈も無いから良いんだけど。

竜族も魔族も、王が変わったとはみ耳にしないから、そのままなんだろう。久し振りに彼等の顔が見れる─と思うと、少しだけ気持ちが軽くなった。



スペラインの領地から王都へは、馬車で丸一日掛かる。

ーシャノンだったら、数時間で行けたよねー







「ララは…に会うのは、大丈夫なの?」

無事に1日掛けて王都入りをし、今日と明日と泊まる宿で兄と寛いでいる時に、兄に心配そうに訊かれた。

「ふふっ─大丈夫よ。ありがとう、兄さん。と言っても、向こうは王様で、私は末端貴族。位よ。それに、今の私は見た目が全然違うから。」


私が、前世竜だった記憶を思い出した時、高熱を出した上に暫くの間、毎晩魘されていた。そんな私を心配した兄は、私が魘される度に手を握って側に居てくれたのだ。そして、私はその時、兄に前世の事を話した。
幼い子供の戯言の様な話を、兄は嗤う事も馬鹿にする事もなく─

「“シャノン”は偉かったんだね。最期は、静かに穏やかにいけたんだね?じゃあ、これからは、“ララ”として、シャノンの分もいっぱい楽しい事をしよう?」

そう言って、兄は一晩中私を抱っこしたまま寝てくれた。兄には、本当に助けられた。そんな優しい兄が大好きだ。

「それでも、無理をしては駄目だよ。何かあったら、すぐ私に言うんだよ?約束だよ。」

「はい。約束するわ。」

そう答えれば、兄は優しく微笑み、頭をポンポンと優しく叩いた。















ー兄がモテる事をスッカリ忘れてたー

王城に入り、式典が行われるホールに入場する時間迄控室で過ごしていると─あっと言う間に兄は、ご令嬢達に囲まれた。端くれ貴族とは言え、兄は男爵であり、婚約者どころか彼女も居ない。何よりも─

ー私の兄は美人だー

あれ?“お姉さん”だったかなぁ?と思える程。肩の下迄伸びた銀髪の髪を後ろで一つに括っている。目はパッチリ二重で、瞳の色は綺麗な青。綺麗だったお母様に似ている。

それに対しての私は─

同じ銀髪の筈なのに、少し白っぽい。目はなんとか二重を保っていて、瞳の色は水色。つまり、全体的にのだ。お父様に…似ちゃったんだよね。

前世のシャノンは、自分で言うのもなんだけど、美人だったと思う。身長も高めで、スラッとした体型。白竜の姿だって、自慢できる程だった。

そして、基本的に、竜族には美男美女が多かったように思う。

あくまで、前世の記憶だけど、美男美女を見慣れていたせいで、兄が美人だと言う事をスッカリ忘れてたいたのだ。

まぁ、そろそろ兄にも好い人が居てもおかしくない訳で─これを機に、良い出会いがあると良いな。

と、その時の私は呑気にそんな事を思っていた。






えぇ、思ってましたよ!!思って悪い!?思ったら駄目だった!?大好きな兄の幸せを願うのは─いけない事だったの!?








あれから、式典のホールに爵位順に入場していき、時間通りに式典が始まった。そして、かなり離れた位置からだったけど、何となくで、懐かしい顔ぶれが確認できた。

魔族の王─ルドルフ─。隣に女性を連れている。ルドルフも、ようやく王妃を娶ったのかもしれない。

竜王─ブラント─。やっぱり、私の後にはブラントが立ったのか。

そして、その竜王ブラントの後ろに控えているのが、竜王の左腕─アドルファス─。

最期に、シャノンに温もりをくれた人。

「皆、元気そうで良かった」

そう囁いた瞬間─

ブラントとアドルファスが、後ろを振り返った。

ーえ?今の…聞こえた?ー

竜は耳が良い。でも…かなり距離があるし…私も殆ど声は出していない。たまたま─だよね?









──なんて思っていた自分を殴りたい。

あの時、警戒しておけば良かった。




式典が滞りなく終わり、いざ退場!となったところで、ホールの奥の方からざわめきが起こり、そのざわめきが少しずつ近付いて来て─

気付けば、兄の目の前に竜王─ブラント─が、微笑みながら立っていた。

ーえ?何!?ー

と思い、焦っている私と兄の前で、竜王は言葉を発した。


「見付けた。私の─番。」











あれ?私の兄は─やっぱり“姉”だった?














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