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伍
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「欲しいモノは、一度失ってから手に入る。」
そう予言したのは、俺の生まれた領地に住んでいる巫女様だった。竜族には、未来を読む巫女様が存在する。そして、成人する時に、その巫女様から予言を受けると言う習わしがある。
とは言え、未来はいくつもの選択肢がある為に、必ずしもそうなるとは限らないらしい。飽くまでも、巫女様が視る未来は、その時、一番なり得る可能性が高いものだと言う。
未来を変える変えないは、自分次第─と言う事だ。
「ルース、予言はどうだった?」
そう笑顔で訊いて来たのは、幼馴染であるシャノン。俺の初恋の相手であり、今現在も恋をしている女の子だ。
「何か、意味の分からない感じ─かな?」
失ってから得るって…意味が分からない。失ったのに得られるって…正反対の意味だろ?
「ふーん?ま、可能性の一つだから、あまり気にしない事ね!」
と、シャノンは俺を元気付けるように笑った。
俺は、シャノンの側に居たいから、シャノンと一緒に王都に出て騎士団に入団した。側に居られるように力もつけた。全ては─シャノンの為だった。
シャノンは強い。本人は否定するし、なる気もないと一蹴するが、シャノンは竜王になれる程の力を持っていると思う。もし、シャノンが竜王になったら…その時も側に居られる為に─俺は強くあり続けると誓っていた。
竜王オルガレンが、番である人族の王太子妃を拐って来てから、今までの日常がガラリと変わった。
シャノンは力を認められて、“竜王の左腕”─竜王の一番の側近になっていて、俺は、シャノンの配下となっていた。
竜王オルガレンは、シャノンを番様に付け、2人を奥の離宮に閉じ込めた。俺とブラントしか知らない─シャノン本人も知らなかったようだが、竜王は、番が見付からなければ、シャノンを伴侶にしようとしていたのだ。だから、番様にシャノンを付けて一緒に閉じ込めたと言う事は…番が見付かっても、シャノンを手放したくない─と言う事なんだろう。
その日から、シャノンには一切会えず、毎日繰り返される争いの日々。始めこそ、竜王に番が現れた!と喜んだ者達も、何年も続く争いに疲弊して行った。
争いが始まってから100年程経った時、ついにシャノンが動いた。
久し振りに会ったシャノンは、相変わらず綺麗だった。久し振りに会い、またその瞬間、恋に落ちた感覚に襲われる程に、更に愛おしさが増した。
「私が……陛下を止める。」
「ただ…今回の挑戦は…私が死ぬか、私が陛下を弑するか…になる。」
そう宣言したシャノン。周りはざわめいたが、俺とブラントだけは冷静だった。すぐ側で見ていたから分かる。
ーシャノンが負ける筈が無いー
力は竜王とシャノンは互角。ただ、竜王にはシャノンを殺す事は…出来ないだろうから。
それから3日後。皆が見守る中シャノンは竜王を弑し、この日、新たなる新竜王─シャノン─が誕生した。勿論、俺─アドルファス─は新竜王の左腕、ブラントは新竜王の右腕になった。
ーこれでまた、シャノンと一緒に居られるー
それからの日々は、ただただ楽しく、幸せだった。
それなのに─
「番を…見付けたんだ。」
シャノンの番は…人族の王太子だった。
手に入れるつもりはないと言うシャノン。
最果ての地に行くと言うシャノン。
番に会って、知ってしまった本能。
もう、竜心を交わしただけの伴侶では、その本能を抑える事はできないと言うシャノン。
こんな事になるなら、側に居る事だけに満足せずに、想いを告げて竜心を交わしておけば良かった。
本能が暴走するのが怖いと言うシャノン。
そんなシャノンに、俺もブラントも何も言えなくなる。暫く沈黙が続いた後、言葉を発したのはブラントだった。
「……陛下、私は…ここで少し失礼します。アドルファス…陛下を…頼んだよ?」
ブラントはそう言うと、俺の肩をポンポンと叩いた後、部屋から出て行った。
「アドルファス、お前も下がっても良い─」
「陛下─いや、シャノン。今晩は…一緒に居ても良いか?陛下と臣下では無く…1人の男として…シャノンの側に居たい。」
シャノンの言葉を遮ってお願いをした。
「…ルース…それは…」
俺は、フルフルと首を振る。
「何もしない。ただ…シャノンを抱き締めて、シャノンの存在を確かめながら眠りたいだけだから。」
「ルース…」
「お願いだ。最初で…最後だから…」
恥も何もかも捨てて、ただただ恋をしている彼女に乞い願う。
「ふふっ─。私は昔から、ルースの泣きそうな顔?には弱いようだ。“何もしない”約束は、守ってもらうぞ?」
「……あぁ。守るよ。」
俺に背を向けて横になっているシャノンは、あまりにも無防備で、“竜王”ではなく、ただの1人の…俺が好きな女の子でしかない。
そんな彼女を、背中から抱き締めて、俺の腕の中に閉じ込めた。
「そんなにくっついて…苦しくないの?こんな体勢で…眠れるの?」
「苦しくはない。まぁ…ある意味では眠れないかもな。」
これは本音だ。約束通り何もするつもりはないが…。
竜族最強の女の子。どこにそんな力が?と思う程華奢な体つきだった。シャノンの髪に顔を埋めると、フワリと花の香りがする。シャノンの背中からは心地好い温もりを感じる。
ーここに…俺の腕の中にシャノンが居るー
ただただ、それだけで幸せになる。
なのに─
もうすぐ、この温もりを喪うのか─そう思うと、ムクリと、俺の“欲”が顔を出した。
ーシャノンが寝てる間に…俺の竜心を彼女に飲ませるー
その思考に、心臓がドクリッ─と音を立てる。
竜心を飲ませたところで、既に知ってしまった番に対する本能は抑えられないと言った。でも、やってみる価値はあるんじゃないのか?
ーどうせ、俺はシャノン以外とは考えられないしー
と、色々考えていると、段々と意識が薄らいできた。
ー何故だ?ー
今日は、最初から眠るつもりはなかった。一晩、しっかりとシャノンの存在を確かめながら抱き締めようと思っていた。逃がさないように、何処にも行かせないように、俺の腕の中に閉じ込めておくつもりだった。そして、俺の竜心を─と。
「ルース…」
どこか、遠くの方で、シャノンが俺を呼ぶ声がする─のに、瞼が重くて持ち上がらない。返事をしたいのに、声が出せない。
ーシャノン…何処にも…行くな。行かないでくれー
それが言葉になったのか、ならなかったのかは分からないが、俺の意識はそこで途切れた。
次に俺が目を覚ました時には、もう既に、そこにシャノンの姿はなかった。
そう予言したのは、俺の生まれた領地に住んでいる巫女様だった。竜族には、未来を読む巫女様が存在する。そして、成人する時に、その巫女様から予言を受けると言う習わしがある。
とは言え、未来はいくつもの選択肢がある為に、必ずしもそうなるとは限らないらしい。飽くまでも、巫女様が視る未来は、その時、一番なり得る可能性が高いものだと言う。
未来を変える変えないは、自分次第─と言う事だ。
「ルース、予言はどうだった?」
そう笑顔で訊いて来たのは、幼馴染であるシャノン。俺の初恋の相手であり、今現在も恋をしている女の子だ。
「何か、意味の分からない感じ─かな?」
失ってから得るって…意味が分からない。失ったのに得られるって…正反対の意味だろ?
「ふーん?ま、可能性の一つだから、あまり気にしない事ね!」
と、シャノンは俺を元気付けるように笑った。
俺は、シャノンの側に居たいから、シャノンと一緒に王都に出て騎士団に入団した。側に居られるように力もつけた。全ては─シャノンの為だった。
シャノンは強い。本人は否定するし、なる気もないと一蹴するが、シャノンは竜王になれる程の力を持っていると思う。もし、シャノンが竜王になったら…その時も側に居られる為に─俺は強くあり続けると誓っていた。
竜王オルガレンが、番である人族の王太子妃を拐って来てから、今までの日常がガラリと変わった。
シャノンは力を認められて、“竜王の左腕”─竜王の一番の側近になっていて、俺は、シャノンの配下となっていた。
竜王オルガレンは、シャノンを番様に付け、2人を奥の離宮に閉じ込めた。俺とブラントしか知らない─シャノン本人も知らなかったようだが、竜王は、番が見付からなければ、シャノンを伴侶にしようとしていたのだ。だから、番様にシャノンを付けて一緒に閉じ込めたと言う事は…番が見付かっても、シャノンを手放したくない─と言う事なんだろう。
その日から、シャノンには一切会えず、毎日繰り返される争いの日々。始めこそ、竜王に番が現れた!と喜んだ者達も、何年も続く争いに疲弊して行った。
争いが始まってから100年程経った時、ついにシャノンが動いた。
久し振りに会ったシャノンは、相変わらず綺麗だった。久し振りに会い、またその瞬間、恋に落ちた感覚に襲われる程に、更に愛おしさが増した。
「私が……陛下を止める。」
「ただ…今回の挑戦は…私が死ぬか、私が陛下を弑するか…になる。」
そう宣言したシャノン。周りはざわめいたが、俺とブラントだけは冷静だった。すぐ側で見ていたから分かる。
ーシャノンが負ける筈が無いー
力は竜王とシャノンは互角。ただ、竜王にはシャノンを殺す事は…出来ないだろうから。
それから3日後。皆が見守る中シャノンは竜王を弑し、この日、新たなる新竜王─シャノン─が誕生した。勿論、俺─アドルファス─は新竜王の左腕、ブラントは新竜王の右腕になった。
ーこれでまた、シャノンと一緒に居られるー
それからの日々は、ただただ楽しく、幸せだった。
それなのに─
「番を…見付けたんだ。」
シャノンの番は…人族の王太子だった。
手に入れるつもりはないと言うシャノン。
最果ての地に行くと言うシャノン。
番に会って、知ってしまった本能。
もう、竜心を交わしただけの伴侶では、その本能を抑える事はできないと言うシャノン。
こんな事になるなら、側に居る事だけに満足せずに、想いを告げて竜心を交わしておけば良かった。
本能が暴走するのが怖いと言うシャノン。
そんなシャノンに、俺もブラントも何も言えなくなる。暫く沈黙が続いた後、言葉を発したのはブラントだった。
「……陛下、私は…ここで少し失礼します。アドルファス…陛下を…頼んだよ?」
ブラントはそう言うと、俺の肩をポンポンと叩いた後、部屋から出て行った。
「アドルファス、お前も下がっても良い─」
「陛下─いや、シャノン。今晩は…一緒に居ても良いか?陛下と臣下では無く…1人の男として…シャノンの側に居たい。」
シャノンの言葉を遮ってお願いをした。
「…ルース…それは…」
俺は、フルフルと首を振る。
「何もしない。ただ…シャノンを抱き締めて、シャノンの存在を確かめながら眠りたいだけだから。」
「ルース…」
「お願いだ。最初で…最後だから…」
恥も何もかも捨てて、ただただ恋をしている彼女に乞い願う。
「ふふっ─。私は昔から、ルースの泣きそうな顔?には弱いようだ。“何もしない”約束は、守ってもらうぞ?」
「……あぁ。守るよ。」
俺に背を向けて横になっているシャノンは、あまりにも無防備で、“竜王”ではなく、ただの1人の…俺が好きな女の子でしかない。
そんな彼女を、背中から抱き締めて、俺の腕の中に閉じ込めた。
「そんなにくっついて…苦しくないの?こんな体勢で…眠れるの?」
「苦しくはない。まぁ…ある意味では眠れないかもな。」
これは本音だ。約束通り何もするつもりはないが…。
竜族最強の女の子。どこにそんな力が?と思う程華奢な体つきだった。シャノンの髪に顔を埋めると、フワリと花の香りがする。シャノンの背中からは心地好い温もりを感じる。
ーここに…俺の腕の中にシャノンが居るー
ただただ、それだけで幸せになる。
なのに─
もうすぐ、この温もりを喪うのか─そう思うと、ムクリと、俺の“欲”が顔を出した。
ーシャノンが寝てる間に…俺の竜心を彼女に飲ませるー
その思考に、心臓がドクリッ─と音を立てる。
竜心を飲ませたところで、既に知ってしまった番に対する本能は抑えられないと言った。でも、やってみる価値はあるんじゃないのか?
ーどうせ、俺はシャノン以外とは考えられないしー
と、色々考えていると、段々と意識が薄らいできた。
ー何故だ?ー
今日は、最初から眠るつもりはなかった。一晩、しっかりとシャノンの存在を確かめながら抱き締めようと思っていた。逃がさないように、何処にも行かせないように、俺の腕の中に閉じ込めておくつもりだった。そして、俺の竜心を─と。
「ルース…」
どこか、遠くの方で、シャノンが俺を呼ぶ声がする─のに、瞼が重くて持ち上がらない。返事をしたいのに、声が出せない。
ーシャノン…何処にも…行くな。行かないでくれー
それが言葉になったのか、ならなかったのかは分からないが、俺の意識はそこで途切れた。
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