前世竜王だった私の右腕が選んだのは私の兄で、私は左腕に囚われる

みん

文字の大きさ
上 下
3 / 15

しおりを挟む
「陛下!先程の下命は、一体どう言う事ですか!?」

竜王の執務室に、アドルファスがノックもせずに入室し、大声で発言しながら大股で竜王の元へとやって来た。

「どう言う事も何も、言った通りの意味だが?」

竜王の執務室にある、大人5人が余裕で座れる程のロングソファーの肘掛けに凭れ、ソファーに両足を乗せて寛いでいる竜王─シャノン─は、首を傾げながらアドルファスに答えた。


そう。今から200年程前─人族と魔族との争いが始まってから100年程経った頃─当時の竜王の左腕だったシャノンが、争いを終わらせる為に竜王に決闘を申し入れ、多くの竜達が見守る中、シャノンは竜王─オルガレン─を弑し、その座を得たのである。

オルガレンの竜心を飲んで竜化していた番─ヴァネッサ─は、オルガレンの死と共に竜心の効力も切れる為、見た目は何も変わらないが、身体も元の人へと戻り、再び人としての時を刻み始めた。

そして、シャノンは直ぐ様、人族と魔族に和睦を申し入れ、その話し合いの場にヴァネッサも同席させた。人族の王は、最初はシャノンに対しても不信感を持ってはいたが、ヴァネッサ自身がシャノンは信頼できる─と明言した為、渋々ながらも和睦を受け入れた。

魔族の王に至っては─

「前の竜王は気にくわなかったが、私はシャノンの事は、前から気に入っていたからな。我が種族も、この和睦を喜んで受け入れよう。しかし…シャノンが竜王にならなければ、私の妃に─と思っていたのに…残念だ。」

と、魔族の王─ルドルフ─が、シャノンにウィンクしながら軽く和睦を受け入れた。

ールドルフ様は、相変わらず…軽いな…ー

と、シャノンは呆れつつも、和睦を受け入れてくれた事に安堵した。

そうして、100年程続いた争いは終わりを告げた。

ヴァネッサも100年ぶりに、人としての時を刻み始めたが、人間としの100年は長過ぎた。母国に帰って来たところで、かつて愛を誓い合った者は既になく、見知った者も居なくなっていたのだ。

「残りの余生は…迷惑でなければ、シャノン様の元─あの離宮で過ごしたいと思います。」

ヴァネッサは、相変わらず儚げな笑顔だが、今までとは違って晴々とした様に笑った。



そうして、ヴァネッサは、奥の離宮で穏やかに過ごして50年─


「シャノン様、あなたのお蔭で、私が私である事ができました。ありがとうございました。」

と言葉を残し、離宮で静かに息をひきとった。














それからも、竜王シャノンの元、平和な日々が続いていた。毎年、終戦記念日には、人族の国で式典が執り行われた。そして、今年の式典は、丁度終戦後200年となった。その式典は、今までよりも盛大に、且つ、お祭り騒ぎの様に執り行われた。

「平和な世が、あれから200年保たれました。これからも、平和な世が続くように願う限りです。」

そう発言するのは人族の次代の王─現王太子。

人族の寿命と言うのは短く、終戦記念の式典を執り行っている者達ではあるが、あの争いには全く関わっていない─知らない者達になっている。

「本当に…人とは儚い者なのだな─。」

と、魔族の王─ルドルフ─が呟く。

「……」

「ん?どうした?シャノン。顔色が悪いぞ?」

この200年。ルドルフと共に、変わらずに式典に出席していた竜王─シャノン─。今回も、ルドルフと並び立っていたのだが…。

「あ…あぁ…すまない。昨日はちょっと…執務が忙しくて…寝不足なんだ。」

「そうか。なら、今夜は俺の腕の中で…寝るか?寝かせてやれるかどうかは…分からないけど。」

と、ルドルフがシャノンの腰を引き寄せる。

「ルドルフ…寝言は寝てから言うものだ。お前の腕の中なんて、真っ平ごめんだ。」

シャノンは、ペシッとルドルフの手を叩いた。

「くくっ─。本当に、相変わらずシャノンは冷たいね?ま、そこが良いんだけどね?」

ーはぁ─本当にルドルフは軽いよね…早く嫁の1人でも持てば良いのにー

ジトリとした目を向けても、ルドルフは嬉しそうに笑うだけだった。












「シャノン、どうした?」

式典も滞りなく執り行われ、例年通り夜は夜会が開かれた。毎年、シャノンもその夜会に参加し、その日は人族の王城に泊まり、翌日竜国に帰るのだが、今回は、夜会もそこそこに席を外し夜ではあるが、既に帰る支度を終えていた。そこへ、シャノンを探しに来たルドルフがやって来たのだ。

「ルドルフ。すまない。急用ができたから、今から竜国に帰るよ。」

そう言って、人型から竜の姿へと変わろうとした時、ルドルフがグイッとシャノンを引き寄せた。

「ルドルフ?」

「シャノン…何があった?」

「……何がって。何も…無いが?」

お互い無言で向き合う。


「ルドルフ様、竜王陛下を、離して頂きたい。」

そこに割って入った来たのは、シャノンを迎えに来た、シャノンの左腕であるアドルファスだった。

「はいはい。離しますよ。」

と、ルドルフは両手を上げてシャノンから離れた。

「陛下、翔べますか?」

「誰に訊いている?お前こそ…遅れをとるなよ?」

シャノンは一度ルドルフを振り返り

「…ルドルフ。ありがとう。では─な。」

とフワリと微笑むと、そのまま竜の姿へと変化し、白にも銀にも見える鱗を輝かせながら飛び立って行った。

「本当に、いつ見ても綺麗な白竜だな─。」

と、ルドルフは愛おしい者を見るように、シャノンの姿を見送った。














「陛下、お疲れ様です。それで…急な予定変更ですが、何かありましたか?」

竜国の王城に着くと、シャノンの右腕であるブラントが出迎えていた。

「…アドルファス、ブラント、明日の夕刻に、主だった者達を召集してくれ。誰も欠席する事なく、全員必ず出席させろ。良いな?話しはその時にする。」

「「御意」」

「それと。今夜は…明日のその夕刻迄、誰1人として…私の部屋に近付くな。侍女もだ。勿論、護衛もいらない。」

「陛下、それは─」

「…このに手を出す輩が…居ると言うのか?」

シャノンは、口を出そうとしたアドルファスを一瞥した。一瞬目が合っただけだったが、何故かシャノンの瞳に“怒り”がある事が分かった。

「いえ─。すみません。陛下の…意のままに…。」

「……すまない。2人とも…もう下がってくれ。」

「「御意」」

シャノンは、そのまま2人を振り返る事もなく、自室へと歩いて行った。

そんなシャノンの後ろ姿を、アドルファスは心配そうな顔でみていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。

かのん
恋愛
 真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。  けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。 「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。  ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん .+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...