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壱
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この世界には、様々な人種が存在している。
大陸には、“人族”、“獣人族”、“亜種族”、“エルフ族”が存在する。そして、空には“魔族”、“鳥族”、“竜族”が存在する。お互い国交もあり、特に争いもなく比較的平和であった。
それが、300年程前に一変した。
事の始まりは、人族の新王の戴冠式の日であった。
各種族の新王の戴冠式には、必ず各種族のトップが招かれ、必ず参列する。その日も、各種族のトップが人族の国に一堂に会した。
戴冠式が始まり、新王となる男と、その妻─王妃がその神殿に足を踏み入れた瞬間
「見付けた」
ただ一言、戴冠式に参列していた、当時の竜王が囁いた。
そう。戴冠式に共に並び立っていた王妃が、その竜王の“番”だったのだ。そして、その竜王はその場で、嫌がる王妃を拐ってしまったのだ。
竜族は七つある部族の中でも、最強の力を持つ部族であり、空が飛べる為に国が天空にある。その為、竜王に拐われた王妃を、人族の王達が助ける術は無く─。
「私は、前より、今の竜王は気にくわなかったのだ。」
そう言って、人族に手を差しのべたのが、竜族と同じ天空に住む魔族だった。勿論、人族は一も二も無くその手を取り…竜族対人族と魔族の連合との争いが始まったのである。
力は竜族が圧倒的だが、魔族はそれを魔力や魔術で対抗する。人族は知恵を振り絞り戦略的に攻め込み、一進一退を繰り返していた。
竜族にとっての“番”は、他のどの部族の“番”よりも、重要、且つ、厄介なモノである。
竜族は色んな意味で力が強過ぎる為に、番でなければ子を成し難い。
竜族の平均的な寿命は800歳から900歳と言われ、1000歳まで生きる者も居る長寿ではあるが、力が強い竜程、番が居る居ないで事情が変わって来る。
竜族にとっての番は謂わば、自身の失った半身であり、本能でその半身を求めるのだ。失った状態のままだと、500歳を超える辺りに自身の体に異変が起こる。本能が半身─番─を求めて理性を欠落させていくのだ。理性を欠落させた竜は、狂ったように暴れまくり、破壊の限りを尽くすのだ。それは、その竜本人にも止める事ができない。
番ではなくても、“竜心”を交わした相手が居れば、辛うじてその欠落は抑えられるが、その竜の寿命は短命に終わる。
番が居れば、理性が欠落する事も無く寿命も長くなり、子も成し易い。
それ故に、竜王が人族の王妃を拐って来ても、誰も表だって異論を唱える事ができなかったのだ。
竜王とは、その名の通り、竜族の中で最強の者が立つ。世襲制ではない。「我こそが王だ!」と思う者が竜王に決闘を申し込み、その決闘の勝者をもって竜王とするのだ。
その最強の竜王が暴れれば…誰にも竜王を止める事はできず、この竜族だけの話では済まないだろう─と言う事は安易に予想ができた─できてしまうのだ。
そうしたまま、人間の王妃は、その竜王に無理矢理“竜心”を飲まされ、身体を竜化させられ、その竜王に囚われてしまったのだ。
“竜化”─番と言うのは、必ずしも同種族とは限らない。竜族の場合、成人すると一生に一度だけ“竜心”を創る事ができる。竜の鱗の一部なのだが、その“竜心”を自分の相手や番の体内に取り込ませると、見た目は変わらないものの、身体の構造が竜化し、竜族のような力を得て、長寿にもなるのだ。
竜心を飲まされ、竜化した王妃は毎日のように泣いて暮らしている─と、噂されていたが、竜王自身は嬉しそうにその王妃を囲い、人族と魔族がやって来ると、自らも出陣し、相手を次々に蹴散らしていった。
そんな争いも、100年以上続くと、心が疲弊して来る。力が圧倒的な竜族であっても、失ったモノは少なくない。
ここまでの犠牲を払ってまで、なおも争う必要はあるのか?そんな小さな疑問を持ち始める者がいた。
「一体、この争いはいつまで続くんだろう」
「これで、一体誰が幸せになった?」
「あの日あの時、彼女が陛下の側に居れば…何とか抑えられたかもしれなかったな。」
「…今さら、そんなタラレバの話をしてもしょうがないだろう。」
その“彼女”とはー
その竜王の左腕であり、側近中の側近。力も、竜王並みでは?と言われている。彼女は竜族でも珍しい白竜である。人化すると、白い髪に瞳は青空の様な青。纏う空気も他の竜達とは違っていた。
「私が……陛下を止める。」
100年経っても、治まる気配のない争いの日々。争う意義すら分からなくなった。人族にとっては、既にあの時の王は亡くなっており、いま王として立っているのも、あの王から2人目の王である。その王も、近々譲位すると言う。ならば、このタイミングでこの争いに終止符を打ち、新たな王とは新たな信頼関係を築けたら─と考えたのだ。
その、竜王の左腕である彼女─シャノン─が、竜王不在の朝議の場で発言した。そして、その発言に、誰も反対しなかった。寧ろ─ようやく終わるのか─と、皆一様に安堵の表情を浮かべた。のだが…
「ただ…今回の挑戦は…私が死ぬか、私が陛下を弑するか…になる。」
「何を─!?」
その場が一気にざわつく。
「負けが死を意味する─とは、もう既に廃れた風習です!前回同様、どちらかが─」
「争いを治めたいのだろう?治める為には…王妃を人間に還す必要がある。それは─陛下から番を奪うと言う事だ。意味が…解ったか?」
シャノンの言葉に、今度はその場が一瞬にして静まり返った。
「まぁ─私も負けるつもりはないし…頑張るけど、私が負けたら…後は頼んだよ─アドルファス、ブラント。」
そして、その朝議から3日後、竜王とシャノンの決闘が行われた。
大陸には、“人族”、“獣人族”、“亜種族”、“エルフ族”が存在する。そして、空には“魔族”、“鳥族”、“竜族”が存在する。お互い国交もあり、特に争いもなく比較的平和であった。
それが、300年程前に一変した。
事の始まりは、人族の新王の戴冠式の日であった。
各種族の新王の戴冠式には、必ず各種族のトップが招かれ、必ず参列する。その日も、各種族のトップが人族の国に一堂に会した。
戴冠式が始まり、新王となる男と、その妻─王妃がその神殿に足を踏み入れた瞬間
「見付けた」
ただ一言、戴冠式に参列していた、当時の竜王が囁いた。
そう。戴冠式に共に並び立っていた王妃が、その竜王の“番”だったのだ。そして、その竜王はその場で、嫌がる王妃を拐ってしまったのだ。
竜族は七つある部族の中でも、最強の力を持つ部族であり、空が飛べる為に国が天空にある。その為、竜王に拐われた王妃を、人族の王達が助ける術は無く─。
「私は、前より、今の竜王は気にくわなかったのだ。」
そう言って、人族に手を差しのべたのが、竜族と同じ天空に住む魔族だった。勿論、人族は一も二も無くその手を取り…竜族対人族と魔族の連合との争いが始まったのである。
力は竜族が圧倒的だが、魔族はそれを魔力や魔術で対抗する。人族は知恵を振り絞り戦略的に攻め込み、一進一退を繰り返していた。
竜族にとっての“番”は、他のどの部族の“番”よりも、重要、且つ、厄介なモノである。
竜族は色んな意味で力が強過ぎる為に、番でなければ子を成し難い。
竜族の平均的な寿命は800歳から900歳と言われ、1000歳まで生きる者も居る長寿ではあるが、力が強い竜程、番が居る居ないで事情が変わって来る。
竜族にとっての番は謂わば、自身の失った半身であり、本能でその半身を求めるのだ。失った状態のままだと、500歳を超える辺りに自身の体に異変が起こる。本能が半身─番─を求めて理性を欠落させていくのだ。理性を欠落させた竜は、狂ったように暴れまくり、破壊の限りを尽くすのだ。それは、その竜本人にも止める事ができない。
番ではなくても、“竜心”を交わした相手が居れば、辛うじてその欠落は抑えられるが、その竜の寿命は短命に終わる。
番が居れば、理性が欠落する事も無く寿命も長くなり、子も成し易い。
それ故に、竜王が人族の王妃を拐って来ても、誰も表だって異論を唱える事ができなかったのだ。
竜王とは、その名の通り、竜族の中で最強の者が立つ。世襲制ではない。「我こそが王だ!」と思う者が竜王に決闘を申し込み、その決闘の勝者をもって竜王とするのだ。
その最強の竜王が暴れれば…誰にも竜王を止める事はできず、この竜族だけの話では済まないだろう─と言う事は安易に予想ができた─できてしまうのだ。
そうしたまま、人間の王妃は、その竜王に無理矢理“竜心”を飲まされ、身体を竜化させられ、その竜王に囚われてしまったのだ。
“竜化”─番と言うのは、必ずしも同種族とは限らない。竜族の場合、成人すると一生に一度だけ“竜心”を創る事ができる。竜の鱗の一部なのだが、その“竜心”を自分の相手や番の体内に取り込ませると、見た目は変わらないものの、身体の構造が竜化し、竜族のような力を得て、長寿にもなるのだ。
竜心を飲まされ、竜化した王妃は毎日のように泣いて暮らしている─と、噂されていたが、竜王自身は嬉しそうにその王妃を囲い、人族と魔族がやって来ると、自らも出陣し、相手を次々に蹴散らしていった。
そんな争いも、100年以上続くと、心が疲弊して来る。力が圧倒的な竜族であっても、失ったモノは少なくない。
ここまでの犠牲を払ってまで、なおも争う必要はあるのか?そんな小さな疑問を持ち始める者がいた。
「一体、この争いはいつまで続くんだろう」
「これで、一体誰が幸せになった?」
「あの日あの時、彼女が陛下の側に居れば…何とか抑えられたかもしれなかったな。」
「…今さら、そんなタラレバの話をしてもしょうがないだろう。」
その“彼女”とはー
その竜王の左腕であり、側近中の側近。力も、竜王並みでは?と言われている。彼女は竜族でも珍しい白竜である。人化すると、白い髪に瞳は青空の様な青。纏う空気も他の竜達とは違っていた。
「私が……陛下を止める。」
100年経っても、治まる気配のない争いの日々。争う意義すら分からなくなった。人族にとっては、既にあの時の王は亡くなっており、いま王として立っているのも、あの王から2人目の王である。その王も、近々譲位すると言う。ならば、このタイミングでこの争いに終止符を打ち、新たな王とは新たな信頼関係を築けたら─と考えたのだ。
その、竜王の左腕である彼女─シャノン─が、竜王不在の朝議の場で発言した。そして、その発言に、誰も反対しなかった。寧ろ─ようやく終わるのか─と、皆一様に安堵の表情を浮かべた。のだが…
「ただ…今回の挑戦は…私が死ぬか、私が陛下を弑するか…になる。」
「何を─!?」
その場が一気にざわつく。
「負けが死を意味する─とは、もう既に廃れた風習です!前回同様、どちらかが─」
「争いを治めたいのだろう?治める為には…王妃を人間に還す必要がある。それは─陛下から番を奪うと言う事だ。意味が…解ったか?」
シャノンの言葉に、今度はその場が一瞬にして静まり返った。
「まぁ─私も負けるつもりはないし…頑張るけど、私が負けたら…後は頼んだよ─アドルファス、ブラント。」
そして、その朝議から3日後、竜王とシャノンの決闘が行われた。
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