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最終章 変態紳士はいつまでも……
その後……
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辺境伯、そして辺境伯夫人の死に関して表向きにはゼロンの名前は出なかったものの御家騒動とされ、大々的な葬儀が行われており、その場にはリーンの姿もあった。
帝国が弔問と称して使者が送られて来たが、探りを入れて来ているのは明らかで、あわよくば跡継ぎであるリーンへの接触を図り辺境伯同様、帝国側に取り込もうとしていたのだろう。
「まだ、父上が亡くなったばかりなので……」
リーンにそう言われてしまうと何も言えない帝国の使者は「それでは後日に」と伝えて帰っていった。
葬儀から数日後、帝国に送られて来たラインハルト王国の使者からの想定外の知らせに、耳を疑う。
ブルクファルト辺境伯家は取り潰し、領地の後任にはフロスト第二王子が、公爵家として王家から離れた後に着任するというものであった。
フロスト自身に今の立場に不満はなく、辺境伯同様に取り入る事が出来ないのは帝国も重々理解していたようで、ラインハルト王国にクレームの一つもつけようが無く、暫く沈黙するようになる。
では、リーンはどうなったのか。
リーンは、元々旧スタンバーグ領を侯爵の爵位のまま治める事になった。
更には旧ザッツバード領もあるが、そこはレントン男爵がリーンの代行として治める事に。
リーンとアイは、暫くの間、両領地を行ったり来たりしていたのだが、ある機会から殆んどザッツバード領の方に入り浸る事となった。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
スタンバーグ領ではザッツバード領に入り浸るリーンとアイの代わりにゼファリーとラムレッダに任されていた。
魔晶石が採れなくなり貧困に陥っていたスタンバーグ領は、今やハーブの産地としてラインハルト王国内に轟くほどである。
そんな広大なハーブ農園で働く農夫達に指示を出す若い男性がいた。
「あなたー! アイリッシュ様がお越しよー!」
農園の畦道から男性を呼ぶ若い女性。服装は決して華美ではないが小綺麗な服に清潔感漂う、ちょっとふくよかな姿。
男性は女性に駆け寄ると、仲睦まじく肩を寄せ、女性に尋ねる。
「姉さんが何の用だろう?」
男性の顔にはくっきりと残る傷痕、頭は綺麗に剃られている。
男性はアイの弟レヴィであった。
レヴィは、スタンバーグ領を追い出された後、話を聞いたフロストがアイにも内緒で匿っっていた。
いつしか手柄を立てて、表だって出ていけるようにとリーンの配慮であった。
顔を白面で隠し、フロストの傍で手柄を立てる。その機会はブルクファルト攻略とすぐにやって来ていた。
彼の最大の功績は、炎の中に取り残されたラヴイッツ公爵の救出であった。
誰もが躊躇う中、迷うことなく飛び込み、公爵は大火傷を負っていたものの命を救ったのだ。
その後、公爵は彼がアイの弟だと知り、公爵家を従兄弟に継がせて自分は引退するという条件で、王様に直訴した。
そのかいもあり、今は再婚し、スタンバーグ領のハーブ農園を取り仕切るという役目を任されていた。
彼が、アイの弟であるという事を知るものは、ごく僅かであった。
「久しぶりね、レヴィ」
アイがレヴィと再会した時、今までで一番泣き崩れた。しかし、それは決して悲しみの涙ではなく、リーンとフロストに何度も感謝の言葉を述べながらであった。
「リーン様は一緒じゃないの?」
「リーン……ああ、リーンね。最初は一緒に来るつもりだったんだけど……」
アイは目線を逸らして言い淀むのであった。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「リーン様、そげなとこで何してるだ?」
ザッツバード領のナホホ村。リーンとアイの住まいにある工房の傍にある大木の枝に、下着姿一枚で縛られ吊るされているリーンを、工房の職人である男が見つけて声をかけていた。
「ふふ。ちょっと下着姿でアイの着替えに突撃したらこの通りさ」
なぜか真剣な顔つきなのが不思議に思った工房の職人は首を傾げる。
「夫婦なのにだか? うちのおっかあなんて着替え見られても眉一つ動さねのに」
「アイは照れ屋なのだよ」
リーンとアイはまだ正式な夫婦ではないが、周囲の認識では、仲のよい夫婦のように見えていた。
「待ってで、今、降ろすだ」
「ああ、ありがとう」
男が木の幹に固くくくりつけられた縄をほどくのに苦戦をしていると、背後から声をかけられる。
「何してんだい?」
「ああ、おっかあ。いいとこに。縄ほどくの手伝ってくで」
「何言ってんだい! 今、リーン様は喜んでいるんだよ。邪魔しちゃ悪い。ほら、早く行くよ!」
恰幅の良い女性は男性の腕を引っ張り、何処かに行ってしまう。
「い、いや。僕にはまだ仕事が……!」
一人、ぽつんと残されたリーンの声が虚しく響く。
巾着袋のように縄で縛られ吊るされたリーンが揺れ動くと、頬を赤く染めながら嬉しそうに笑みを浮かべていた。
いつまでも、いつまでも……リーンは、ぷらぷらと揺れ動く。
帝国が弔問と称して使者が送られて来たが、探りを入れて来ているのは明らかで、あわよくば跡継ぎであるリーンへの接触を図り辺境伯同様、帝国側に取り込もうとしていたのだろう。
「まだ、父上が亡くなったばかりなので……」
リーンにそう言われてしまうと何も言えない帝国の使者は「それでは後日に」と伝えて帰っていった。
葬儀から数日後、帝国に送られて来たラインハルト王国の使者からの想定外の知らせに、耳を疑う。
ブルクファルト辺境伯家は取り潰し、領地の後任にはフロスト第二王子が、公爵家として王家から離れた後に着任するというものであった。
フロスト自身に今の立場に不満はなく、辺境伯同様に取り入る事が出来ないのは帝国も重々理解していたようで、ラインハルト王国にクレームの一つもつけようが無く、暫く沈黙するようになる。
では、リーンはどうなったのか。
リーンは、元々旧スタンバーグ領を侯爵の爵位のまま治める事になった。
更には旧ザッツバード領もあるが、そこはレントン男爵がリーンの代行として治める事に。
リーンとアイは、暫くの間、両領地を行ったり来たりしていたのだが、ある機会から殆んどザッツバード領の方に入り浸る事となった。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
スタンバーグ領ではザッツバード領に入り浸るリーンとアイの代わりにゼファリーとラムレッダに任されていた。
魔晶石が採れなくなり貧困に陥っていたスタンバーグ領は、今やハーブの産地としてラインハルト王国内に轟くほどである。
そんな広大なハーブ農園で働く農夫達に指示を出す若い男性がいた。
「あなたー! アイリッシュ様がお越しよー!」
農園の畦道から男性を呼ぶ若い女性。服装は決して華美ではないが小綺麗な服に清潔感漂う、ちょっとふくよかな姿。
男性は女性に駆け寄ると、仲睦まじく肩を寄せ、女性に尋ねる。
「姉さんが何の用だろう?」
男性の顔にはくっきりと残る傷痕、頭は綺麗に剃られている。
男性はアイの弟レヴィであった。
レヴィは、スタンバーグ領を追い出された後、話を聞いたフロストがアイにも内緒で匿っっていた。
いつしか手柄を立てて、表だって出ていけるようにとリーンの配慮であった。
顔を白面で隠し、フロストの傍で手柄を立てる。その機会はブルクファルト攻略とすぐにやって来ていた。
彼の最大の功績は、炎の中に取り残されたラヴイッツ公爵の救出であった。
誰もが躊躇う中、迷うことなく飛び込み、公爵は大火傷を負っていたものの命を救ったのだ。
その後、公爵は彼がアイの弟だと知り、公爵家を従兄弟に継がせて自分は引退するという条件で、王様に直訴した。
そのかいもあり、今は再婚し、スタンバーグ領のハーブ農園を取り仕切るという役目を任されていた。
彼が、アイの弟であるという事を知るものは、ごく僅かであった。
「久しぶりね、レヴィ」
アイがレヴィと再会した時、今までで一番泣き崩れた。しかし、それは決して悲しみの涙ではなく、リーンとフロストに何度も感謝の言葉を述べながらであった。
「リーン様は一緒じゃないの?」
「リーン……ああ、リーンね。最初は一緒に来るつもりだったんだけど……」
アイは目線を逸らして言い淀むのであった。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「リーン様、そげなとこで何してるだ?」
ザッツバード領のナホホ村。リーンとアイの住まいにある工房の傍にある大木の枝に、下着姿一枚で縛られ吊るされているリーンを、工房の職人である男が見つけて声をかけていた。
「ふふ。ちょっと下着姿でアイの着替えに突撃したらこの通りさ」
なぜか真剣な顔つきなのが不思議に思った工房の職人は首を傾げる。
「夫婦なのにだか? うちのおっかあなんて着替え見られても眉一つ動さねのに」
「アイは照れ屋なのだよ」
リーンとアイはまだ正式な夫婦ではないが、周囲の認識では、仲のよい夫婦のように見えていた。
「待ってで、今、降ろすだ」
「ああ、ありがとう」
男が木の幹に固くくくりつけられた縄をほどくのに苦戦をしていると、背後から声をかけられる。
「何してんだい?」
「ああ、おっかあ。いいとこに。縄ほどくの手伝ってくで」
「何言ってんだい! 今、リーン様は喜んでいるんだよ。邪魔しちゃ悪い。ほら、早く行くよ!」
恰幅の良い女性は男性の腕を引っ張り、何処かに行ってしまう。
「い、いや。僕にはまだ仕事が……!」
一人、ぽつんと残されたリーンの声が虚しく響く。
巾着袋のように縄で縛られ吊るされたリーンが揺れ動くと、頬を赤く染めながら嬉しそうに笑みを浮かべていた。
いつまでも、いつまでも……リーンは、ぷらぷらと揺れ動く。
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