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二章 変態的活用法
ラブホテルか!
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お茶会は進み、会話はレントンの身の上話へと変わる。
「それでは、レントン男爵もザッツバード侯爵の反乱の鎮圧に一役買ったのですか?」
「ええ、我輩は元々は没落した男爵家だったのでな。貴族としての爵位も無くなり、先ほどアイリッシュ殿に絡んでいたプルト準男爵、あの男の下に就いて働かねばならないほどだ。
だが内乱が起きた時、これは再興の好機だと思った。
我輩は、昔の誼もあって、真っ先にブルクファルト辺境伯殿に密告したのだよ」
それからは、リーンの指揮の元、レントンは密偵として反乱の内部事情を逐一リーンへと流していた。ただ、プルト準男爵自体が積極的に反乱に加担するタイプではなく、情報集めに無理をしたのだという。
「ただ、反乱の決行日を調べた時に、バレてしまってね。辛うじて、リーン殿に伝えることは成功したが、前の妻と子供は、あのプルト準男爵に殺された……」
「その、先ほどのプルト準男爵とのやり取り見てましたけど、そんなに恨みつらみがあるようには……」
「いわば、我輩は裏切り者だ。その身内を見せしめに殺すのは当然といえば当然。プルト準男爵に非はない」
「また、貴族の機微ですか……私にはわかりませんわ」
反乱鎮圧後、レントンは男爵位を再び手に入れ復興を果たす。その後、ドゥーエを後妻として迎えたのだという。
「今や、プルト準男爵は、我輩に頭が上がらぬのさ。少しは溜飲が下がるというものだ。敵討ちなど考えてはいないさ」
しかし、そう言ったあと、レントンが寂しげに視線を下げた事にアイは気づく。ドゥーエの方を見ると、首を横に振り、これ以上聞かないでやってくれと言っているようであり、ふとした疑問を今度はリーンにぶつけてみる。
「あら? そう言えばプルト準男爵は反乱の罪に問われなかったの?」
「ああ、彼は反乱に関しては、よくも悪くも何も動かなかったからね」
「なんか納得いかないわねぇ……」
アイは遠回しに、プルト準男爵に対して報いがなかったを聞いていた。反乱のことなどどうでもよく、レントンの前妻と子供を殺した罪に関して。
アイはリーンの答えに納得行かずもどかしく思う。レントンはそんなアイの意を汲み取り黙ったまま頭を下げるのだった。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
レントン達が帰宅してから一週間。殆んど内装に興味のなかったアイは、急にリーンに頼んできた鏡の製作に精を出す。
元々、どれくらいまで大きな鏡を作れるか、興味にあったアイは言われるがまま姿見大の製作に取りかかっていた。
頼まれた鏡の数は全部で三十枚。どれだけ生産スピードが上げられかを測る必要も今後は必要だと職人総掛かりで取り組んだ。
その結果、三十枚を五日で作りあげることに成功する。
全てを納品して二日後、結果に満足していたアイは、工房で鏡の材料がドロドロと溶けた炉を覗きながら汗だくになっていた。そんなアイの元に家が遂に完成したとの報告が入る。
高温の炉の近くにいたため顔を真っ赤にしたアイは、流石に汚れた作業着のまま新居に入るわけにはいかず、一旦、工房の一角に作られたアイ専用の部屋に着替えに戻った。
「待っていたよ、アイ」
「お待たせ、リーン」
玄関扉の前で待っていたリーンと合流すると、二人は横に並ぶ。ギイィと観音開きの扉が開かれると、既に中には侍女のリムルを初め使用人が両翼にズラリと並ぶ。
リーンとアイのお付きの侍女に、清掃や家事全般を行うメイド達。二人の食事を用意する調理担当や庭師や家の家計を預かる執事まで。
「うーん、やっぱり広いわね」
狭い方が好みのアイは、真っ直ぐに伸びた広い広いエントランスに、溜め息混じりの息が漏れる。
奥行きのあるエントランスの両脇には各部屋の扉がいくつも並び、左右シンメトリーに置かれた二階へ上がる階段。床の真っ赤な絨毯には、真ん中に転々と金色の刺繍でブルクファルト家の家紋が縫われていた。
一階には食堂や調理場、使用人が暮らす各部屋に執事室とありリーンとアイのプライベートな空間は二階になっていた。
二階にはリーンの書斎や衣装部屋などがあり、二階の一番奥の突き当たりには大きな扉が一つしかなく、ここが二人の寝室だという。
「ちょっと、二人の……って、別々しゃないの!?」
「内装に口出ししなかったアイが悪い。興味無さそうだったしね。それに僕らは僕が十六になれば夫婦になるんだ。別に構わないだろう?」
アイがリーンの性癖さえ無くなれば問題はない。それに命を助けられたり、看病してくれたりと惹かれるところも。いずれは夫婦に……アイ自身は、まだ、気持ちの整理がついていなかったようで、ここに来てようやく実感が湧いてくる。
(私も覚悟決めなきゃならないわね)
目の前の扉を開くと現実味が増すことは分かっており、中々ノブに手をかけることが出来ずにいた。
「大丈夫だよ、アイ。君を泣かせるような事は決してしない。慣れるまで前みたいにベッドの間に敷居を作ってもいい」
リーンは、躊躇うアイの手を取ると真剣な眼差しを向け、一緒にノブに手をかける。
「リーン……ありがとう」
「まぁ、君の嫌がる顔を見るのは好きだから、イタズラはするけど!」
「前言撤回していいかしら?」
一度はリーンに蔑んだ目を向けたアイであったが、何だかおかしくなりプッと吹き出すと笑い始める。リーンもつられて笑うと、周りにいた使用人達は二人の門出を祝うように暖かい眼差しを向けていた。
まだ婚約者だが、これから夫婦としての第一歩として、二人は寝室の扉を開いた。
バタンと、アイが一度開いた扉を閉める。
「な……何、これ……? リーン?」
「何って、僕達の寝室だよ」
現実であってほしくないと願いアイはもう一度扉を開いて部屋の中を見る。
中央にデンと、キングサイズのベッドが置かれている。それはまだよかった。
同じベッドが天井に、そして左右に並ぶ──ように見える部屋で、床以外が、全面鏡張り。
リーンが鏡を急に依頼してきたのは、この部屋の製作のためだった。
「ら、ら、ラブホテルかここはーっ!!」
再びバタンと力強く扉を閉めたアイは、スカートの端をつまみ上げ走り出す。階段を跳ぶように降りていくと家を出ていってしまった。
再び家に戻ってきたアイの手には頑丈そうな鎖と錠前が。
扉の前に戻ってきたアイはリムルに紙と書くものを用意するように伝え、自分は扉のノブに鎖を巻き付け錠前を取り付けた。
紙とペンをリムルから受けとると、日本語で『悪霊退散』の四文字を書き自らのスカートの後ろから金づちと釘を取り出し、打ち付けた。
「アイ、これは何を書いているの?」
「『悪霊退散』って読むのよ! いい、みんな! この部屋は絶対開けないこと!!」
使用人に強く言い聞かせたアイは再びスカートをつまんで走り出す。家を出て自らの工房へと戻っていくとグツグツと煮えたぎる鏡の材料が溶けた液体の中に錠前の鍵を放り入れたのだった。
「それでは、レントン男爵もザッツバード侯爵の反乱の鎮圧に一役買ったのですか?」
「ええ、我輩は元々は没落した男爵家だったのでな。貴族としての爵位も無くなり、先ほどアイリッシュ殿に絡んでいたプルト準男爵、あの男の下に就いて働かねばならないほどだ。
だが内乱が起きた時、これは再興の好機だと思った。
我輩は、昔の誼もあって、真っ先にブルクファルト辺境伯殿に密告したのだよ」
それからは、リーンの指揮の元、レントンは密偵として反乱の内部事情を逐一リーンへと流していた。ただ、プルト準男爵自体が積極的に反乱に加担するタイプではなく、情報集めに無理をしたのだという。
「ただ、反乱の決行日を調べた時に、バレてしまってね。辛うじて、リーン殿に伝えることは成功したが、前の妻と子供は、あのプルト準男爵に殺された……」
「その、先ほどのプルト準男爵とのやり取り見てましたけど、そんなに恨みつらみがあるようには……」
「いわば、我輩は裏切り者だ。その身内を見せしめに殺すのは当然といえば当然。プルト準男爵に非はない」
「また、貴族の機微ですか……私にはわかりませんわ」
反乱鎮圧後、レントンは男爵位を再び手に入れ復興を果たす。その後、ドゥーエを後妻として迎えたのだという。
「今や、プルト準男爵は、我輩に頭が上がらぬのさ。少しは溜飲が下がるというものだ。敵討ちなど考えてはいないさ」
しかし、そう言ったあと、レントンが寂しげに視線を下げた事にアイは気づく。ドゥーエの方を見ると、首を横に振り、これ以上聞かないでやってくれと言っているようであり、ふとした疑問を今度はリーンにぶつけてみる。
「あら? そう言えばプルト準男爵は反乱の罪に問われなかったの?」
「ああ、彼は反乱に関しては、よくも悪くも何も動かなかったからね」
「なんか納得いかないわねぇ……」
アイは遠回しに、プルト準男爵に対して報いがなかったを聞いていた。反乱のことなどどうでもよく、レントンの前妻と子供を殺した罪に関して。
アイはリーンの答えに納得行かずもどかしく思う。レントンはそんなアイの意を汲み取り黙ったまま頭を下げるのだった。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
レントン達が帰宅してから一週間。殆んど内装に興味のなかったアイは、急にリーンに頼んできた鏡の製作に精を出す。
元々、どれくらいまで大きな鏡を作れるか、興味にあったアイは言われるがまま姿見大の製作に取りかかっていた。
頼まれた鏡の数は全部で三十枚。どれだけ生産スピードが上げられかを測る必要も今後は必要だと職人総掛かりで取り組んだ。
その結果、三十枚を五日で作りあげることに成功する。
全てを納品して二日後、結果に満足していたアイは、工房で鏡の材料がドロドロと溶けた炉を覗きながら汗だくになっていた。そんなアイの元に家が遂に完成したとの報告が入る。
高温の炉の近くにいたため顔を真っ赤にしたアイは、流石に汚れた作業着のまま新居に入るわけにはいかず、一旦、工房の一角に作られたアイ専用の部屋に着替えに戻った。
「待っていたよ、アイ」
「お待たせ、リーン」
玄関扉の前で待っていたリーンと合流すると、二人は横に並ぶ。ギイィと観音開きの扉が開かれると、既に中には侍女のリムルを初め使用人が両翼にズラリと並ぶ。
リーンとアイのお付きの侍女に、清掃や家事全般を行うメイド達。二人の食事を用意する調理担当や庭師や家の家計を預かる執事まで。
「うーん、やっぱり広いわね」
狭い方が好みのアイは、真っ直ぐに伸びた広い広いエントランスに、溜め息混じりの息が漏れる。
奥行きのあるエントランスの両脇には各部屋の扉がいくつも並び、左右シンメトリーに置かれた二階へ上がる階段。床の真っ赤な絨毯には、真ん中に転々と金色の刺繍でブルクファルト家の家紋が縫われていた。
一階には食堂や調理場、使用人が暮らす各部屋に執事室とありリーンとアイのプライベートな空間は二階になっていた。
二階にはリーンの書斎や衣装部屋などがあり、二階の一番奥の突き当たりには大きな扉が一つしかなく、ここが二人の寝室だという。
「ちょっと、二人の……って、別々しゃないの!?」
「内装に口出ししなかったアイが悪い。興味無さそうだったしね。それに僕らは僕が十六になれば夫婦になるんだ。別に構わないだろう?」
アイがリーンの性癖さえ無くなれば問題はない。それに命を助けられたり、看病してくれたりと惹かれるところも。いずれは夫婦に……アイ自身は、まだ、気持ちの整理がついていなかったようで、ここに来てようやく実感が湧いてくる。
(私も覚悟決めなきゃならないわね)
目の前の扉を開くと現実味が増すことは分かっており、中々ノブに手をかけることが出来ずにいた。
「大丈夫だよ、アイ。君を泣かせるような事は決してしない。慣れるまで前みたいにベッドの間に敷居を作ってもいい」
リーンは、躊躇うアイの手を取ると真剣な眼差しを向け、一緒にノブに手をかける。
「リーン……ありがとう」
「まぁ、君の嫌がる顔を見るのは好きだから、イタズラはするけど!」
「前言撤回していいかしら?」
一度はリーンに蔑んだ目を向けたアイであったが、何だかおかしくなりプッと吹き出すと笑い始める。リーンもつられて笑うと、周りにいた使用人達は二人の門出を祝うように暖かい眼差しを向けていた。
まだ婚約者だが、これから夫婦としての第一歩として、二人は寝室の扉を開いた。
バタンと、アイが一度開いた扉を閉める。
「な……何、これ……? リーン?」
「何って、僕達の寝室だよ」
現実であってほしくないと願いアイはもう一度扉を開いて部屋の中を見る。
中央にデンと、キングサイズのベッドが置かれている。それはまだよかった。
同じベッドが天井に、そして左右に並ぶ──ように見える部屋で、床以外が、全面鏡張り。
リーンが鏡を急に依頼してきたのは、この部屋の製作のためだった。
「ら、ら、ラブホテルかここはーっ!!」
再びバタンと力強く扉を閉めたアイは、スカートの端をつまみ上げ走り出す。階段を跳ぶように降りていくと家を出ていってしまった。
再び家に戻ってきたアイの手には頑丈そうな鎖と錠前が。
扉の前に戻ってきたアイはリムルに紙と書くものを用意するように伝え、自分は扉のノブに鎖を巻き付け錠前を取り付けた。
紙とペンをリムルから受けとると、日本語で『悪霊退散』の四文字を書き自らのスカートの後ろから金づちと釘を取り出し、打ち付けた。
「アイ、これは何を書いているの?」
「『悪霊退散』って読むのよ! いい、みんな! この部屋は絶対開けないこと!!」
使用人に強く言い聞かせたアイは再びスカートをつまんで走り出す。家を出て自らの工房へと戻っていくとグツグツと煮えたぎる鏡の材料が溶けた液体の中に錠前の鍵を放り入れたのだった。
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