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第五章 救済編
五話 元勇者パーティー、命を乞う
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完全に宰相のブリスティンは半目を剥いて気を失っていた。
ブクブクと太り見る影もないが、彼も元々は優秀な人材であった。
しかし皇帝を除くと実質トップに立ってからは、その優秀な知謀も私利私欲にしか使わなくなってしまい、今の現状を招いていた。
「陛下、ひとまず彼を……」
ルーカスはブリスティンを一瞥する。魔王の覇気に当てられて醜態を晒す彼を見ていたくなかった。
「うむ、誰かブリスティンを連れていけ」
連れていく場所はもちろん牢。皇帝が命を下すが、牢へ行くにはアドメラルクの近くを通り謁見の間を出なくてはならない。
誰がそんな役を引き受けたるだろうか。
「情けない……いや、それは儂の方か」
皇帝は新たに、ブリスティンを自分の目に入らない場所へと連れていくように命を変える。
近衛兵の二人がすぐに名乗りを上げてブリスティンを連れていく。
「陛下。私の首は後で差し上げるとして、まずは和睦へと動いて頂きたい。我々には時間が無いのです」
「勇者の首と魔王……どのの身柄をか」
さすがに皇帝もルーカスの意図は理解していた。グランツ王国へ、魔王と手を組んでいたそちらの勇者達の首と魔王本人の身柄を差し上げるので、手打ちにしてもらいたい、などと言ったところでグランツ王国が混乱するだけである。
まず、受け入れない。しかし、戦争を起こせば帝国は魔王を無理矢理にでも押し付けてくるか、魔王が帝国の味方をして戦争に参加してくることも考えられる。
しかも自分達は勇者を立てて魔王を退治すると世界中に喧伝した立場。
これで魔王を受け入れなければ良い恥さらしである。
つまり、グランツ王国は無条件で和睦を呑むしかないのである。
「ルーカスよ。もしグランツ王国が引き受けると言えばどうする?」
「ふっ、そんなの我が本当に行って暴れるだけよ」
ルーカスが答える前にアドメラルクが代わりに答える。本来なら皇帝の許可無しに発言するな、と言うところだが魔王相手ではそうもいかない。
皇帝は和睦を受け入れ、ルーカスを宰相へと任命するがルーカスはそれを固辞した。
「陛下はアカツキ・タシロを覚えておられますか? 私は今彼を救う為に動いております。残念ながらそれは陛下にお仕えするより最優先になるのです」
ルーカスはアカツキのこと、そして今の現状を話始める。今は戦争云々どころか、新魔王を中心に多くの魔族が攻めてくることも。
「あの転移者か……」
「はい。彼は私と娘の恩人であり、ルスカ様が最も信頼している者です。
マブチという者が勇者と名乗った真偽はわかりませんが、勇者と新魔王が手を組むという、この危機にはルスカ様の力が必要不可欠かと。しかし、ルスカ様は今はアカツキの救出に手を取られております」
ルーカスが皇帝に訴えているその横で元と言ってもいいだろう勇者パーティーのロック達は、体を寄せ合い震えていた。
「お、俺達の首とか言ってたよな!?」
「やだー、死にたくないー!」
「ロックについて来るんじゃなかった……」
三人は自分達に先が無いことを知り泣きわめく。隣でロック達を縛っている縄を持つレベッカは、呆れた顔で見ていた。
「あなた達は、仮にも勇者でなくて!? 見苦しいですわよ」
「勇者も人間なんですー、死にたくないんですー」
「うう……玉の輿にお嫁さんの夢が……」
「父さん、母さん、許してくれ……」
ロックは自棄になり、チェスターはぼろぼろと涙を溢し、マンはただただ後悔するのみ。
「あなた達、生きたい?」
レベッカの言葉に三人は縛られたまま側に行き、すがり付く。
生きていられるなら、もうなんでもやってやる、三人はそんな目をしていた。
「お父様。少し宜しいですか?」
レベッカが皇帝とルーカスの間に割って入ってくる。
本来なら女子供は……などと言うところだが、今は非常事態でもあり皇帝は娘の発言を許す。
「ありがとうございます。それでは。この勇者パーティーですが……一つ。今まではルスカ様の面倒はアカツキ様がされていたと聞きます。ですので、変わりに」
「い゛っ!?」
「え゛……」
「うそぉ!?」
またルスカの世話役を、そう思う三人だが、今回は状況が違う。ルスカが要らないと言えば自分達の首が飛ぶ。
つまりは自分達から必死に頼み込まなければならないのだ。
ところがルスカに対して自分達は砂漠に置いていくということをやらかしている。
結果は見えていた。
三人は再び体を寄せ合い、おいおいと泣き始める。もう今度こそ終わりだと……
ルーカスは筆でスラスラと和睦への書状を書き終える。元軍事のトップであり、この手の作業はお手のもの。
あとは皇帝の印と名前が書かれるだけである。
「ルーカスよ。もう一度、任命……いや、儂自ら乞おう。頼む、帝国のため宰相についてくれないだろうか」
皇帝は玉座を降りて、ルーカスの手を取る。これにはルーカスも予想外で戸惑いを見せた。
「ルーカス様。私からもお願い致します。新魔王軍が攻めてくる可能性がある今、ルーカス様が居られるだけで士気一つ大きく変わりますわ。それにアカツキ様のことも宰相の立場なら兵や配下を動かせるのではなくて?」
レベッカからもお願いされ更に私的に兵や配下を使えと言う。
ルーカスは皇帝を困った目で見るが、頷くだけで余計に困惑する。
「わ、分かりました。しかし、本当に私的に立場を振るいますよ?」
「構わぬ。それが帝国のためでもあるしな」
「そうですわ。そして、お父様。私はアドメラルク様に嫁ごうと思います」
「そうだな、それは良い考え──な、何を言い出す、レベッカ!?」
皇帝もそんな話は聞いていないルーカスも、アドメラルクに惚れていたチェスターも驚く。
アドメラルクは眉一つ動かさず、ただ腕を組んで話を聞いていた。
「元とはいえ、アドメラルク様は魔王。その力は未だに健在です。そのお力をお借りする為にも誰かが犠牲にならないといけません」
レベッカはアドメラルクの元に行き、手を取ると体を寄せ腕を絡ませる。
誰がどう見ても、犠牲というより、ただ寄り添っているだけにしか見えない。
「アドメラルクどの?」
「我は一度、協力すると約束している以上協力はしてやるが、別にこの女は要らぬ」
仮にも一国の、そして二大大国と呼ばれる帝国の姫様である。
少なくとも自信があレベッカは大いにショックを受ける。
と同時に外から爆発音が響く。
「何事だ!?」
皇帝が叫び立てるが、一向に回答を持ってくる兵士は現れない。
近衛兵に様子を見てくるように命じるが、出入り口にはアドメラルクがおり、萎縮して行きたがらない。
歯がゆさを感じた皇帝に答えたのは、アドメラルクだ。
「心配いらぬ。ただのルスカだ」
すぐに二度目の爆発音が響き、城が揺れる。明らかに城内からの爆発音にこの場所へと近づいているのが分かる。
大国と呼ばれた帝国の城が魔王に蹂躙され、幼女に破壊される。動転する皇帝のことをグルメールの王族が聞いたら鼻で笑われるだろう。
「いつものことだ」と。
入口を塞ぐアドメラルクを押しのけて謁見の間に入ってくるのはヴァレッタに抱っこされたルスカだ。
「邪魔するのじゃ」
ヴァレッタの腕から降りると、堂々と謁見の間のど真ん中を進むルスカに近衛兵どころか皇帝も言葉を失う。
話には聞いていたが、想像以上の幼女の出現に呆気に取られていた。
いの一番に動いたのは、ロック達。
「ルスカ、いやルスカ様!」
「ルスカちゃーん」
「ルスカ様」
縛られミノムシ状態の三人にすがるように取り囲まれる。
「な、なんなのじゃ! 邪魔じゃ!」
「お願いだ、ルスカ様! 何でもやるから俺達も連れていってくれ!」
「そうそう。添い寝でも荷物持ちでも何でもやるわ! だからお願い!」
「ずっと抱っこする。歩かずに済んで便利」
まさしく必死に懇願する。自分達の命運の糸は今、ルスカに握られているのだ。
しかし、「要らん!」とバッサリその糸は切られてしまい、三人の首も斬られることが決まってしまった。
ブクブクと太り見る影もないが、彼も元々は優秀な人材であった。
しかし皇帝を除くと実質トップに立ってからは、その優秀な知謀も私利私欲にしか使わなくなってしまい、今の現状を招いていた。
「陛下、ひとまず彼を……」
ルーカスはブリスティンを一瞥する。魔王の覇気に当てられて醜態を晒す彼を見ていたくなかった。
「うむ、誰かブリスティンを連れていけ」
連れていく場所はもちろん牢。皇帝が命を下すが、牢へ行くにはアドメラルクの近くを通り謁見の間を出なくてはならない。
誰がそんな役を引き受けたるだろうか。
「情けない……いや、それは儂の方か」
皇帝は新たに、ブリスティンを自分の目に入らない場所へと連れていくように命を変える。
近衛兵の二人がすぐに名乗りを上げてブリスティンを連れていく。
「陛下。私の首は後で差し上げるとして、まずは和睦へと動いて頂きたい。我々には時間が無いのです」
「勇者の首と魔王……どのの身柄をか」
さすがに皇帝もルーカスの意図は理解していた。グランツ王国へ、魔王と手を組んでいたそちらの勇者達の首と魔王本人の身柄を差し上げるので、手打ちにしてもらいたい、などと言ったところでグランツ王国が混乱するだけである。
まず、受け入れない。しかし、戦争を起こせば帝国は魔王を無理矢理にでも押し付けてくるか、魔王が帝国の味方をして戦争に参加してくることも考えられる。
しかも自分達は勇者を立てて魔王を退治すると世界中に喧伝した立場。
これで魔王を受け入れなければ良い恥さらしである。
つまり、グランツ王国は無条件で和睦を呑むしかないのである。
「ルーカスよ。もしグランツ王国が引き受けると言えばどうする?」
「ふっ、そんなの我が本当に行って暴れるだけよ」
ルーカスが答える前にアドメラルクが代わりに答える。本来なら皇帝の許可無しに発言するな、と言うところだが魔王相手ではそうもいかない。
皇帝は和睦を受け入れ、ルーカスを宰相へと任命するがルーカスはそれを固辞した。
「陛下はアカツキ・タシロを覚えておられますか? 私は今彼を救う為に動いております。残念ながらそれは陛下にお仕えするより最優先になるのです」
ルーカスはアカツキのこと、そして今の現状を話始める。今は戦争云々どころか、新魔王を中心に多くの魔族が攻めてくることも。
「あの転移者か……」
「はい。彼は私と娘の恩人であり、ルスカ様が最も信頼している者です。
マブチという者が勇者と名乗った真偽はわかりませんが、勇者と新魔王が手を組むという、この危機にはルスカ様の力が必要不可欠かと。しかし、ルスカ様は今はアカツキの救出に手を取られております」
ルーカスが皇帝に訴えているその横で元と言ってもいいだろう勇者パーティーのロック達は、体を寄せ合い震えていた。
「お、俺達の首とか言ってたよな!?」
「やだー、死にたくないー!」
「ロックについて来るんじゃなかった……」
三人は自分達に先が無いことを知り泣きわめく。隣でロック達を縛っている縄を持つレベッカは、呆れた顔で見ていた。
「あなた達は、仮にも勇者でなくて!? 見苦しいですわよ」
「勇者も人間なんですー、死にたくないんですー」
「うう……玉の輿にお嫁さんの夢が……」
「父さん、母さん、許してくれ……」
ロックは自棄になり、チェスターはぼろぼろと涙を溢し、マンはただただ後悔するのみ。
「あなた達、生きたい?」
レベッカの言葉に三人は縛られたまま側に行き、すがり付く。
生きていられるなら、もうなんでもやってやる、三人はそんな目をしていた。
「お父様。少し宜しいですか?」
レベッカが皇帝とルーカスの間に割って入ってくる。
本来なら女子供は……などと言うところだが、今は非常事態でもあり皇帝は娘の発言を許す。
「ありがとうございます。それでは。この勇者パーティーですが……一つ。今まではルスカ様の面倒はアカツキ様がされていたと聞きます。ですので、変わりに」
「い゛っ!?」
「え゛……」
「うそぉ!?」
またルスカの世話役を、そう思う三人だが、今回は状況が違う。ルスカが要らないと言えば自分達の首が飛ぶ。
つまりは自分達から必死に頼み込まなければならないのだ。
ところがルスカに対して自分達は砂漠に置いていくということをやらかしている。
結果は見えていた。
三人は再び体を寄せ合い、おいおいと泣き始める。もう今度こそ終わりだと……
ルーカスは筆でスラスラと和睦への書状を書き終える。元軍事のトップであり、この手の作業はお手のもの。
あとは皇帝の印と名前が書かれるだけである。
「ルーカスよ。もう一度、任命……いや、儂自ら乞おう。頼む、帝国のため宰相についてくれないだろうか」
皇帝は玉座を降りて、ルーカスの手を取る。これにはルーカスも予想外で戸惑いを見せた。
「ルーカス様。私からもお願い致します。新魔王軍が攻めてくる可能性がある今、ルーカス様が居られるだけで士気一つ大きく変わりますわ。それにアカツキ様のことも宰相の立場なら兵や配下を動かせるのではなくて?」
レベッカからもお願いされ更に私的に兵や配下を使えと言う。
ルーカスは皇帝を困った目で見るが、頷くだけで余計に困惑する。
「わ、分かりました。しかし、本当に私的に立場を振るいますよ?」
「構わぬ。それが帝国のためでもあるしな」
「そうですわ。そして、お父様。私はアドメラルク様に嫁ごうと思います」
「そうだな、それは良い考え──な、何を言い出す、レベッカ!?」
皇帝もそんな話は聞いていないルーカスも、アドメラルクに惚れていたチェスターも驚く。
アドメラルクは眉一つ動かさず、ただ腕を組んで話を聞いていた。
「元とはいえ、アドメラルク様は魔王。その力は未だに健在です。そのお力をお借りする為にも誰かが犠牲にならないといけません」
レベッカはアドメラルクの元に行き、手を取ると体を寄せ腕を絡ませる。
誰がどう見ても、犠牲というより、ただ寄り添っているだけにしか見えない。
「アドメラルクどの?」
「我は一度、協力すると約束している以上協力はしてやるが、別にこの女は要らぬ」
仮にも一国の、そして二大大国と呼ばれる帝国の姫様である。
少なくとも自信があレベッカは大いにショックを受ける。
と同時に外から爆発音が響く。
「何事だ!?」
皇帝が叫び立てるが、一向に回答を持ってくる兵士は現れない。
近衛兵に様子を見てくるように命じるが、出入り口にはアドメラルクがおり、萎縮して行きたがらない。
歯がゆさを感じた皇帝に答えたのは、アドメラルクだ。
「心配いらぬ。ただのルスカだ」
すぐに二度目の爆発音が響き、城が揺れる。明らかに城内からの爆発音にこの場所へと近づいているのが分かる。
大国と呼ばれた帝国の城が魔王に蹂躙され、幼女に破壊される。動転する皇帝のことをグルメールの王族が聞いたら鼻で笑われるだろう。
「いつものことだ」と。
入口を塞ぐアドメラルクを押しのけて謁見の間に入ってくるのはヴァレッタに抱っこされたルスカだ。
「邪魔するのじゃ」
ヴァレッタの腕から降りると、堂々と謁見の間のど真ん中を進むルスカに近衛兵どころか皇帝も言葉を失う。
話には聞いていたが、想像以上の幼女の出現に呆気に取られていた。
いの一番に動いたのは、ロック達。
「ルスカ、いやルスカ様!」
「ルスカちゃーん」
「ルスカ様」
縛られミノムシ状態の三人にすがるように取り囲まれる。
「な、なんなのじゃ! 邪魔じゃ!」
「お願いだ、ルスカ様! 何でもやるから俺達も連れていってくれ!」
「そうそう。添い寝でも荷物持ちでも何でもやるわ! だからお願い!」
「ずっと抱っこする。歩かずに済んで便利」
まさしく必死に懇願する。自分達の命運の糸は今、ルスカに握られているのだ。
しかし、「要らん!」とバッサリその糸は切られてしまい、三人の首も斬られることが決まってしまった。
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