上 下
42 / 249
第二章 グルメール王国動乱編

十七話 幼女、身動き取れず退屈する

しおりを挟む
「エルヴィスよ、民を安心させるのも国王の役目だぞ」

 ワズ大公は、開かれた城門の先に、こちらを覗く住民達を指差す。
住民達には馬車の豪華さから高貴な方が乗ってきたのは分かっていたが、未だに決まらない王に不安げな表情を見せていた。

 エルヴィスは、アマンダ一瞥いちべつすると、城門の上に登っていき、ワズ大公もエルヴィスの後に続いた。

 城の外からは、ワズ大公だけが見え住民達はざわめき立つ。
エルヴィスはというと、その背の低さから鋸壁のこかべが邪魔で見えていない。

 ワズ大公は、台になるものを用意するように兵士に命じるが、エルヴィスはそれを拒否して、鋸壁のこかべの狭間に登る。

 城門はかなり高い。落ちれば無事では済まない。しかし、エルヴィスはその怖さをおくびにも出さず堂々とした姿を住民に見せつける。

「私は、前国王と第二王妃の子、エルヴィス・マイス・グルメールである。
ワズ大公の信を得て、これから私がグルメール王国の新王となる!
私は誓おう!
麻薬で苦しんでいる者達には、無償で保護し国で治療や面倒を見よう!
もちろん、その家族もだ!
そして、この国に住む全ての人々に安心して暮らせる様に努めよう!
まだ若輩だが民よ、私についてきてくれ!!」

 一瞬、静まりかえる、が波打つように住民から歓声が沸き上がる。

 とても七歳と思えぬ演説っぷりにミラやリュミエールは、その背中がとても大きく見えて涙を見せる。
隣にいたワズ大公も驚きを見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、その場でかしずく。

 アカツキとルスカも初めて会った頃に、おどおどしていたパクを懐かしく思えてフッと笑みを溢した。


◇◇◇


 戴冠式の用意は元々ワズ大公用に用意していたものがあるために、それほど時間はかからないとの事だった。

 その前にやる事がある。今回の動乱の後始末である。
元第一王妃アマンダの実家は、ワズ大公の息子ラーズにより家族と共に商人ら全員捕らえられ、麻薬の栽培も見つかる。
実際の麻薬かどうかの確認は、後日ワズ大公が一旦自領に戻る時に確認する事で決まった。

 グルメールギルドのギルドマスターのマッドは、今回の事を反省し、後任が来るまでギルドマスターとして、その後ギルドを辞める事で責任を果たすとの事で決まりかけたのだが、アイシャがリンドウのギルドで引き取るという形となった。

 副マスターと受付のエルフは、犯罪奴隷として三年、その後五年の監視付きの奉仕活動と永年の首都外への外出禁止という判決が出された。

 取り巻きの大臣を始め、医者、料理人、使用人、兵隊長などは全て財産没収。
希望があれば十年以上の奉仕活動後、折りを見て復帰も考えるという。

 最も罪の重い、第一王妃アマンダとその実家の父母や兄弟は皆、死刑で決まる。
ワズ大公の進言によりアマンダの死刑は、誰よりも刑の施行を先だって実行することになった。

 多くの使用人が居なくなった為、特に麻薬中毒患者の家族を中心に雇い入れられる予定だ。

 臣下も少ない為、新たに登用する事になる。
第二王妃の取り巻きで左遷された者達は、自分らが復帰出来るものだと思っていたみたいだが、エルヴィスは結局何も動かなかったと突っぱね、領地を全て没収する事にした。

 空いた領地には、国、そしてワズ大公の領地から派遣された者が治める。
ワズ大公は叔父として側にいてもらい、ダラスもワズ大公からエルヴィスへの贈り物だとエルヴィスの側近として、仕える事となった。

 ワズ大公は自らの領地を息子ラーズに譲り、新たに首都近くの領地へと妻と娘が移るという。

 アカツキ達はと言うと、エルヴィスから再三、リュミエールからは嫌というほど、貴族として側近として婿として来ないかと誘われたが、ルスカが興味ないと固辞するとアカツキもルスカの世話があるからと断った。

 アイシャにも声をかけたが自分はギルドの者だからと、やはり固辞する。

 エルヴィス国王は、それでは面子が立たないと褒賞として、アカツキ、ルスカ、それにナックに各々に銀貨二十枚を与える。
アイシャにも勿論用意されたのだが、国王から個人で貰う訳にはいかないと、リンドウギルドに寄付という形で渡された。

 更にアカツキとルスカには、何か出来ることはないかと一国の王が頭を下げてくるものだから、アカツキから一つ、ルスカから一つお願い事を聞く。

 ちなみにルスカは当初二つお願い事をしたのだが、その内の一つ、肖像画の約束破棄は却下された。


◇◇◇


 エルヴィスの決断は早く、エルヴィス入城の二日後にはアマンダの死刑が公開で行われる。

 あれからアマンダは一言いちごんも発さず、更新台で前国王の殺害と麻薬によって首都を混乱させた事が明白となり、今まさに死刑が行われようとしていた。

 ワズ大公に促され、エルヴィスが合図を送ろうと立ち上がる。

「ちょっと待つのじゃー!」

 アカツキに抱っこされながら、ルスカが大声で死刑の実行を止める。

「アカツキ、ルスカ様、どうしたのだ?」

 エルヴィス用に用意された椅子が置かれた台から飛び降り、ワズ大公が寄ってくる。

「ワズ大公! これを見るのじゃ! 元王妃の部屋から見つかったのじゃ!」

 ワズ大公はルスカからメダルを受け取り、確認すると目を大きく見開いた。

「こ、これは……」

 メダルに描かれた見覚えのある紋様。その時、突如奇声が上がる。

「うわぁぁぁぁ! きぃいいっっ!」

 奇声を発したのは、アマンダ。突如暴れだし、乗せられた台に向かって自分の頭を打ちつけ出す。

 その奇妙な光景に見学に来ていた住民も、兵士も呆気に取られてしまう。

「自殺する気です! 止めてください!」

 唯一アカツキだけは、ルスカを降ろしアマンダの元に駆け寄る。

「兵士、アマンダを止めよ!」

 一歩遅れ、ワズ大公が叫ぶが遅く、縄で後ろ手に縛られたまま兵士を振り払い、城に向かって走り出す。

 ひどく鈍い音と共に、アマンダは城に頭を打ちつけぐったりと倒れこんだ。

 駆け寄ったアカツキが、アマンダの首に手をあて生存を確認するが、ゆっくりと首を横に振る。

「叔父上、一体それは……」

 エルヴィスがワズ大公の手にあるメダルについて聞くと、答えたのはルスカだった。

「それはな、その紋様はルメール教のあかしじゃ!」


◇◇◇


「アカツキ~、退屈なのじゃ~」
「あ、ちょっとルスカ様! 動かないでください」

 アマンダとルメール教の繋がりの謎を残しアマンダが自害した日から二日後。

 ルスカとアカツキは、城の一室で軟禁されていた。いや、正確に言うと軟禁されているのはルスカのみで、アカツキは単なる付き添いなのだが。

「ルスカ、綺麗ですよ」

 椅子に座り本を読みながらアカツキは、ルスカを見てニコニコと微笑む。

 今ルスカは、髪色に近い薄い青色のドレスに身に纏い、髪は結われリボンをし、薄く化粧もされ頬にはチークまで入っている。
椅子に座り、足を閉じて手は太股の上に重ねて置き、一点を見て軽く微笑む。

 ルスカの視線の先には一人の女性がキャンパスに向かい必死に手を動かす。

 そう、ルスカの肖像画だ。ワズ大公に頼まれたそれである。

 ルスカは、ありのままの自分で良いと訴えるがリュミエールとミラを筆頭にメイド達から着せ替え人形の様に揉みくちゃにされたのだ。
今、ルスカは微笑んではいるが、内心リュミエールとミラをどうしてやろうかと、沸沸と煮えたぎっていた。

「アカツキ~、何か分かったかのぉ」
「あー、また動く。大人しくしといてください」

 横にいるアカツキの方を向いたルスカの顔を、強引に自分の方に向かせる絵師の女性。

「こいつも、後で覚えとくのじゃ!」

 ルスカの怒りの対象に入った絵師は、背筋がとても寒くなった。

「はぁ~、それにしても退屈なのじゃ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...