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第二章 最強娘の学園生活

生かすか、殺すか

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 黄の魔王オットー相手に、ろくな武器もなく、ピート戦のような力が湧いてくることもない。
だが、アリステリアを守るのは俺の役目でもある。

 “最強娘の父”としてではなく、アリステリアの父親としての役割。

「ルナ先生、熊五郎! アリステリアを頼む!」

 水路を塞ぐように立ち、両腕を目一杯広げてみせた。

「アハッ! いいよ、別に。僕はその娘に興味ないし。だけど、タツロウくんは別。君は存在してはいけないからね」

 オットーは天井に向けていた指をゆっくりと俺の方へと向けてくる。何をしてくるのか分からないが、ピート戦の時のように死を身近に感じたんだ。

「おい! クソガキ! いつまでてめぇは呆けてやがる!」

 オットーの背後にいた複数の土竜面の魔物は、キラリと複数の閃光が走ると同時に地面へ崩れ落ちる。
そこには王都ミラージュに向かったはずのアラキとサラの二人が立っていたのだった。

「二人とも! どうしてここが!?」
「んなこと、どうでもいいんだよ!! それより、おい、クソガキ聞いてんのか!?」

 常に不機嫌に見えるアラキの顔。今は眉間にぎゅっと皺を掘り口を片方へ思い切り歪ませている。

「何しけた面してんだよ! わかってんのか? お前がしっかりしねぇと、お前の一番大事な父親を失うんだぞ!? あぁん?」
「……パパ」

 アラキの激励で焦点を見失っていたアリステリアは、徐々に視界が開けて来たのか、顔をあげ俺を見た。

「やだぁ……パパぁー」

 アリステリアは熊五郎の背から飛び降りると、一目散に俺の方へ駆け抜けて飛び付いた。

「パパぁ、死んじゃいやですぅ」
「大丈夫。パパもアリスを置いて死なない」

 俺は改めてアリステリアに強く約束をした。そのお陰もあってか先ほどまで身近に感じていた死の感覚は霧散していた。

「アハッ、勇者のアラキくんと聖女のサラさんではないか。よく見つけたねぇ、此処を」
「教えてくれたんだよ。ある人がな」

 アラキは剣を斜に構え、サラもやる気充分で両拳を胸の前で突き合わせる。
アリステリアの気力も戻って来たようだし、ルナ先生もおり、一気に有利となる。
オットーとの立場は逆転したのだ。

「アハッ、どうしよう。これは逃げられないかな? で、どうするのかな? 僕をこのまま殺してみるかい?」

 そう言ってオットーは無防備にアラキへと近づく。

「舐めてんのか? てめぇを殺せば世界の均衡が崩れるんだろうが。でもよぉ、てめぇ。俺が勇者だからって殺せねぇなんて思ってんだったら、甘ぇぇっ!!」

 アラキの剣はオットーの鼻先をかすめる。あと一歩踏み出していたならば……そう思わせるほど鋭い剣筋てあった。

「魔王さんよぉ! 喧嘩売る相手間違ってねぇか?」
「そうそう。あなたの相手はそこで睨んでいる小さな“最強娘”よ」

 戦闘態勢に入ったいたのは、何もアラキ達だけではない。俺の腕から離れ、手の甲で涙を拭いながら、オットーの元へ向かうアリステリアの後ろ姿は、実に頼もしく思えた。

「ミオちゃんは、ミオちゃんは……ママのあとをついで、したてやになるが夢だったです! それを、それを……!」
「いいぜ、思い切りやっちまいな! ここを壊してもあとは何とかしてやる!!」

 右腕をぐるぐると振り回し、アリステリアはオットーへ走り出した。

「アハッ」

 オットーはそれでも笑って見せた後、全くたじろぐ事は無かったが、一瞬その後の表情に違和感を感じた。

「アリス、止まれ!!」

 気づくと俺はそう叫んでいた。そして続けて叫んだんだ。

「皆、そいつから離れろ!!」

 駆け出していた俺は動きを止めたアリステリアを回収してオットーから離れた。

 ──よく気づいたね、アハッ!!

 その声は目の前のオットーからではなく、水路全体から聞こえて来た。

 ──よく出来た人形だろぉ? 姿形は僕そのものだけど、中身はさっきと同じ拐った奴だよ。当然、役割も“爆弾”に変えてある。

 そう、俺が感じた違和感。それは突然目の前のオットーの表情が曇った為だ。

 ──じゃあ、僕は失礼するよ。あ、そうそう。サラさんだっけ? 残念だけど縁談は破談ということで。

「はっ? 息の根止める気満々だったからすっかり忘れていたわ」

 聖女らしからぬ台詞を吐き捨てるように突き返したサラは、とても凛々しい表情をしていた。実に逞しい……。





 オットーの声がしなくなってから、俺達は悩んでいた。目の前のオットーだった・・・奴の処分についてだった。

 あれから大人しく俺達の言葉に従ってそいつはその場を動かないが、正直そいつに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 助けるにも手が思い浮かばないのだ。

 生かすべきか、殺すべきか──。

 何故か視線は勇者の役割を持つアラキでもなく、聖女の役割を持つサラでもなく、俺に集まっていた。

ーー生かすも殺すも、せめて。

「君の本当の名前はなんだ?」

 オットーに姿を変えられてしまったそいつは何も言わずに首を、ただ横に振る。そういえば、先ほどから一言も喋ろうともしないのだ。

ーーいや、喋れなくされたのか。充分あり得る。

「そうだ、ギフトカード! 持っていないのか!?」

 開能の儀で与えられる自己の証明にもなり得るギフトカード。それには名前なども書いてある。
ただオットーに回収されている可能性は高かったが、それは杞憂に終わる。

 そいつは自分の下着に手を入れてギフトカードを取り出すと、俺に向かって投げてきた。

ーー何で俺なんだ……。

 そうは思いつつも拾い上げた俺はギフトカードの名前を見て、絶句する。

 そこには間違いなく『ミオ』という名前が。

 たまたま目の前のオットーだった奴が持っていたのか、持たされたのか。その可能性は非常に高いけれども、最初に爆発したミオが偽者である可能性も無くはないのだ。

 そして、このギフトカードに書かれてあることが真実ならば、ミオが爆弾の役割に書き換えられてはいないのだ。

 ギフトカードにはハッキリと“職人・下”とあったのだ。

 つまり、少なくともオットーは全て自分の手のひらの上で人を操る為に、いくつもの嘘を重ねていることに。

 ミオの母親が憔悴しきっていた顔が思い返される。自分もアリステリアが行方不明や死んだとあっては、考えただけでも立ち眩みを起こしそうになる。

 躊躇ってなどいられなかった。

 その可能性は十分に高かった。

 ミオの姿をしたやつ以外、他の爆弾にされた人たちは起爆式、それも一度に爆発した。
だけど、その場にはこのオットーの姿のやつも居た。
にも関わらず、このオットーだけが爆発しなかったのは、そもそも爆弾に書き換えられていないということだ。

 俺はオットーに向けて腕を伸ばすとオットーの体はすり抜ける。その代わりに誰かの細い腕のようなものに手が触れると俺はすかさず握りしめ引っ張り出した。

「アリス! 受け止めろ!!」

 後方に向けて、俺はミオを投げ渡した。そして、俺の目の前に居たのは、オットーではなくあの土竜面の魔物。そして、こいつがきっと爆弾そのものの正体──。

 目の前に数字の10が浮かぶと、意識が遠退いて行った。
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