この世界の幼女は最強ですか?~いいえ、それはあなたの娘だけです~

怪ジーン

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第一章 最強の娘? いえいえ、娘が最強です

賢者の卵と賢者の父

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 賢者の卵と賢者の父という役割を持つ二人が崩れた書籍の山から助けられたのはリビングに案内されてから二時間ほど経った頃だった。

 幸い怪我はなく、本には押し潰されたが棚の下敷きにはならずに済んだという。

「いやぁ、参りましたな。随分と大きな地震だったようで」

 まず現れたのは事故に巻き込まれたにも関わらず軽薄そうにへらへらと笑う三十過ぎぐらいの男性であった。
赤茶けた髪に鼻の下にハの字になったちょび髭に、ゲジゲジの太い眉毛。

 その後ろから現れたのは、その男性とは対照的に随分と落ち着き払った眉目秀麗の少年。
男性と同じ赤茶けた髪だが、こちらはきっちりと前髪を油で固められオールバックに整えられている。
銀縁の眼鏡をかけ、細い眉がキリリと上がり、見た目から真面目で賢そうな面構えだ。

「笑いごとじゃありませんよ。危うく怪我をするところでした」

 少年は父親とおぼしき男性を窘める。

「紹介しようこの男がアイザック。そしてその息子のイシューだ」

 バルムンクから紹介を受け俺は二人にいきなり謝った。その際に地震の原因を話すと二人は唖然となっていたが、先に口を開いたのはアイザックだった。

「いやぁ、すごいお嬢さんだ。あっはっは!」

 怒るどころか感心していたアイザックは笑いながら、「よっこいせ」と腰を降ろした。

「が、がうっ?」

 アイザックが腰を降ろした場所は熊五郎の背中の上。いきなり過ぎて逆に熊五郎が戸惑っていた。

「父上、そこは椅子じゃありませんよ」
「ん? うおっ、熊が何でこんなところに?」

 イシューも至って冷静でアイザックに至ってはいきなり熊五郎の首に抱きついて力一杯撫で回す。
二人とも肝が据わっているレベルを超え、アホなのではとさえ思えて来た。

「ええっと……お二人に聞きたい事があったのですが……」

 マイペースな二人に飲み込まれないように二人を椅子に改めて座らせて俺は事情を説明した。

「なるほど。それでよく似た役割を持つ僕に話を聞きに来たのですね」

 くいっと眼鏡を上げ、イシューは淡々と答える。一方、父親のアイザックはどこ吹く風と言わんばかりに椅子に座ったまま天井を見上げていた。

「そうですね、まずは父上の事からお話しましょうか」

 イシューの話によると、父親のアイザックは元々只の漁師であり、役割も“漁師”だったという。
ところがイシューが生まれた頃より、不幸が続いたらしい。
今まで豊漁だったのが嘘のよう魚が捕れなくなり、さらにイシューが大きくなるにつれ船は沈没、アイザックは命からがら助かる。さらには働く事のなくなったアイザックを見捨て、妻が消えたとの事だった。

 最後のはアイザックの不甲斐なさに見限っただけだと思うが。

 そして父親と二人きりになり、イシューが開能の儀を受ける。
役割は“賢者の卵”となる。

 すると、事態は一変する。

 まずはサラの父親バルムンクがイシューの事を聞きつけ、好きに勉学に励む事が出来るように後見人となる。
サラは貧しいはずのアイザック親子に手を差し伸べたと聞いて「へぇ~」と感心していた。

 まあ、後にこれはイシューをサラの嫁に、賢者なら聖女と釣り合うだろうとのバルムンクの企みだったのだが、当然ばれて烈火の如く怒ったサラと、流石に弱みにつけこむようなやり方は駄目だとサラの母親にボコボコにされる事になるのだが、あくまで余談だ。

 話は戻るが、漁師の役割だったにも漁師はうまくいかなくなった代わりに、イシューを賢者にするべく周りから次々と手を差し伸べられる事になり、違和感を覚えたイシューはバルムンクに頼み、アイザックの開能の儀のやり直しの一万ピールを出してもらったらしい。

 結果アイザックの役割は“漁師”から“賢者の父”へと役割が変わっていたのだという。

「そこで、僕が思うに○○の父という役割は、○○だけじゃ成長出来ない為に、その手助けを呼び込む役割をするのではないでしょうか? そもそも僕の父上も飲んだくれて僕の役割を他人から漏らした所からバルムンク様に話が行ったので。それに、こう見えて父上は普段ちゃらんぽらんですが、勉強に良いと噂を聞いて魚を選んで捕ってきてくれますし、遠くにある他国の本等も自分で足を運んで手に入れてきてくれます」

 少し合点がいく。

 俺が『迷い子』として来た時、何の役割だったかはわからない。けれども木こりは性に合っていたし贅沢出来ずとも生活に困る事はなかった。

 ところがアリステリアが生まれて母親は行方知れず、恩のある親父さんも間もなく死んでしまった。
木こりに限界を感じていた時に、青の魔王の配下の急襲で、結局山から降りる事になってしまった。

 そしてアラキやサラと出会った。

 一万ピールという法外なお金を出してもらえたし、家を決める時にも世話になった。周りから何度も手を差し伸べてもらえたのは、イシュー達と同様だった。

「今回のサラの実家の訪問もサラがいなければ無かったしな」

 アラキやサラに改めて感謝する。

 しかし、もう一つ残った疑問はアリステリアの役割だ。

「最強娘……ですか?」

 イシューの賢者は、何となくわかる。賢い人、知識が豊富な人、そんな感じで役割を果たせるのだろう。
だがアリステリアの最強娘はよく分からない。
イシューも同じように考え込んでくれるが答えは出なかった。

「すいませんが僕もまだまだ未熟なようです。しばらく宿題にさせてもらえませんか? 賢者の卵として僕も知りたいのです」

 俺はイシューの言葉に甘える事にした。これも“最強娘の父”という役割のお陰かもしれない。

 結局“最強娘”が何なのだったかは分からなかったが、色々と収穫もあった。

 話を終えた後は、サラの独壇場で、まずは庭の破壊についてだが、塀を取り壊し庭を縮小、凹んだ場所や隆起した場所は耕して畑にして、庭の手入れで雇っていた使用人が管理することに。
それだけでは到底終わらず、賢者を支援するなら俺達にも支援しろとアリステリアのマナリア学園への入学金と授業料九十ピールを出してくれることに。

「ごめんなさい、身内のゴタゴタに巻き込んでしまって」とサラに謝られ、他にも当面の生活費と渡されそうになるが、それは断った。

 バルムンクもサラの母親も、サラが今後の為にときっちり絞るらしく、俺達は一足先に用意してくれた馬車に乗り、テレーヌ市へと戻るのであった。
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