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第一章 最強の娘? いえいえ、娘が最強です

さぁ、洗いざらい吐いてもらおうか

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 俺達四人は熊五郎を檻に入れ、外から見て驚かないように檻を布で覆う。
熊五郎を乗せた馬車を出発させて再びテレーヌ市へと向かった。

「それじゃあよぉ、その魔物が命乞いに来たってのか? 信じらんねぇなぁ」

 道中アラキにカルヴァンと出会った事を話すとやはりというか、怪訝な顔をする。
信じられないのは俺も同意であったが、今と前とは状況が違い、俺も聞きたいことがあった。

「俺やアリスは青の魔王というのが何者なのかしか気にはならなかったが、勇者であるアラキにとって魔王の居場所は気になるんしゃないか? 以前、あいつはカルヴァンは青の魔王の命令で来たって言っていたから居場所を知っていると思う」
「しかしよぉ、本当の事を話すとは限んねぇだろ?」

 その意見も同意だが、アラキやサラには開能の儀のお金をはじめ、色々世話になっており、少しでも役に立ちたいという気持ちの方がつよかった。

「それと、もうひとつ。あいつは青の魔王のことを『世界の均衡を保つ四人の魔王のうちの一人』だと言っていた。それってつまりは魔王は四人いるってことだろ? それに人の言語を理解する魔物ってのは珍しいだろう? 魔物には魔物にしか分からない事が知れる機会だろ?」

 アラキは腕を組んで悩みながらも、なるほどと納得してくれた。

 問題はアリステリアである。カルヴァンの姿を見るなり襲いかかるのではと不安がよぎる。
しかも今はお土産のカチューシャに気を取られており、話を聞いていないようで、しっかり話をしてからカルヴァンを呼びつけるべきだと思った。

 馬車は雑木林を迂回して、検問の列に並ぶ。最初に来た時よりも夜の方が人の出入りも少なく、俺達はすぐに検問される事に。

「じゃあ、悪いけど馬車の後ろを見せて」

 兵士が勝手に馬車に覆い被せた布を取ろうとするので俺が慌てて止めると怪訝そうな表情で睨んできた。

「俺が捲りますので、それで確認してください」

 そう言うと俺達の後ろに並ぶ人達から見えないようにして布を捲って見せると予想通り兵士はぎょっと驚いた。

「こ、こ、これ、大丈夫なのか?」
「檻に入れていますし、大丈夫です」
「いや、しかし……」

 兵士が渋るのも分かる気がする。何せ、よっぽど檻に入れられるのが嫌だったのか、熊五郎は牙を剥き出しにして涎をダラダラと垂らしながら低く唸り此方を睨み付けてきていたのだから。

「あー、もしかしたら兵士のお兄さんが気に食わないのかもしれないですね。街に入れないならこのまま檻から出しますか?」

 俺はわざとらしく爽やかに笑って見せた。

「え? い、いや。いい、いい。通れ、通れ!」

 ここで熊五郎を放てば自分の命が危険に晒されるとでも思ったのか、兵士はあっさりと許可を出す。正直、この兵士の検問で大丈夫なのかと不安になる位に。

 テレーヌ市に入った俺達は他の人に見られたら騒ぎになると急いで新居へと向かい馬車を走らせた。

 新居に到着すると馬車ごと庭へと入れて、すぐに熊五郎を檻から出してやった。

「ガウウウッ!!」

 檻から飛び出た熊五郎は、俺に飛びかかりガシガシと俺の頭を噛み始めた。

「ほら、今日からここがアリスちゃんのウチよ」
「わー、部屋狭いですー!」
「ふーん、まあまあいいんじゃねぇの?」

 サラとアリステリアとアラキは、俺と熊五郎を庭に残してさっさと部屋に入っていく。
結局、俺は熊五郎の機嫌が戻るまで頭を甘噛みされ続ける事になった。





「アリス、ちょっといいか?」

 熊五郎から解放された俺はすぐにアリステリアを呼んだ。埃っぽいという理由でサラとアラキが掃除をしてくれているのを手伝っていたアリステリアは、俺の傍へやって来る。

「ちっ、なんで、俺が……」

 ぶつくさと呟きながらもアラキはサラに言われるがまま、特に背の高い位置を中心に井戸から汲んできた水で水拭きしてくれている。

「アリス、カルヴァンを覚えているかい?」

 アリステリアは首を傾げて此方を見上げる。そう言えば、カルヴァンは俺にしか名乗ってなかった事を思い出して俺は、アリステリアに俺を拐おうとした怪鳥のことだと伝えた。

 一瞬険しい表情をしたが、「今から呼ぶからいきなり殴ってはいけない」と念を押して、俺は庭に出た。

 空を見上げると真っ暗で、カルヴァンの姿があるのかは分からないが、俺は天に向かって降りてこいと合図を送る。

 風切り音と共に羽の羽ばたく音が聞こえ、音もなく地面に着地する。カルヴァンを見て、やはりスイッチが入ったのかアリステリアの表情は一変するも、俺は後ろから抱きしめて足を強く踏ん張った。

「何しに来たです!」

 夜遅く静寂の街中でアリステリアの声がよく響くと、咄嗟に俺は彼女の口を塞いでなだめた。

 庭には周囲からの目隠しの塀があるとは言え、カルヴァンは俺よりも背丈があり、急いで部屋に入るように促した。

 カルヴァンに続いて俺達も部屋に戻るが、アラキやサラはカルヴァンを警戒した目で見ていて、さらに背後からアリステリアに睨まれて、まさにカルヴァンには針のむしろといったところか。

「悪いけど、椅子が壊れそうだからその辺に座ってくれ」

 今のところ怪しい動きもないが、一言も発しないカルヴァンを横目に俺は三脚しかない椅子に座り、膝の上にアリステリアを座らせた。





「タツロウ。まずは俺からこいつに質問していいか!?」

 眉間に皺を寄せ目尻をいつも以上につり上げたアラキが口火を切り、俺は「どうぞ」と促す。

「魔王について色々聞きてぇ。知っていること洗いざらい話せ!」

 アラキは怒ったような顔をしているが、意外と冷静のようだった。此方が一つ一つ質問を考えてするより、知っている事を全て話すようにさせて、カルヴァンの真意を見抜こうとしているようだ。

 カルヴァンはアラキのことを知らない。それはつまり、アラキが魔王について何処まで情報を持っているか知らないということ。
下手に嘘を吐いてもバレるかもしれないと揺さぶりをかけたのだ。

「はい……」

 すっかり、しおらしくなったカルヴァンは、そのカナリア色の嘴を開く。

「青の魔王様はこの世界の均衡を保つ四人の魔王のうちの一人。長年、封じられて来たのだが近年復活されたのだ。俺様を含む青の魔王様の配下は、その殆んどが長年ひっそりとお前達が名付けた『最果ての大陸』に住んでいて、復活された青の魔王様は、そこにフラりと現れた」
「最果ての大陸だぁ? また厄介な所に」

 アラキが怪訝な顔をするが、殆んど初めて山を降りたような俺やアリステリアにはきょとんとすることしか出来ない。

「んじゃあ、よう? その四人の魔王について全部話せ!」

 一瞬カルヴァンは嘴を閉じて気まずそうに目を逸らして床を見る。

 暫く考えてようやく嘴を開いて「伝え聞いて知っている事だけでいいか?」と尋ねて来て、俺達は頷く。

「青、赤、黄、そして黒の四人の魔王。四人とも封印されていたが、近年になり青の魔王様が復活。そして黄の魔王も復活したと聞くが、俺様は元々から青の魔王様の配下であるため、黄の魔王がどんな奴かは知らない。残りの二人も同じ。唯一知っている青の魔王様は、お前達人間のメスと同じような姿をしている。これくらいだ、俺様の知っていることは。信じるか信じないかは、そちらで判断してもらって構わない」
「……そもそもの話だが、なんで俺達に庇護を求める? 失敗したのは許されない事は分かる。アラキが勇者だからか?」

 カルヴァンは何処か言い辛そうに嘴を開く。

「その……前にその娘が『魔王様をぶっ殺す』と言っていたから……」
「確かにアリスは無敵だ。強さも、可愛さも。しかし、一人間の子供が魔王をどうにか出来ると本当にそう思ったのか? 本当の事を話せ!」

 カルヴァンは恐縮してしまい、本来の背丈に比べて随分と小さく見えた。

「あ、青の魔王様が言ったんだ。お前の傍に小さな子供が居ない時に拐えって。初めは何のことだか分からなかったが、俺様がその娘に手も足も出なかった事から、多分……魔王様はその子を恐れているのではないかと……」

 青の魔王が俺を拐う理由は分からない。ただ、アリステリアの存在を知っているのには驚くしかなかった。

 今の今までアリステリアが山を降りて人と出会う事は無かったのだから。
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