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出会い編

その四 ルスカ・シャウザード

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 危険を鑑みて家に連れてきてしまったが良かったのだろうか。
改めて考えてみるが、さすがに不味い気もする。

 見ず知らずの、まだ幼い女の子を家に連れてくるなんて、下手ををすれば誘拐。
下手をしなくても誘拐だろう。

 しかし、近くにワームが出現しているし、放っておくわけにもいかない。
幸い警察関係は避難に追われて迷子の対処なんて、後回しにされるのがオチだ。
警察に届けるのは後でいいか。

「えーっと、ルスカちゃんだっけ? 君いくつ?」
「ワシの事はルスカでよいのじゃ。年か? うーん、恐らく三百は越えておるのじゃ」

 十一歳になるほのかも、同級生に比べて小さい方だけど、幼稚園児か小一くらいに見える。
そうか三百歳か。
どおりで先程から話し方が、年寄り臭いと思っていたが。

 ルスカという子は、薄い青色……とちょっと違うが珍しい髪色に瞳も赤く輝いている。
後で調べたら、髪は藍白って色に近かった。

 持っているのも白い木の杖で、何かのコスプレなのだろうか。
となると三百歳というのも設定か。
寝室で、ほのかと人形で遊んでいる姿を見ると、やっぱり子供にしか見えない。

「ただいま~」

 玄関の扉の開く音と同じくして、どこか気の抜けた声が家の中に響く。

「疲れたぁ~、あーちゃんご飯まだ~」

 身長が百五十もないにも関わらず、そのたわわな胸を俺に押し付けてくる少女。
中学生とよく間違えられる幼い顔し、栗色のショートヘアーの少女は、これでも俺とほのかの母親だったりする。
そして、これが近所から三兄妹だと間違われる原因。

 綺麗にセットした栗色の髪を振りほどき、ご飯はまだかと、俺の胸に抱きついてくる御歳おんとし三十六歳。田代 ゆう。

「離れろよ」
「あーちゃん……反抗期!?」
「あーちゃんってなんじゃ?」
「あ、ああ。俺の名前だよ。そういや言ってなかったな。俺はあかつきっていうんだ」

 今更ながらルスカに自己紹介を済ませたのだが、それより今は母さんだ。

 そもそも反抗期なんてものは、ほのかの面倒と母さんの面倒で、何処かに忘れてきた気がする。
なにせ今、この母親は朝帰りならぬ、昼帰りなのだから。
俺自身、本当に反抗期もなく、ここまで来たなと自画自賛してしまうほどだ。

 母さんは、俺やほのかを育てる為に普段ホステスとして働いている。
しかし、さすがにワームが出現した時は早退し、こうして甘えてきてくるのは、本当に面倒だ。

 そして現在、ほのかが俺の右足に、ルスカが俺の左足にしがみつき、訴えるような目で見上げてきている。

「「「お腹、空いた!」」」

 三人は、リハーサルでもしたのかのように息ピッタリで、ご飯をご所望らしい。

「ちょっと、待ってて」

 三人にしがみつかれたまま、俺は冷蔵庫を開けると卵にハム、あとは冷凍したご飯を取り出す。

「焼き飯でいいか?」
「「「うん!」」」
「だったら、離れてくれ」

 ようやく俺から離れた三人は、中華鍋を用意する。

「ねー、あーちゃん」
「なに?」

 母さんの問いに、俺はレンジでご飯の解凍を待ちながら、卵を割ってかき混ぜつつ、気の無い返事をする。

「この子、誰?」

 三人とも息ピッタリでしたけど、お知り合いじゃなかったのですか。
などと、内心思いつつ、俺はルスカと出会った時の話をした。

「へー。ねぇ、ルスカちゃん」
「なんじゃ、おばさん」
「おばさん! 初めて言われた! あーちゃん、新鮮ね!!」

 台所に立ちながら背中で会話を聞いていた俺に、母さんは、俺の横に来てサムズアップしてくる。
普段よく呼ばれるのは、お嬢ちゃんとかお嬢さんだもんな。

「知るか!」

 料理の邪魔をしてくる母さんを軽くあしらうと、再びルスカとの会話をしに戻っていった。

「ルスカちゃんは、何歳かな?」
「それ、さっき聞いた」

 中華鍋を振りながら振り向くことなく、俺は会話に混ざる。

「何歳って?」
「三百だって」
「違うのじゃ、三百ではなく三百歳以上じゃ」

 確かにそう言ってはいたけど、そこまで細かい設定ってことは何かのアニメか漫画でも参考にしているのか。
ルスカの格好を改めて見てみるが、服は、ほのかのお古だからともかく、やはり思い至らない。

 俺はともかく、ほのかがアニメや漫画が好きだから、そこそこ詳しくなってしまったが、少なくとも俺の記憶にはない。

「そっかー。三百歳以上かぁ。何処から来たのか言えるかなぁ?」

 そうか、住所を最初に聞いていればよかったな。さすが年の功だな。

「ローレライじゃ」
「うーん」

 ローレライなんて町は聞いたことないな。あとでスマホで検索してみるかと考えていると、母さんが先に検索していた。

「うーん、ドイツにそういう岩はあるみたいだけど、住所には無いなぁ」
「ドイツってなんじゃ?」

 俺は出来上がった焼き飯を皿に盛り付け終えるとアイボリー色のテーブルの上に置かれた母さんの荷物を片付ける。
四人掛けのテーブルだが、椅子が三つしか無いのに気づいた俺は寝室から化粧台の前に置かれた丸椅子を用意した。

「ご飯出来たぞー」
「「「はーい」」」

 なぜ息ピッタリなんだと思うも、ルスカを元々俺の席に座らせ、レンゲを渡す。

「これは、なんじゃ?」
「え、焼き飯知らないの?」

 レンゲに一杯焼き飯を掬い、目一杯、口を大きく開けてレンゲを突っ込み、ポロポロと米粒をこぼす姿は、とても三百歳以上とは思えない。
そういえば、昔ほのかが使っていた幼児用のスプーンがあったな。

 俺は食器棚を漁り、奥にしまっていたプリチュアのスプーンを取り出す。

「あー、ほのかのスプーンだぁ。懐かしい」
「ルスカに貸してあげてもいいか?」
「うん」

 ほのかから許可をもらい、ルスカに渡す。レンゲより掬える量が少ないから溢すことも無いだろうと目論だのだが。

「美味しいのじゃ!」

 ルスカは目を輝かせながら皿ごと食らいつきそうな勢いで焼き飯をかきこむため、あまり意味はなかったみたいだ。
俺は床を掃除するために掃除機を準備しにいくことにした。

「異世界?」

 母さんが、掃除機を取りに行っていた俺のいない間に何を聞いたのか、とんでもキーワードが飛び出していた。

「なんだよ、母さん。異世界って?」
「ルスカちゃんのいたローレライって、ここと違う世界なんだって」
「ふーん」

 異世界なんて、また凝った設定だなと愛想笑いで、やり過ごす。
再び、席に着いた俺は焼き飯を食べながら、母さんやほのかの会話を流し聞く。

「へー、神様のせいでこっちに来たんだ」
「そうじゃ。いや、神なんて自称じゃ、偽者じゃ」

 スプーンを振り回し興奮気味に話をするルスカを、視界の端に捉えながら、俺は食事を続けた。

 神様とは、また大きく出たなと思いつつ。

「それじゃその自称神様は、どうやってルスカちゃんをここに連れてきたの?」

 おいおい、そこまで設定にこだわっている訳ないだろうに。
ルスカを追い詰めてどうする気なんだ。

「足元が崩れて……そのまま落ちてきたのじゃ」
「本当だよ。ルスカちゃん、お空から落ちてきたもんね」

 俺は思わず、焼き飯を喉に詰まらせむせる。

「ほのか、見てたのか!?」
「うん!」

 まさか……本当に異世界から? 確かに外国でもこんな髪色は見ないし、親から無理矢理コスプレをさせられていたとしても、そこまで細かい設定を幼稚園児くらいの子供が覚えられるだろうか。

「すごいねぇ。ルスカちゃん、お空飛べるんだ?」

 母さんの目が輝いているところを見ると、どうやら純粋にルスカの話を鵜呑みにしているみたいだが、あり得ないから。
真封まほうでも空を飛べるなんて聞いたことないし。
まぁ、すぐに信じるところは母さんの良いところであり、悪いところでもあるけど。

「空は飛べぬのじゃ。こう……落ちてきたところで魔法でしゃな……」
「え、真封!?」

 懸命に説明してくれているのは非常にありがたいが、聞き逃せない言葉に口を挟んでしまった。

「そうじゃ、魔法じゃが」
「世代は?」

 正直、この歳で発現するのは非常に稀だし真封学園に入学しなければならない。
年齢の上限はあっても、下限はないのだから。

「なんじゃぁ、その世代ってのは?」
「えっと……それじゃ“羽”を見せてくれるかな? それでわかるから」
「羽なぞ生えておらぬのじゃ」

 背中を見せてくるルスカと、さっきから話が噛み合っていない気がする。
“羽”の存在に気づかずに真封を使っているのなら、危険だ。
力の暴走もあるが何より、犯罪に利用される可能性もある。
そういった組織もあるのだから。
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