【黒竜に法力半減と余命十年の呪いをかけられましたが、謝るのは絶対に嫌なので、1200の徳を積んで天仙になります。】中華風BL

柚月なぎ

文字の大きさ
上 下
45 / 45
終章

四、君が好きです

しおりを挟む

 その後、天界に衝撃が走ったのは言うまでもなく、嫦娥チャングは未来永劫、月の牢から出ることを禁じられた。月神であることはそのままに、死ぬことさえ赦されない。彼女にとって十分な罰である。

 また、彼女と口裏を合わせた神官たちはその地位を剥奪され、天界から追放された。その気があれば、いつでも天仙になる機会は与えられたが、どうするかは彼ら彼女ら次第だろう。

 そして櫻花インホアは――――。



 数百年に亘り下界を騒がせていた災禍さいかの鬼の正体を暴き、結果、災いを退けたという噂がたちまち広まり、怯えていた者たちからの感謝の気持ちと、天界からの詫びも含め一気に功徳くどくが溜まり、無事に天仙となった。

 天帝に呪いの解除をしてもらい、数百年ぶりに逢う知り合いの神仙や仙女、神官たちに簡単に挨拶を済ませ、そのまま蓬莱ほうらい山へと降りていく。

 天から降りている途中、もぞもぞと胸の辺りが波打ち、ひょこっと顔を覗かせた白蛇が櫻花インホアを見上げて、改めて想う。

 櫻花インホアの髪の毛を飾るのは桜桃おうとうの薄桃色の花々で、長い黒髪の所々に散らすように飾られた花は、まるでそこに咲いているかのように生き生きとしていて美しい。衣は白を基調としているが、袖や裾は赤い線の模様が入っており、帯も白いが、その上にいつも身につけていた紫色の細い飾り紐を垂らしている。

 髪の毛を括っている小さな冠は金色だが、決して派手ではなく、むしろ彼の華やかさが百倍は増して見えた。琥珀色の瞳の端の辺りに紅色の化粧が入っており、どんな美しい天女だって、彼にはきっと敵わないだろう。

茶梅チャメイが気合を入れて着飾ってくれたんですけど、なんだか慣れません。堂に戻ったら、いつもの道袍に着替えますね、」

『それは駄目。ずっと飽きるまで見ていたい。そんな日はたぶん、一生来ないけど』

 白蛇姿の肖月シャオユエは、くるりと櫻花インホアの首の辺りにぶら下がるように身体を巻き付けると、その小さな頭だけを耳元に近付けて、そんなことを言ってくる。

「この世のどんな美しいものより、俺の眼にはあなたが特別美しく映っているけど?」

 突然、精霊の姿に戻った肖月シャオユエに驚き、櫻花インホアは空中でよろめく。その身体をそのまま抱き上げるような形で、肖月シャオユエの腕が膝の裏と肩に回される。

「本当に、君はずるい、です」

 今度は見上げる方になってしまい、櫻花インホアは頬を膨らませる。

「あなたの方がずるいよ。そんな可愛い顔をして。俺を困らせないで?」

 その意味を遅れて知った櫻花インホアは、みるみる真っ赤になり、たまらず顔を両手で覆った。

鷹藍インラン様たちの所に行くのは明日にして、今日はふたりだけでお祝いをしようよ。堂に戻ったらあなたは皆の花神様だけど、今だけは、俺の大切な愛しい一輪の花だから、」

 覆った指の隙間から、精霊の姿の肖月シャオユエをこっそりと見上げてみれば、下界にいた時とまったく変わらない姿がそこにはあった。

 青銀色の瞳。
 白髪で、正面から見ると短髪だが、後ろの方だけ尻尾のように長い。
 左耳に飾られた小さな金の環の耳飾りが、太陽に反射して光り、自然と目を惹いた。白い上衣の上に藍色の腰帯、黒い下衣を纏っていおり、下弦の月のような銀の首飾りがとても良く似合っている。

「天界でもその姿なんですね。下界での姿とまったく同じ、」

 精霊が下界でとる姿を化身と呼ぶ。化身の姿は好きに変えられるが、肖月シャオユエはそのままの姿で櫻花インホアと出逢い、天界では精霊として、今も同じ姿で傍にいる。

「あなたに逢うのに、偽物じゃ恰好がつかないでしょう?」

 ね? と顔を覗き込み、肖月シャオユエは問いかける。その子供のような無邪気な表情に、櫻花インホアは可笑しくなって、くすくすと音を立てて笑った。

「あなたに口付けするなら、俺自身じゃないと」

 言って、下降しながら櫻花インホアの唇にそっと自分の唇を乗せた。それは軽い口付けで、なんだかくすぐったかった。真下には百花ひゃっか堂の色鮮やかな庭と、桃の木、そして、修繕された立派な堂が建っていた。そこにはたくさんの花の精たちが、茶梅チャメイ花楓ホアフォンの指示の下、いそいそと宴の準備に追われている。

「やっぱり、皆でお祝いが良いかな? あんなに頑張ってるのに、主役がいないんじゃ可哀想だ」

「ふふ。ありがとう。そう言ってくれると思ってました」

 櫻花インホアは眼を細めてその光景を見つめていた。その横顔に儚さを覚え、思わず抱き上げたままの態勢で、肖月シャオユエはさらに自分の許へ隙間なく抱き寄せる。甘えられていると思ったのか、櫻花インホアは眼を細めて頭を撫でてきた。

「どうしました? なにか不安なことでもありますか? 大丈夫、あなたのことは私が守りますから」

「はは。それは心強いな、でもそんな心配はないから、大丈夫」

 契約はもうとっくに解除されてしまったけれど、これから先は、そんなものはなくてもずっと一緒にいてもいいのだと、知っている。

 だからどうか、二度とその笑顔が消えることがないように。

「あなたが好きだよ。この先なにがあったとしても、俺はあなたの傍にいると誓うよ、」

 この世の誰よりも、愛してる。
 それは、永遠に変わらぬ、想い。

「私も、君が好きです」



 その言葉は、いつだって、何回だって。
 君だけに、あげる。



   ~了~


❀✿❀✿

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!

柚月 なぎ

✿❀✿❀
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

【完結】後宮に舞うオメガは華より甘い蜜で誘う

亜沙美多郎
BL
 後宮で針房として働いている青蝶(チンディエ)は、発情期の度に背中全体に牡丹の華の絵が現れる。それは一見美しいが、実は精気を吸収する「百花瘴気」という難病であった。背中に華が咲き乱れる代わりに、顔の肌は枯れ、痣が広がったように見えている。  見た目の醜さから、後宮の隠れた殿舎に幽居させられている青蝶だが、実は別の顔がある。それは祭祀で舞を披露する踊り子だ。  踊っている青蝶に熱い視線を送るのは皇太子・飛龍(ヒェイロン)。一目見た時から青蝶が運命の番だと確信していた。  しかしどんなに探しても、青蝶に辿り着けない飛龍。やっとの思いで青蝶を探し当てたが、そこから次々と隠されていた事実が明らかになる。 ⭐︎オメガバースの独自設定があります。 ⭐︎登場する設定は全て史実とは異なります。 ⭐︎作者のご都合主義作品ですので、ご了承ください。 ‪ ☆ホットランキング入り!ありがとうございます☆

【やさしいケダモノ】-大好きな親友の告白を断れなくてOKしたら、溺愛されてほんとの恋になっていくお話-

悠里
BL
モテモテの親友の、愛の告白を断り切れずに、OKしてしまった。 だって、親友の事は大好きだったから。 でもオレ、ほんとは男と恋人なんて嫌。 嫌なんだけど……溺愛されてると……? 第12回BL大賞にエントリーしています。 楽しんで頂けて、応援頂けたら嬉しいです…✨

処理中です...