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第五章
一、花舞う宴の席で、予期せぬ遭遇。
しおりを挟む天界。
その日は、西王母の邸で、長寿と富貴を象徴する宴会として知られる、蟠桃宴会が開かれていた。名の通り、西王母に招かれた神仙たちが蟠桃を食する宴会である。
"西王母"とは、西方にある崑崙山上の天界を統べる、母なる女王の尊称である。天界にある瑶池と呼ばれる伝説の池と、蟠桃と呼ばれる丸く平たい形の桃がなる桃園の女主人でもあり、すべての女仙を支配する最上位の神と謳われている。
花神である櫻花は、配下の花の精たちと共に、毎回開かれるこの宴で舞を舞い、花を咲かせて神仙たちを楽しませるのが恒例となっていた。
他にも百鳥大仙や百獣大仙が召集されており、余興に奇鳥や仙獣たちを歌わせ舞わせたので、その庭園はより賑やかで美しいものになるのだった。これは宴会の度に見られる光景で、櫻花たちはその賑わいに更なる華やかさを添えるように、庭園の花々を咲かせて回るのだ。
「櫻花様、後は私たちに任せて、西王母様たちにご挨拶をしに行ってください。使いの者が参って、ぜひ宴の席について欲しいと言っておりました」
可愛らしい幼女の姿をした花の精のひとりが、腕を前で囲い、深くお辞儀をしながら櫻花に声をかける。艶やかな黒髪を飾るのは椿の花に似た白い山茶花で、彼女の名は茶梅という。こんな幼い姿をしているが、櫻花の配下である、九十九人の花の精たちを纏めてくれているのが彼女なのだ。
「わかりました。では、よろしく頼みます」
櫻花の髪の毛を飾るのは桜桃の薄桃色の花々で、長い黒髪の所々に散らすように飾られた花は、誰よりも美しかった。
衣は白を基調としているが、袖や裾は赤い線の模様が入っており、帯も白いがその上に紫色の細い飾り紐を垂らしている。髪の毛を括っている小さな冠は金色だが、決して派手ではなく、むしろ彼の華やかさが、いつも以上に増して見えた。琥珀色の瞳の端の辺りに紅色の化粧が入っており、櫻花はいつも以上に、花の精たちによって美しく仕上げられていた。
「あら、櫻花。今日は一段と美しいわね」
「麻姑、お久しぶりです」
十八歳くらいの少女の姿をした美しい仙女が、気さくに声をかけてきた。
彼女は櫻花とは同等の位を与えられている。その爪は、鋭く長いが美しく艶があった。彼女の作る酒は評判がよく、その美酒はこの宴では欠かせない。花も酒も天界で行われる色んな宴で必要とされ、故に、神仙たちと知り合う機会も非常に多いため、ふたりを知らない者はほどんどいないだろう。
「そうそう、さっき、嫦娥様が西王母様に、宴から退席するように言われていたらしいわ。それで少し騒ぎになっていたんですって。あなた、なにか聞いている?」
「いえ。でもおふたりは、昔からあまり良い関係ではなかったと記憶してますが、」
噂では昔、西王母が彼女の夫に送った不死の薬を、こっそり盗んで飲んだとか。発覚するのを恐れた彼女は、月に逃げて月神になったとか。それからは、仙女を文字って蟾蜍などと陰で言われているとか。ただどの噂も、別に西王母が流したわけではなく、彼女の周りの神仙たちが、西王母と同じ位である嫦娥を、陥れるために流したという噂もある。
いずれにせよ、どれも噂であり真実かどうかは怪しい。ただひとつ言えることは、ふたりは昔からの知り合いではあるが、仲良しではないということ。
「これから西王母様の所に行くのでしょう? それとなく話を聞いてみてくれない? 私、次に開かれる嫦娥様の宴に呼ばれているのよ。あのひとの機嫌を損ねると、良いことがないから。お願いね、櫻花」
「····うーん。私は、あんまりそういう話は得意ではなくて、」
「ふふ。聞き耳たててればいいのよ。噂好きの神仙たちが勝手におしゃべりしてくれるわ。じゃあ、また後で逢いましょう」
ひらひらと手を振って、麻姑は次の席へと行ってしまった。彼女の右腕には瓶が抱えられていて、その中には酒が入っている。この庭園は広く、何か所にも渡って席が設けられていた。その席を回って歩くのだ。去って行く彼女とは反対方向へと櫻花は歩いて行く。立派な赤い橋。その下を流れる小川は澄んでいて、泳いでいる魚がちらほらと見えた。
邸の方へと進む間に、何人もの神仙たちと言葉を交わし、その度に櫻花は笑顔で対応していた。そんな中、邸の少し手前の辺りで、人波が途切れる場所があった。ふと、足が止まる。
その場所だけに誰も近寄ろうしない理由が、すぐに解った。そこにいたのは、先程、退席されられたと言っていた月神である嫦娥と、もうひとり。
血のように赤い瞳をした、幼子がいた。
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