【黒竜に法力半減と余命十年の呪いをかけられましたが、謝るのは絶対に嫌なので、1200の徳を積んで天仙になります。】中華風BL

柚月なぎ

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第四章

六、俺に教えてくれる?

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 櫻花インホア肖月シャオユエは、手が汚れるのも気にせずに、ひとりひとり丁寧に弔っていった。その悲惨な状態に込み上げてくるものがあったが、なんとか村中にあったすべての骸と欠片を並べ終えた。

 ばらばらになっている者が多く、どれが誰のものかまではさすがに解らず、ただそうやって集めた骸を並べてみれば、その数は九十九人分あった。赤く染まってしまったその手と道袍を洗う余裕もなく、櫻花インホアは愕然とした。その殺され方もそうだが、数まで一緒となると、さすがの自分でも察しがついてしまう。

(まさか······でも、あの子は、)

 真っ青になっている櫻花インホアを心配して、肖月シャオユエは民家から借りてきた桶と水、それから布でその手を綺麗にしてやる。
 道袍や左手に巻いている包帯は、新しいものを調達するのが良いだろう。

「大丈夫? 顔色が悪い。あとは俺に任せて、あなたは休んでいて?」

「私は、大丈夫です。それよりも、この惨劇を起こした者に、心当たりがあります」

 どういうこと? と肖月シャオユエ櫻花インホアの手を丁寧に拭きながら、首を傾げる。

「あの日、天界で。私の配下であった九十九人の花の精が殺された件と、関係があるかもしれません」

 あの夢の断片を共有した肖月シャオユエに、もはやこれ以上隠す必要もないと、櫻花インホアは何かを決意する。

「あなたを追放した神サマのこと?」

 はい、と櫻花インホアは頷いた。夢の中で見たのは、折り重なった無残な骸の山と血で染まった石楠花シャクナゲ。女の姿をした神を殴り、感情のまま罵った櫻花インホア。そして、勝ち誇ったかのように嫌な笑みを浮かべた女が、櫻花インホアに向かって追放を言い渡す、あの印象的な場面が頭に浮かんだ。

 しかし女の神は追放はされず、ただ位を落としただけだった。あれだけの事を起こしておいて、その程度で済んだ理由があるはず。それに、天界で殺生は禁じられている。虐殺は大罪だ。すべて櫻花インホアのせいにしたにしては、それはそれでおかしな話だった。

「彼女は確かに首謀者ですが、その実行者ではないのです」

 肖月シャオユエは血で汚れた桶の水を捨ててひっくり返すと、櫻花インホアに座るように促す。

「ゆっくりでいいよ。安心して? 俺は、あなたの傍にいるから」

 桶の上に腰掛けた櫻花インホアの右手を取って、肖月シャオユエは片膝を付いて見上げる。俯いたままの櫻花インホアの顔がはっきりと見え、それが苦痛で歪んでいるのが解かった。握り返してくる指先が微かに震えていて、大丈夫、と肖月シャオユエはその上にさらに左手を重ねた。

「彼に初めて会ったのは、西王母せいおうぼ様の宴の席。当時まだ幼かった彼は、月神である嫦娥チャング様の従者のひとりとして、彼女の後ろに付いてまわっていました。けれどもその幼子は、ただの幼子ではありませんでした」

「どういうこと?」

「その幼子は、鬼神おにがみだったんです。鬼神おにがみの力が何かのきっかけで暴走し、あの惨劇が起こったんです。そのきっかけを作ったのは、彼女で間違いないのですが、それを証明するすべはありませんでした」

 そして事件の後、彼が行方知れずとなってから、地上では恐ろしい鬼神おにがみの噂が広がり始める。それに運悪く出会ってしまったせいで殺されたり、喰われた人間や仙人、精霊は、数えきれないほどだったと聞く。もはや災厄に等しい存在。天界の者たちは、いつしか彼の事を"災禍さいかの鬼"と呼ぶようになる。

「天界はその災禍さいかの鬼を、この数百年、ずっと追っていたようです」

「そんな奴がどうして、」

「災禍の鬼の狙いは、私でしょう。わざわざこの村を選び、骸を九十九体用意して、あの日を再現したつもりなのです。あの日、殺せなかった私を、殺すために」

 肖月シャオユエは言葉を失う。どうしてそんなことをしてまで、櫻花インホアを苦しめるのか。なんの怨みがあってこんな、なんの関係もない人間たちを無残にも殺したのか。

櫻花インホア。あなたが、どうして天界から追放されたのか。あの日から、あなたを苦しめているモノを、俺に教えてくれる?」

 なぜ、月神は櫻花インホアに嫉妬心を抱いたのか。ひとつ間違えば自身がどうなるか解らない、そんな危険な賭けに出たのか。櫻花インホアは小さく頷き、重たい口を開いた。


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