【黒竜に法力半減と余命十年の呪いをかけられましたが、謝るのは絶対に嫌なので、1200の徳を積んで天仙になります。】中華風BL

柚月なぎ

文字の大きさ
上 下
15 / 45
第二章

二、いや、あやしすぎるだろ!

しおりを挟む

 櫻花インホアたちが出て行った後、急に静かになった空間で、鷹藍インランは次の客人を迎い入れていた。先に到着したのは、黒衣を頭からすっぽりと纏った人物で、天帝から直々に指名された武神と聞いている。名も素性も教えられていないが、天帝曰く、"信頼できる者"とのことだ。

 遅れて、黒装束を纏った不機嫌そうな面持ちの黑藍ヘイランと、白装束を纏った、無表情の白藍パイランが並んで現れた。

 黑藍ヘイランは、ひとであれば十八歳くらいの秀麗な青年の姿をしており、腰まである長い黒髪は白い髪紐で纏め、目付きは悪いが大きめの金の眼が特徴的だ。白藍パイランは、十代前半くらいの美しい少年の姿をしており、肩までの綺麗に切り揃えられた白髪と瑪瑙色の瞳が、その無表情も相まって冷たい印象を与えている。

「至急の用と聞き参りましたが、」

 傍らに立つ黒衣の人物に視線だけ向け、怪訝そうに白藍パイランが口を開く。

「····一体どんな厄介事で?」

 何か言いたそうな黑藍ヘイランの視線も、同じ場所に注がれる。
 鷹藍インランは、このふたりには何を言っても納得してもらえないような気はしたが、一応事情を簡単に説明し始めた。

「ふたりは"災禍の鬼"という存在を知っているかい?」

 黑藍ヘイラン白藍パイランの表情に少しだけ緊張感が生まれる。

「数百年前に大虐殺を起こして天界から追放され、その後地上で多くの災いを齎し、厄災級の鬼となった鬼神おにがみのこと、ですよね」

「確か、百人近い数の天界の者を殺して逃げたっていう、あの?」

 ふたりの見解はそれぞれだったが、どちらも間違いではないと、鷹藍インランは深く頷いた。

「天帝も天界もずっと彼を追っていて、この数百年間、噂だけがひとり歩きしている存在だ。それが最近、北の方で動きがあったようでね。君たちには様子を見に行ってもらいたいと思っている。これは天帝直々の依頼で、そこにいる者は同行者として使わされた武神だ。事の真意を見極めて、報告してもらいたい」

 ふたりは、先程から気になっていた黒衣で顔を隠している人物の素性をようやく知ることができたわけだが、黑藍ヘイランはたまらず、ずっと思っていたことを口にする。

「いや、あやしすぎるだろ!」

 それには、白藍パイランも素直に頷く。

「それは、····否定しないが。天帝の使いだから、失礼のないように頼むよ」

 鷹藍インランは苦笑しながら、黒衣の者をちらりと見上げる。座っている鷹藍インランの位置からも、その表情は見えず、自分も内心気になっているのだが、確かめようがなかった。

「せめて名くらいは言えるだろう? 武神なら、俺たちと位はそんなに変わらない。それとも名乗れない事情でも?」

 自分よりも少しだけ背の高いその黒衣の人物に、黑藍ヘイランは態度だけは見下すように訊ねる。しかし、その者は微動だにせず、感情を少しも揺るがすことなく沈黙を保った後、ゆっくりと口を開いた。

「名は、····天帝からの許可がないと名乗れません。けれども、呼び名がなければおふたりも不便でしょう。私のことは、辰砂チェンシャと、」

辰砂チェンシャ? 変な呼び名だな」

「確かに変。君は、色々、変な存在」

 本当に武神? という疑いの眼差しで、白藍パイランは見据える。

「とにかく、任務は任務だから、しっかり頼むよ?」

 お任せを、とふたりは儀式的な礼をした後、辰砂チェンシャと共にその場からすっと消えた。

 この三人で本当に大丈夫だろうか······。先に見送った櫻花インホアたち以上に不安を覚えつつ、鷹藍インランはまたもや大きく嘆息するのだった。


******


 数日前。

 北のとある小さな村で起こった、惨殺事件。発見したのは、その地をたまたま見回りしていた天仙のひとりだった。

 その小さな村から漂う、鉄の臭いに混じった腐臭。その凄惨な光景に、天仙は言葉を失う。そこには誰一人として生きている者はおらず、ちらばった肉片や血痕に思わず口を押える。

 その光景は、かつて天界で行われた大虐殺の現場と酷似しており、その噂だけしか知らない天仙でさえそれだと確信するほどの、悲惨さ。

 この村は襲われてから数日が経っていたこともあり、所々に飛び散っている大量の血は、地面や民家の壁に黒くこびり付いてしまっている。

 今まで噂ばかりが先行し、実際にその現場を見た者はいなかった。

 故に、その天仙は身の危険を感じる。早々に鳥の姿をした知らせの光鳥を天に放ち、自身も踵を返す。

 なぜ、誰も見た者がいないのか。その理由を知っていたからだ。

 見た者がいない・・・のではなく、いなくなった・・・・・・、というのが真実。つまり、それを見た者は、消される。

 ぞくりと背筋が凍るのを感じた。

 それも束の間、声を出す間もなく、その天仙の四肢がいくつもの肉片となり、バラバラと地面に崩れ落ちた。暗闇から伸びてきた何本もの赤黒い触手が、鋭い刃の形を作って天仙を亡き者にしたのだ。

 天仙は決して弱くはない。それが一瞬にして命を奪われたのだから、相当の手練れか、神と名の付く存在に違いなかった。

 触手は肉片と化した天仙に満足したのか、暗闇の先へと静かに戻って行く。光鳥は難を逃れ、天へとその存在を告げた。

 この一連の惨劇は、あの"災禍の鬼"の仕業に違いない、と。



 黑藍ヘイランたちは、光鳥が放たれたとされる場所へ向かった。
 しかし、そこには報告にあった凄惨な光景どころか、死体やバラバラにされた肉片、血の一滴も見つからなかった。

「一体、どういうことだ? 死体どころか、ただの寂れた廃村じゃん」

「確かにここから、光鳥は放たれたんだよね?」

 光鳥は放たれた場所を正確に特定できる。白藍パイランはそれを知っていてもなお、疑ってしまう。そんな呆然としているふたりをよそに、辰砂チェンシャが辺りを見回し、ひとりで動き始めた。

「あいつ、なにをしているんだ?」

「僕が知るわけないでしょ。それより、なにもないならないで、なかったという事実をちゃんと見極める必要はあるよ。それが任務だからね」

「って、言ってもなぁ····ん?」

 黑藍ヘイランが面倒そうに、何の気なく自分の足元に視線を落とす。

「なんだこれ?」

 それを拾い上げ、目の前に翳してみる。白藍パイランも、同じく黑藍ヘイランの手元を見つめた。

「····これは、」

 見る角度によって反射し、不思議な色合いを浮かべる石の欠片のようなものに、白藍パイランは眼を細めた。黑藍ヘイランは首を傾げ、なにかわかったような顔でその欠片を見上げてくる背の低い白藍パイランを不思議そうに見下ろす。

 その答えは口にせず、顎に手を当てて考え始めてしまった白藍パイランに苛立ち始めた頃、辰砂チェンシャがこちらに戻って来た。

幻鏡げんきょう石の欠片が、いくつか落ちていました」

「そう。じゃあ答えはひとつだね」

 ふたりで納得している様子に、黑藍ヘイランはむっとした顔でその間に割って入る。

「俺にもわかるように説明しろ!」

 ものすごく腹が立つ! と子供みたいに癇癪を起す黑藍ヘイランに、ふたりはやれやれと肩を竦めるのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません

めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。 家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。 しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。 調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。 だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。 煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!? /////////////////////////////// ※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。 ///////////////////////////////

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

処理中です...