11 / 45
第一章
六、とっておきの最終手段で、あなたについて行きます。
しおりを挟む抱き寄せたまま、遠回しに「お断り」をされた肖月だったが、綺麗な顔に微笑を浮かべたまま、じっと櫻花を見つめてくる。
(ちょっと言い方は間違えてしまったけれど、伝わったはず、ですよね?)
小首を傾げて、櫻花はその青銀色の瞳を不安げに見つめ返す。しかし、自分を放してくれる気配がない。拘束されているわけでもないので、逃げようと思えば逃げられるのだが。
「えっと、君は、」
「肖月、だよ」
間髪入れずに肖月はにっこりと笑う。
「····肖月は、私の手助けをしたいのは、私の事が好きだからと言いましたが、ちなみに好きというのは、どういう意味の"好き"ですか?」
とりあえず、櫻花は訊ねてみる。ひととして好き、とかそういう意味の好きであることを想像していた。
「あなたに命をあげられるくらいの、"好き"だけど、それってなにか関係ある?」
想像以上の"好き"の度合いに、櫻花はゆっくりと右の蟀谷を人差し指で揉む。思っていたのと、だいぶ違った。
「······私には重すぎますので、本当に、結構です。なので、本当に申し訳ないのですが、契約は解除していただけますか?」
「いいけど、じゃあ、俺を殺してくれる?」
「····ええっと、なぜ?」
肖月はなんでもないというような顔でそんなことを言うので、ますます櫻花は困惑する。
「そういう契約にしたから?」
「なんで疑問形なんです? 一体どんな契約にしたんですか?」
半分諦めた様子で、櫻花は歩き出す。それに合わせて肖月も並んで歩く。相変わらず距離が近いが、慣れてきたのか、櫻花は気にせずに進む。
「契約は、俺が得た功徳をすべてあなたに捧げることと、あなたのために生きること。それからこの契約は、あなたの呪いが解けるか、俺が死ぬまで解除されないようにしてあるんだ」
「呪いが解ければ、解除されるんですか?」
そうだよ、と肖月は楽しそうに言う。
それを聞いて、後ろで手を組んだ櫻花がくるりと笑顔で振り向く。
「なら、ここでお別れです。その内容であれば、一緒にいる必要はないようですし、そもそも、私はひとりが好きなんです」
右側があの町へと続く道。左側が違う町へと続く道。左右に続く道の真ん中で、櫻花はそう言った。先程まで商隊がいた場所だ。時間が経っていたのもあり、あの騒動でついたであろう大小さまざまな足跡が、今はもう薄っすらとしか残っていなかった。
櫻花は、ひとりが好きだと言った時、どこか寂し気な表情を一瞬浮かべたが、すぐに元の穏やかで優し気な表情へと戻る。
その微かな変化に、肖月が気付かないわけがなかった。
櫻花が再び背を向け、ゆっくりと一歩を踏み出したその時————。
ぽん、という間の抜けた音と共に、辺りが白い煙に包まれる。櫻花は何事かと目の前の状況に驚くばかりで、呆然と立ち尽くしていた。
その白い煙が晴れた頃、肖月の姿はなく、夢か幻だったのかな、と呑気に笑みを浮かべた櫻花だったが、次の瞬間、その笑みが固まった。
雪と同化していてわかりづらかったが、地面の上でぐったりとしている白蛇がそこにはいた。
どうして突然蛇の姿に? と櫻花《インホア》は慌てて駆け寄り、その場にしゃがみ込む。白く染まった地面の上で、ぴくりとも動かないその白蛇を、両手で掬い上げるようにそっと膝の上に乗せた。
「まさか、······冬眠?」
自分で言って、櫻花は首を傾げる。白蛇はあたたかく、しかしその小さな瞳は閉じられていた。
蛇は気温がある一定温度を下回ると、冬眠を始めるという。
こんな場所に放っておくこともできず、櫻花はとりあえずあたためてあげようと思い、道袍の腹の辺りに白蛇をしまう。
(なんだか腑に落ちませんが····とにかく町に戻りましょう)
白蛇の姿になって動かなくなってしまった肖月を連れて、櫻花はとりあえず人気のない夜の森を歩き出す。
櫻花の懐の中でぬくぬくと暖をとりながら、肖月は眠ったふりをしていた。櫻花は優しいので、きっと自分を置いては行かないだろうという確信があった。
(あたたかいな、)
そのぬくもりに甘えながら、肖月は眼を閉じる。
ふりをしていたつもりが、気付けば本当に眠ってしまっていた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
【完結】後宮に舞うオメガは華より甘い蜜で誘う
亜沙美多郎
BL
後宮で針房として働いている青蝶(チンディエ)は、発情期の度に背中全体に牡丹の華の絵が現れる。それは一見美しいが、実は精気を吸収する「百花瘴気」という難病であった。背中に華が咲き乱れる代わりに、顔の肌は枯れ、痣が広がったように見えている。
見た目の醜さから、後宮の隠れた殿舎に幽居させられている青蝶だが、実は別の顔がある。それは祭祀で舞を披露する踊り子だ。
踊っている青蝶に熱い視線を送るのは皇太子・飛龍(ヒェイロン)。一目見た時から青蝶が運命の番だと確信していた。
しかしどんなに探しても、青蝶に辿り着けない飛龍。やっとの思いで青蝶を探し当てたが、そこから次々と隠されていた事実が明らかになる。
⭐︎オメガバースの独自設定があります。
⭐︎登場する設定は全て史実とは異なります。
⭐︎作者のご都合主義作品ですので、ご了承ください。
☆ホットランキング入り!ありがとうございます☆
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【やさしいケダモノ】-大好きな親友の告白を断れなくてOKしたら、溺愛されてほんとの恋になっていくお話-
悠里
BL
モテモテの親友の、愛の告白を断り切れずに、OKしてしまった。
だって、親友の事は大好きだったから。
でもオレ、ほんとは男と恋人なんて嫌。
嫌なんだけど……溺愛されてると……?
第12回BL大賞にエントリーしています。
楽しんで頂けて、応援頂けたら嬉しいです…✨
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる