【黒竜に法力半減と余命十年の呪いをかけられましたが、謝るのは絶対に嫌なので、1200の徳を積んで天仙になります。】中華風BL

柚月なぎ

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第一章

三、見知らぬひとに、奪われました。 ※注

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「仙人様! 本当にありがとうございましたっ」

「助かりましたーっ」

 う、うん? 荷台の上で櫻花インホアは商隊たちに囲まれ、称えられる。

「えっと、私は何もしていなくて、」

「そんな謙遜なさらず! みんな、今の内にそいつらを捕らえるぞ! きっとこいつらが俺たちの仲間を殺した犯人だっ」

 その指示に従い、荷台にあった縄を取り出して、地面に転がっている者たちを次々に縛っていく。顔を覆っていた黒い頭巾をはぎ取り顔を確認するが、誰も彼らの顔を知らなかった。
 つまりは、金で雇われた者たちということ。

「この恩は一生忘れません! うちの若旦那に頼んで、仙人様にお礼をしないと」

「いえ、本当に私ではなくて、」

「皆、荷を運ぶのは中止だ! こいつらを連れて行くぞっ! 仙人様、当分はこの町にいますよね? いや、いてくださいよ! 絶対ですよっ」

 櫻花インホアは大きくため息を吐き出す。彼の目に映ったものは、囚われている者たちが見ていたものと同じだった。

 複数の白い蛇が突然現れ、男たちを縛り付けたと思えば、そのまま地面に転がらせたのだ。

(何を言っても、信じてはもらえなさそうですね。とりあえず、これで事件は解決するでしょうから、まあいいか)

 荷台から降り、馬の鼻筋を撫でる。馬はご機嫌なのか櫻花インホアに顔をすり寄せてくる。

 ぽんぽんと軽く手を弾ませ、喜んでいる商隊たちを眺めた後、その場から静かに去った。

 舞う粉雪は桜の花びらのように美しく、どこか儚かった。


******


 雪は静かに地面を白く染めていき、一歩進むたびに足跡が残る。

 櫻花インホアはどんどん森の奥へと進んで行く。なんとなくだが、この先にいる気がしたのだ。そしてそれがただの勘でないことを知る。

「さっきのは、君がやったんですよね?」

 白い雪で薄っすらと色付いた地の上に、そのひとはいた。"ひと"なのか、ならざる者なのかは解らない。その"ひと"は青銀色の瞳でこちらを見つめてきた。

 どう見ても二十代くらいなのに白髪で、正面から見ると短髪だが、後ろの方だけ尻尾のように長い髪が風で揺れている。

 白い上衣と黒い下衣を纏っていて、腰帯は藍色。下弦の月のような銀の首飾りを下げている彼は、この世の者とは思えない美しい容姿をしていた。

 雪と混じって、その中で佇む彼の姿は、まるで。

(まるで、雪の精のよう、)

 纏っているもの以外は、なにもかもが真白く、儚い雪のようだと櫻花インホアは思った。彼はこちらにゆっくりと近付いて来る。不思議と、怖くはなかった。

 何者かもわからないというのに、ただ一度助けてもらったというだけで信用するのはどうかと思うが、それでも、恐れることはないと頭の中の自分が言う。

「俺が手を貸さなくても、あなたはきっと大丈夫だったと思うけど、」

「そうですね。私は昔から運が良い方なので、なんとかならなくても、なんとかなってしまう事が多いんです」

「はは。それは面白い体質だね」

 彼は、本当に楽しそうに笑ってそう言った。そうしている間に、櫻花インホアのすぐ目の前で立ち止まると、右手をこちらに伸ばして来た。

 さすがに警戒して、櫻花インホアは一歩下がろうとするが、その足が降り積もった雪でずるりと滑った。その反動で後ろに倒れそうになる櫻花インホアを、白髪の青年が伸ばしていた方と反対の腕を腰に回して、そのまま抱きとめる。

「大丈夫?」

「すみません、滑ってしまいました····あはは」

 ありがとうございます、と櫻花インホアは礼を言う。なんと間抜けなのだろうと自分でも反省する。

「警戒しなくても大丈夫だよ。俺は、あなたの手助けがしたいんだ」

「なぜです?」

 なかなか放してくれない不思議な雰囲気を纏った青年に、間髪入れずに訊ねる。ものすごく近い距離で、青年は櫻花インホアを見つめてきた。

 その見たこともない青銀色の瞳に、吸い込まれそうになる。そんな感覚は、今まで長く生きてきたが初めてだった。

「あなたが、好きだから」

「はい?」

「初めて会った日から、ずっと」

 気付いた時には、その唇が塞がれていた。その優しくも深く、荒々しい口付けに、櫻花インホアはもはや自分がどうなっているのかもわからなくなる。

 そのまま力が抜けて、崩れるように地面に膝を付く櫻花インホアを抱き寄せたまま、青年も同じようにゆっくりと膝を折り地面に跪くような格好になるが、まったく口付けを止める気配がない。

 偶然か、それとも必然か。
 最強に運が良かったのか、それとも最高に悪かったのか。

 櫻花インホアは見知らぬ白髪の美しい青年に、長い人生で初めて、その唇を奪われてしまうのだった。


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